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第6話 ダグス島5 訓練

今日からまた日課の復活だ。


というのは、俺は焦っていたんだろう。

中腹までの山登りの途中、俺は足を挫いてしまった。いわゆる捻挫だ。

しっかりと足首が腫れあがってしまった。

帰りが遅い俺を心配しにきたアイリスが迎えに来てくれた。

俺はアイリスにおんぶして貰いながら洞窟まで帰っていった。


その帰路の途中、アイリスは「だから言ったじゃないか。」って少し怒っていた。

焦って急ぐ事よりまずはじっくりしないと怪我をしてしまうよって言ってくれていたな、と。

その通りだった。

でも、まあ、

ああやって怒ってくれた事に、俺はその時は拗ねていたけれど、洞窟でゆっくりしている時には、なんだか少し嬉しくもあった。

まるで自分の父親に怒られている様な気がしたから。

アイリスもそう思ってくれてるのかなあって、少し気になった。


ようやく足の腫れも引いて、アイリスからもちゃんと注意をされた上で、今日からまた訓練だ。


あれからまだ、俺は魔石の謎をアイリスには伝えていない。

アイリスは魔石の話をしてからは、肉と一緒に魔石も見せてくれるようになった。

それでも見せてくれる魔石は、俺の中では日々その都度ほんの微妙に色が違っていた。

アイリスはいつも魔石の大きさについては話してくれるが、色の違いについては何も説明していない。


俺は一度だけ、わざと聞いてみた。


「これって何色っていうの?」って。


「薄い紫色かな。言葉がわからなかったのかい?」


「うん。実はそうだったんだ。ごめんなさい。」


「良いんだよ。ナキ、もしもわからない言葉とかあったら素直に教えてって聞いてくれて良いよ。ナキはまだ子供なんだから知らなくて当たり前なんだから。

今まで僕はナキがやたらと大人っぽくて、何だか僕より大人だなって思う時があって。変だよね?でも不思議とそう感じる時があって。だからナキが子供っぽいところがあるのは新鮮なんだ。」


「まだ9歳だからね。」


「そうそう。本当は違うんじゃないかって。」


そう言ってアイリスは笑った。


俺は前世を含めればもうすぐ35歳になるよ…。


本当は色自体は知っている。

ただ、俺にはこの魔石は黄色にしか見えない。

たぶんアイリスは、すべての魔石が薄い紫色にしか見えていないんだと思うけど、俺には黄色や橙色、確かに紫色の物もある。

その色の違いが、どうして違うのかまでわからない以上は、アイリスに言うべきでもないと思っている。

そうじゃないと、もしかしたらアイリスが俺を得体の知れない存在だって思ってしまうかもしれないからだ。

今はそう思われたり疑われたりされるのにはデメリットしかない。


もしかしたらそれは俺の何か特殊な能力なんじゃないかって一瞬は思ったけど、そういうのはもう散々前世でも嫌になるほど味わってきた。


自分には何か才能があるんじゃないかって…。

そう思ったところで、現実はそうじゃなかった。

夢を持っても希望を持っても、そんなのは才能でも何でもなく、偶然に出来た事だったり次の日には出来なくなってる事だったり、何か閃いても、そんなのどこかの誰かがとっくに考えていたりだったり…。


嫌っていうほど味わった。

だからそんな事を考えたり妄想したりするのにもうんざりで。


こっちの世界に転生してからは、そんな希望を考える余裕も環境もなかったし。

黒ニアの俺にとっては、その日を生きられるのかだけしか考えられなかった。


だから絶対自分には期待しない。

くだらない希望はこの世界には何一つ必要ない。




それからは順調に日々を過ごして日課をこなせた。


急がば回れ


この世界にはきっとないことわざだけど、どの世界でもそれは当てはまるなって感じている。


生きる為


周りの事も何も気にする事はない。

ただ生きる為にしていく事をするだけ。

とてもシンプルで良い。

あれもこれもと夢のつまみ食いをする必要もなければ、誰かと歩調を合わせる必要もない。

食べて、寝て、生きる為に動く。


俺は前世にいた時、本当に生きる為に勉強をしてたのか、生きる為に仕事をしていたんだろうか。


そんな事を時々考えた。




それから一か月後。

(こちらの世界もほぼ前世と同じ暦だから楽だ。)


