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第5話 ダグス島4 魔法と魔術

次の日から、アイリスと俺の生活は変わった。


まず、アイリスは一つの目標を俺に提案してきた。


「ナキ。君はまだ9歳だ。これから大きくなるしこれからが成長段階だ。だから今はじっくりと出来る事をしていこう。」


俺の日課は、

砂浜の見えるあの中腹までの往復。

体力向上と、もしも船が来た時に素早く行動に移せる為に禿山の凸凹にも足場にも慣れる為。

アイリスの負担を減らす為にもそれは必要だし、今の俺は全く戦力にもならないから、せめてそういう補助的な事は出来なくてはいけない。

アイリスが魔獣を狩っている間にする。

アイリスと日中の飯を食べ終われば、また中腹に登り今度は船が来るかどうかの偵察。

むしろ時間をそこに合わせた行動になっていった。


その偵察が終わると、俺は洞窟から少し登ったところの平場、それをアイリスと俺は【訓練場】と名付け、そこで剣の素振り。

アイリス曰く、

「剣を教える為には、まずは単純に腕力が必要だよ。ナキには素振りの宿題をやってもらうよ。」

アイリスはニコニコ笑いながらそう言ってた。


俺はそこでひたすらに剣を何度も何度も振り下ろした。

剣は拾ってきているものの中で一番短く軽いものを選んでくれたが、それでも子供の俺にとってはまだかなり重い。


俺は一心不乱に素振りをした。

理由がある。


「ナキは僕に魔法を教わりたいって言ってたけど、今は正直無理なんだ。」


「どうして?」


「うん。まずは僕が知っている限りの魔法についての事を教えるね。


魔法は魔力を練って使う。魔力は体の中で練り上げる。練り上げた魔法を呪文を唱える事で使う。これが魔法。

全ての人間が魔法を使える訳じゃない。

でもすべての人間の体の中には魔力はある。」


「魔法を使える人と使えない人がいるんだね。」


「そう。

でも、使えない人も体の中にはちゃんと魔力はあるんだ。

この島にもある、魔素。

魔素は普通にこの空気中に混ざってるから、誰もがそれを無意識に吸っていて体内に宿してるんだけど、魔法を使える人は、その魔素を魔力にして尚且つ練り上げるって事を自然に出来る人なんだ。」


魔素っていうのは、要はもう一つの酸素って事か…。


「じゃあ魔力に変えられる人は誰でも魔法を使えるんだね。」


「そうなんだけど。

例えば僕の火魔法や水魔法は、確かに僕は魔力を練れる人だから、自然にイメージして呪文を唱えれば出せるんだけど、ちょっと水を飲むとか、ちょっと火を起こすってくらいしか出来ない。まあ、これも立派な魔法なんだけど。

でも僕で言えば風魔法。

ナキが言っている魔法って、きっと僕の風魔法みたいな事を言ってると思うんだけど、それは、体内の自然に練り上がってる魔力を、今度は意識的にもっと練り上げて力に変えると出来るんだ。」


「どうして風魔法だったの?」


「実は色々やってみたんだけど、僕の場合は風魔法だけが、力を持てるようになった、って感じだね。」


「人によって決まっているの?」


「いや、何種類か出来る人もいる。一つの魔法が物凄く強い魔法を使える人もいれば、そこまでじゃないけど、いくつかの魔法を使える人もいる。

僕がいた軍隊の中にもそういう人はいたし、僕達軍隊の上の騎士団の人達はもっと凄い人達もいたって話だよ。


そして呪文の言葉。これも大切。

呪文の言葉にも力の差異があって、その呪文の言葉の力で魔力が上がったり抑えたりする事が出来るんだ。練り上がった魔力を全部同じ力でっていう訳にはいかないからね。魔力を使いすぎると体が凄い疲れちゃったり、体の中の魔力を使い切ってしまうと場合によっては死んじゃったりすることもあるから。

その中には使っちゃいけない呪文の言葉を使うと、自分自身が爆発しちゃったりするんだ。」


「魔法ですらそうやって出来る人と出来ない人で差がつくんだね…。」


前世と変わらない。

出来るやつと出来ないやつ。

最初から出来レース。


「うーん。そこはそうでもないんだ。

ナキ。例えば体格の差とか男女の単純な力の差、そういうのって自分じゃどうにもならないよね?でも、魔素自体は全員が持っていて魔力は一応備わる。

目には見えないけど、例えば病気しにくい人が実は魔力の使い方をそっちに使っていて、確かにそれは火とか風とか目立つものじゃないけど、無意識にそっちに使ってる人もいる。

