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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第四章

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もう一つの魔力

 



「 あれっ!?ティア? お前……何故皇宮に入れた? 」

 オスカーの執務室にアリスティアが入って来た事に、この日も残業をしていたオスカーは驚いた。


 今、皇宮には非常事態宣言がなされていて。

 外部の者は入れない事になっているのだ。


 まあ、アリスティアにはリタの道がある事はオスカーも知っていて。

 これ以上は聞かなかったが。


 驚いていたのはレイモンドのプライベートゾーンを守る警備の者達。

 中から突然アリスティアが出て来たのだから。


「 えっ!? グレーゼ公爵令嬢? 」

「 いつの間に!? 」

 混乱している彼等の前を、アリスティアは優雅に通り過ぎた。


「 ご苦労様ですわね。今からオスカーお兄様の所へ行きますわ 」

 オホホホと美しく微笑んで。



 レイモンドの執務室は彼のプライベートゾーンと回廊を挟んだ向かい側にあって。

 その横がオスカーの執務室だ。


 因みに、タナカハナコが滞在する客室もこのゾーンにある。

 なので、執務室の周りを彷徨くタナカハナコを、レイモンドに会わせないようにと、侍女達は苦労していると言うわけである。



 アリスティアの顔を見たオスカーは、何だか気まずそうな顔をしている。


「 もしかして……レイと聖女のディナーを……その…… 」

「 ええ。邪魔をして来ましたわ! 」

 アリスティアはふんむと鼻息を荒くした。


  「 レイは、皇太子宮ではタナカハナコと会わないとわたくしと約束をしていましたのに、ディナーに招待するなんて酷いですわ 」

 アリスティアはソファーに腰を下ろした。


 テーブルの上には美味しそうなサンドウィッチやスコーンなどの軽食が置かれていて。

 オスカーがそれらをつまみながら仕事をしていたのが伺える。



「 悪い。違うんだ。二人のディナーをセッティングしたのは俺なんだ 」

「 えっ?」

 サンドウィッチを口に入れようとしていたアリスティアは、サンドウィッチをお皿の上に置いた。


「 よく分からないが、あの時は聖女の頼みを聞いてあげたくなったんだ 」

  「 何ですってぇーっ!? 」

 まさかのオスカーのセッティング。


 あの朝食事件があってから、タナカハナコをレイモンドに近付かせないようにと侍従や侍女達に指示したのはオスカーなのだ。



 ソファーから立ち上がったアリスティアは、オスカーの傍に行きオスカーの頬を捻り上げた。

 それも思いっ切り。

 何時もやられていた事の仕返しを込めて。


「 イタタタタタ……止めろ! 悪かったって! 本当にどうかしていたんだ 」

 赤くなった頬をゴシゴシと揉み解しながら、オスカーは申し訳無さそうな顔をしながらアリスティアに謝罪した。


「 俺の失態をレイは笑って、そのまま聖女とのディナーを受け入れてくれたんだ 」

 だからレイがお前との約束を破った訳ではないんだと言う。



 聞けば、タナカハナコを前にすると、どんな願いでも叶えて上げたくなってしまうらしい。

 それは皇族への忠誠心に似た感情が湧き上がるのだと言う。


 そして……

 気付いたらレイモンドとの食事をセッティングしていたのだと。


 元々彼女はオスカーに出会すと、常にレイモンドとの食事の時間を作ってくれと言って来ていて。

 何時もなら何かと理由をつけてかわしていたが。

 今日のディナーは率先してセッティングをしたと言う。


 尊い聖女の役に立ちたいとその時は思ったのだと。



 良かった。

 レイは約束を守ってくれてる。

 

 今までもタナカハナコには接触して欲しくはなかったが、タナカハナコにサラが憑依してるならば、それはもう尚更接触して欲しくはない。


 サラのレイモンド(セドリック)に対する執着は、千年もの執着。

 ましてやサラの持つもう一つの魔力が危険過ぎるのだ。



 もう一つの魔力は()()