俺はだいぶ日課に慣れていた。


中腹までの往復は着実に行き来できて尚且つ早く移動出来るようになった。


剣の素振りも良くなったと、アイリスは言ってくれた。


そこでアイリスは剣の訓練に付き合うようになってくれた。


「ナキ。本当は剣の打ち合いの訓練をしようと思っていたんだけど、少し相談がある。

ナキは将来的に剣を扱えるようになりたいかい?」


「うん。なりたい。」


「この島から出る、という事?」


「…….........。」


「この島にいる魔獣を少なくても倒す事が出来ないと、この島からは出られない。それはわかるね?」


「…、うん。」


「じゃあ、剣をかまえてみて。」


俺は剣をかまえた。


「これから僕がナキに剣を振る。それを受け止めてみて。」


俺は頷いてグッと力を入れて剣をかまえた。


アイリスは軽く剣を俺に振った。

俺の剣は簡単に吹っ飛び、剣に力を入れた俺の腕も一緒に吹っ飛びそうになった。


「ナキが素振りをサボっていたとは全く思っていないよ。

でも、実際ナキはまだ9歳で、でもナキの相手はあの魔獣達で。魔獣の爪の一振りで、こうやってナキの剣は弾かれる。そしたらナキは結局魔獣にやられてしまう。


だからね、これからも素振りは続けるんだけど、まずは剣を受けずに避けるっていう訓練をした方が良いんじゃないかって思ってるんだけど。」


確かに。


どんなに抗っても俺はまだ子供の体だ。

相手の力を受け止める力が絶対ない。

それなら避けて、避けたところから相手を仕留める方が理に適ってる。


「アイリス。俺もそれが良いって今思えた。アイリスの今の一振りも、全力じゃないでしょ?たぶん魔獣の力ももっとあるはず。

だから、まずはそっちを鍛えた方が、チャンスは増えると思う。」


「うん。ありがとう。よし、じゃあ早速少しやってみよう。」


俺は剣を拾ってもう一度かまえたが、今度は力を籠めるより、足がすぐに動けるようにした。


アイリスはわざと最初はゆっくり剣を振ってくれた。

俺はそれを体を左右に振って避けるようにした。


「そう、そういう感じだ。」


アイリスは声を掛けてくれながら剣をじっくり振ってくれた。



小一時間くらいやり終わって

「今日はこのくらいにしよう。明日からもこれを続けていこう。」


アイリスが優しく言ってくれた。


「はい。ありがとうございます。」


俺は思わずそう言ってお礼を言った。


アイリスはとても照れていた。




それからまた数か月が経った。


相変わらずの訓練の日々。


特に避ける訓練は正直楽しい。


魔獣を倒すために、今の俺が出来る事を着実にやれてる気がするからだ。


アイリスもここ数日は、剣の振り下ろす速度や振り下ろしてからの次の攻撃や更に色々な角度からもどんどん攻めてきてくれている。

そして攻められながらも俺には常に攻め返して良い、というところまできていた。

避けながら攻める。

最初は攻めた一振りに力が籠められなかった。

それでは意味がない、と学び、次は如何に攻めれる態勢で避けられるかに変わっていった。

そうすると、次第に俺は避ける事よりもアイリスの剣先や、どういう軌道で剣が来るかを見るようになった。

その軌道がわかると、避ける動作を最小限に出来て、避けた後の攻撃がしやすくなった。

今度はアイリスがそれをさせまいと、避けた後の次の攻撃をランダムに早くしようとしてくる。

俺は避けたら攻撃、ではなくなり、常に避ける中でチャンスを伺えるかを避けながら待てるようになってきた。



「だいぶ上達してると思う。凄いよ、ナキ。」


「アイリスの教え方が上手いんだ。」


たぶん魔獣と戦う、というより遭遇しても逃げられるかもしれないっていうところに特化した訓練なんだと思う。