意識出来てる人の中には、回復魔法で人を助けてる事も多いし、軍隊にもいるんだよ。

後は補助魔法って言って、一時的に筋力を向上させたり、一時的に魔力の練り上げ能力を上げて強い魔法を撃たせたり、逆に一時的体を強力にして防御力を上げて守ったり。

色々あるんだ。」


「いっぱいあるんだな。でも結局使えない人はいるんでしょ?」


「そこであるのが魔法紋なんだ。

魔法紋ってきっとナキは嫌な思いしかないだろうけど。

でも、本当は魔法紋はそうやって使えない人を助ける為のものなんだよ。

僕のいた軍隊の隊長とか偉い人達の中にも魔法を使えない人達には魔法紋がつけられていて魔法を撃っていた。

魔法が使えなくても、人の体には魔力自体はあるから、それを引き出すのが魔法紋の本当はあるべき役割のはずなんだ。」


「初めて知ったよ。」


「そうだね。僕達サキス人もそうだけど、ナキ達も、知っているのは【禁紋】の類いだけだったからね。」


「使えないから禁紋?」


「二つあってね。

一つはその右手の禁魔紋や左手にあった禁水紋みたいに、使えなくする、出来なくなる、そういう意味の禁紋。

もう一つは、その胸の奴隷紋みたいに、本当はその紋自体使っちゃいけない禁止のはずの紋。」


「使っちゃいけないのにどうして?」


「それは…、ごめん、僕にはわからないんだ。」


これから俺がどうなるかはわからないけど、でもそれは絶対に知りたいなと思う。


「ナキの右手にある禁魔紋はね、その人の体内にある魔力を使えなくする禁紋なんだ。だから、まだ子供のナキの中に、魔力があるか、それを使えるのかがわからないんだ。

もしもナキに魔力を練り上げる力があったとしても、その練り上げる力を封じられてるから、今の状況だと、ナキにその力があるかないかもわからないんだよ。済まない。」


「禁魔紋を無くすには?」


「町の教会に行って、僧侶とかに解呪してもらう以外はない。僕の知る限りでは。僕も魔獣に手を喰われなければ、きっと魔法は使えなかったし、そうでなければ


「そういえば…、僕の町にも何人か手が無い人を見かけた事がある。」


「きっと禁紋をつけられてそれを切ったんだと思う。でも、手を失うと仕事が限られたり、さらに人より劣るってなるから、そういう人達の先々は、正直そんなに長くないと思う…。」


「魔法以外に…、魔法以外に何か…、ないの?」


「うーん。まあ、ナキが人間じゃなかったら…。」


「どういう事?」


「ハハハ。ナキは、獣人は見た事があるかい?」


獣人。アイリスは良い人だからそう言ってくれてるけど、一般的には亜人。

様は人間種じゃない人。ただの差別と侮蔑用語。

エルフやドワーフも亜人。獣人も亜人。


「俺の町にはいなかったけど、旅の集団の中に何人か見た事はある。」


「獣人やエルフはね…、実を言うと魔獣の中にもいるんだけど、魔法ではなく【魔術】を使う種族もいるんだ。」


「魔術?魔法と何がちがうの?」


「うん。魔素から魔力っていうのはきっと変わらない。

僕もこれは本を読んだだけだからそうなんだって言える訳じゃないんだけど。

だから本当のところは魔素から魔力っていうのも当たってるかはわからない。

要は魔法っていうのを当たり前の様に出せるんだよ。そこには呪文の類いも要らなくて。」


「凄い。」


「個性によってそれぞれ使えるものも違うのも人間と変わらないんだけど。

彼らは魔法をひとつの能力として使えるって感じかな。生まれた時からもう宿っている能力。」


「魔術を使える人間はいたの?」


「僕の知り得る限りは聞いた事はない。たぶんそれは僕達の考えている優劣ではなくて、もっと純粋な種族の特性の違いなんだと思ってる。」


「実はね…。」


そう言うと、アイリスは立ち上がり、奥の荷置き場のところから、風呂敷の様な布を結んでいた袋から、いくつかの石を持ってきた。


俺の目の前にいくつかの色をした石がそれぞれ置かれた。


「これは魔石っていって。魔獣の中から出てくるものなんだ。」


「魔獣の中から?」


「そう。僕は今までもここで魔獣を狩った後、食べれる肉ともう一つ、体の中にあるこの魔石を探してとって置いてるんだ。」


「この魔石は何なの?」


「まずはね、魔獣には人間と同じで心臓があって、もう一つこの魔石がある。第二の心臓。魔獣の中にはこの魔石があって、これは結構売れるんだ。」


「宝石って事?」


「いや、僕にはわからないけど、魔石は違う使い道があるみたいなんだ。これも僕はよくわからないんだけど、魔石は魔素が溜まって固まったものなんだと思う。どういう仕組みでそうなってるかはわからないけど、魔獣にはみんな体の中に魔石があって、魔素を普段から溜めこむ。だから魔力を練らずに出せるんだと思う。たぶん魔石はその魔力の力の塊で。

だからその魔石を、何かの力として使う為に売れるみたいなんだ。」


「魔石の色が違うのは?魔獣の種類が違うの?でもいつもアイリスは同じ魔獣を狩ってるよね?」


「ん?」


「え?」


「ナキ。君はこれが何色に見えてるんだい?全部同じ色だよね?」


「あ、ごめん。大きさだよ、大きさ。」


「あ、そうか。大きさの違いはきっと、その魔獣の強さの違いなんじゃないかなって思ってる。ここの魔獣の魔石の大きさは大体こんな感じだけど、ほら、これは他より大きいでしょ?」


そう言っていくつか持ってきた魔石の中で大きめの魔石をアイリスは指差した。


「これより小さい魔石は集めない様にしてるんだ。今までにもあったし、粒の魔石を探す事に時間をかけてしまう方が危ない気もしていてね。」


「見つけにくいものは小さいって事だね。」




次の日、俺はいつもの日課で剣の素振りをしていた。


とりあえず俺には魔法は使えない。使えるかもわからない。

でも、もうそんな事はどうでも良い。立ち止まりたくはない。

魔法が使えなきゃ使えないで剣で復讐すれば良い。

実際今はそれを楽しんでる自分がいる。

復讐心が止まらない。


それより…、

俺は昨日咄嗟に噓をついた。

俺には魔石が違う色に確かに見えた。

何故だろう。

わからない。

でもなんだかそれは言ってはいけない事なんじゃないかって感じたんだ。

もしかして何か俺の能力か?

それなら俺は人間ですらなくなってしまう。


今は悩む事はやめよう。

やらなければいけない事はまだまだいっぱいある。


そう思って、俺は剣を振り込んだ。

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