 間違いない。

 この、海千山千のオスカーまでもが操られてしまったのだ。



「 オスカーお兄様()魔物サラに魔力をかけられたのですわ 」

「 サラ?魔力?何の事だ? 」

「 今からする重要な話を聞いて下さい 」

 ここにはその話をする為に来たのだ。


 リタの道を使ってまで皇太子宮に忍び込んだのだから。


 食べていたサンドウィッチをモグモグごっくんしたアリスティアは、改めて背筋を伸ばした。

 食事中のレイモンドの膝の上には座ったが、何も食べてはいないのでお腹は空いていたので。



「 それで……魔物が聖女に憑依したとリタが言ったのか? 」

 リタの言う事は何時も真実だ。

 疑う余地なんて少しもない。


 オスカーは自分の執務机からメモとペンを持って来ていて、アリスティアの話しにペンを走らせている。


 あら?オスカーお兄様って、カルロスお兄様がいない時はちゃんとしているわねと感心しながら、アリスティアは話を続けた。



 次男坊であるオスカーには家のしがらみもなく、彼は幼い頃から騎士になるのが夢だった。

 なのでカルロスよりも熱心に剣術の稽古をしていて。

 しかし学園を卒業した彼は、騎士団には入団せずに文官の道を選んだ。


 皇太子になる為に努力しているレイモンドと、彼を皇太子にする為に奮闘しているアリスティアをずっと傍で見て来ていて。

 何時しか自分もレイモンドを支えたいと思うようになっていた。


 やがてはこのエルドア帝国の皇帝になるレイモンド第二皇子。

 彼の幼馴染みであり親友である自分が、彼の傍にいるのが一番良いとして。


 それは彼の盾として、矛として。


 オスカーが側近になると言った時には、レイモンドが喜んだのは言うまでもない。




 ***




 千年前の魔女サラとセドリック王の事。

 離宮の庭園の奥にある()()()()に千年宿っていたサラがタナカハナコに憑依した事も、アリスティアは順を追って話をした。


 勿論、リタから聞いた話だ。

 頭の中で整理をしながら。


「 千年……時の魔力……憑依…… 」

 オスカーはまたもや飛び出したアリスティアの驚愕な話に絶句した。


 アリスティアの転生前に起こった事も、到底信じ難きものだったが。

 それはグレーゼ三兄妹で乗り越えて回避出来た。


 その結果。

 花嫁のすげ替えの未来はなくなり、後は魔物を討伐すれば良いだけで。

 それは聖女がこの国にいるから、大丈夫だと思っていた。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』

   それは天のお告げどおりに、世界は聖女によって救われるのだ。


 なのにだ。

 聖女に魔物が憑依すると言うとんでもない事が起こっているのである。


 未来は全く予測出来ないものになっていた。



「 そもそも魔物が今になって出現したのは何故なんだ? 」

「 それはね。レイがセドリック王の生まれ変わりなんですって 」

「 !? ……レイが生まれ変わり? 」

「 だからずっと自分の身体とセドリック王を探していたサラは、レイを見た時に目覚めたらしいのよ 」


 わたくしが離宮に行かなければ、サラが目覚めなかったかも知れないわと、アリスティアは申し訳なさせうな顔をした。


「 いや、既に天のお告げはあったのだから、遅かれ早かれ魔物は目覚めた筈だ。だからティアのせいではないよ 」

 それを聞いてアリスティアは少し気持ちが楽になった。


 確かにそうなのである。

 この事態の全てが、リタが聞いた天のお告げから始まったのだから。



「 それでね。そのセドリック王の王太子時代の姿は、タナカハナコのお披露目舞踏会の時に、リタが変身していた姿なのよ 」

 確かにレイに似ていたけれども、レイの方が断然格好良かったでしょ?とアリスティアはオスカーに同意を求めた。


「 リタが?セドリック王の姿に? 」

 それが偶然ならば凄い偶然だとオスカーは思った。

 何千年も生きて来た彼女が変身した姿が、偶然にもセドリック王など有り得るのかと。


 リタの事だから何か理由があるのかもと考えられるが、今はそれどころではない。



 オスカーは必死でペンを走らせていて。