そして俺もそうだと思えて、余計な夢…、倒してどうするとか、そういった事は全く考えていないからだ。



洞窟内での生活も、あれからだいぶ変わった。


まずは拾い物の中から、簡素な丸い兜を見つけ、俺はそれに海水を入れて火で熱し、かなり蒸発したら拾い物の布でろ過して、もう一度火で熱する。

そしてもうすぐなくなるかもしれないっていうところでもう一度ろ過した固形物を乾燥させて塩を作った。

ほぼ毎日勝手に研究してたから何度も失敗はしたが、ようやくコツを掴んだ。


こういう時に思う。

もっとちゃんと勉強してれば良かったって。


今まで味気のない肉だったり、キノコ類だったりだったから、これはかなりの食卓事情の改善だった。

アイリスもビックリしていた。

俺はとぼけて海の水がしょっぱいから出来るかなあって、と子供だからアピールをしてとぼけた。


そして、木の棒と弦を結んで、洞窟の入口近くの岩場で釣りをした。

餌は魔獣の肉の欠片だ。


ただ、これに関してはずっと不発だった。



禿山の石拾いをして、拾い物の刀とかを軽く研いでみたり、斧みたいなものを作ってみたり、前世の記憶で自分が思い出せる事は何でもやってみた。


でも、やっぱり足りない。

材料が。


思い切って相談してみよう。


ある日の夜。

俺はアイリスに頼んでみた。


「アイリス。俺も森に行きたい。」


アイリスはいつもちゃんと受け止めてくれている。


「もう魔獣を倒せると?」


「いや、そうは思っていない。

ただ、もしかしたらアイリスに迷惑をかけないくらいに、逃げれるくらいにはなっているんじゃないかっていう事は思ってる。


「うん。」


「でも、目的は違う。

俺はまだ正直戦力にはなれない。でも、例えば薪の為の木を持って帰るとか、アイリスだけじゃ見れない森の中で使えそうな何かあれば、たとえば紐みたいな弦とか、何か洞窟で使えそうな葉っぱとか。

行ってみないとわからないけど、何か今の俺に出来る事もあるんじゃないかって思う。」


アイリスは考えていた。

ナキは塩とか、何か新しい事だったりをいつも作ったり考えてくれている。

しかもそれは自分の為じゃなく僕達の生活の為だ。

確かにナキを連れて行けばもっと何か変われるのかもしれない、と。

僕はどうしても片腕だ。限界がある。

最近のナキの訓練を見ても目覚ましいものもある。


「わかった。」


「良いの?」


「うん。但し、条件がある。」


やっぱり。


「何、条件って。」


「もう一週間、訓練を続けたい。

今までの訓練ももちろん僕は手を抜かずナキを鍛えてきたつもりだよ。でも、これから一週間は、ちょっと本気を出すから。それについてこれれば、という事がひとつ。」


「え、まだあるの?」


「ハハ、うん。もう一つは、中腹までの山登り訓練に重い荷物を持ってやって欲しい、という事。理由は、わかるよね?」


アイリスは現実主義者だ。


俺はあの日、魔獣に追いかけられた日、初めて見た魔獣に恐怖もしたが、何よりその喰ってやるっていう狂気にビビった。

どんなに訓練で良くても、戦場でビビるなんていうのは話では前世でもよく聞いた話だ。テレビでだけど。

実際森に入って何か拾っても、重い荷物で動けないとかアイリスの重荷になってはいけない。

アイリスは厳しくとも、俺をどう活かせるかを考えて言ってくれている。


報いなくてはいけない。


「もちろんだ。その上で、俺が森について行って良いかはアイリスがちゃんと判断してくれれば良い。足は引っ張りたくないし、死にたくもない。ましてや俺のせいでアイリスを危ない目に合わせては意味がないから。」


「わかった。じゃあ明日から頑張ろう。」



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