 几帳面な兄貴ならば、もっと分かりやすくメモるのだろうと思いながら。


 大体、普段のオスカーはメモなど取らない主義だ。

 しかしだ。

 アリスティアの話はセンセーショナルな話過ぎて、書き留めておかなければ頭の中が混乱するのだ。



()()()()()が使われたお前には、サラの魂の欠片が入っているから、憑依されたのはお前だったかも知れないと言うことか…… 」

「 ええ……わたくしの魔力がレベルアップしました事で、憑依出来なかったみたいですわ 」


 美味しそうに唐揚げを頬張るアリスティアを、オスカーはマジマジと見た。


 5歳違いの小さな妹が、何だか凄い事になっていて。

 レイモンドとタナカハナコのディナーも、ちゃとつかり邪魔をして来た事にも感心するしかない。


「 何か……お前って本当に凄いな 」

 オスカーは自分の頭をペンの端でカリカリと掻いた。



「 サラには、時の魔力ともう一つの魔力があるのではないかと思いますの 」

「 それが俺にかけられた魔力だと言う事か? 」

「 わたくしはそれは魅了の魔力だと考えてます 」

「 魅了……確かにな 」

 街に出た時の、民衆の熱狂ぶりは凄いものだった。


 自分もあの時は陶酔した。

 気が付けば民衆と共に聖女の前で跪いていたのだから。

 ただ。

 聖女がいなくなれば冷静になっていた事は今の状況と同じ。



「 それよりもお前には魅了の魔力は効かないのか? 」

「 ええ、わたくしにはサラの魂の欠片が入っているからだと思いますわ 」

「 彼女が作った()()()()()がお前に使われた時に入ったんだな 」

「 だからか、時々サラの声が聞こえて来ますのよ 」


 それは多分。

 彼女の強い想いが働いた時。

 ずっとレイ(セドリック)に会いたかったと言う想いが聞こえて来ていた。


 それは切ない程に。



「 わたくしには効かないけれども、レイも変なのよ。会いたかったと言いながら、わたくしを抱き締めて離さないのよ 」

「 レイはお前に会いたかったと言ってたのか? 」

「 ええ。わたくしはレイに愛されていますからね 」

 アリスティアはウフフと口元を両手で押さえた。



「 ……恐らくそれはレイのトラウマからの所為だと思うぜ 」

「 えっ!? ……何故トラウマ? 」

「 分からないか? お前が姿を消した半年間のレイは見ていられなかったぜ 」

「 ……… 」

「 きっとその時の想いが、サラの魔力よりも勝ってるんだと思うよ 」

 更にオスカーは言葉を続けた。


「 だから側妃になるとか、薬屋になるとか言うなよ! お前以上にレイはこの状況に苦しんでいるんだぜ 」

「 ……… 」

「 明日はお前と結婚式を挙げる日だったんだ。いきなりキャンセルされてレイがショックを受けてないとでも? 」


   まあ、お前もそれどころじゃなかったがなと言って、オスカーはメモをしていた紙を丸めた。



「 ティア!お前はもう帰れ! 今からこれを持ってレイと陛下の所へ行く 」

 親父や兄貴も呼んで来ると言いながら、オスカーは部屋を後にした。

 

 その後ろ姿を見送ったアリスティアは唇を噛み締めた。


 自分の事ばかりだった。

 レイの気持ちなど少しも考えてなかった。


 そもそもアリスティアが全面的にレイモンドの事が好きであって。

 それを常にレイモンドにぶつけて来た人生だったのだ。


 嫉妬をするのも何時も自分だけ。

 早く大人になって、レイモンドの傍にいたいとずっと思って来た。



「 でもねお兄様……やっばり魔女は皇太子妃にはなれないのよ。それは千年前でも同じ 」


 誰もいなくなった部屋でそう呟いて。

 アリスティアもオスカーの執務室を後にした。



 その時。

 静かになったオスカーの執務室のドアが開けられた。

 カチャリと音が鳴らなかった事から、ドアは少し開けられていて。


 現れたのはレイモンド。


 隣の彼の執務室にはレイモンドがいたのだ。

 彼は扉の前で固まったままで。

 そのまま暫く佇んでいた。



 ()()()()()がティアに使われた?















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