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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第四章

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対峙

 



 (いにしえ)の魔女サラにあるのは恐ろしい程の執着だった。


 それはセドリック王からレイモンド皇太子に注がれる事になった。

 セドリック王の生まれ代わりであるレイモンドに。


 千年もの間。

 自分の身体を探していた。

 若い自分の身体で、若き王太子時代のセドリックに会う為に。

 その為に時戻りの剣をつくったのだから。


 だけど。

 実際には時戻りの剣は使われずに、サラはセドリック王に殺された。


 そう。

 時戻りの剣が使われたのはアリスティア。

 それは千年後の大聖堂で。

 愛する婚約者であるレイモンド皇太子に使われたのだ。



 千年待ち続けたサラの魂は魔物になっていた。

 時の魔力を持ったままに。


 だけど彼女は自分が魔物とは思ってはいない。

 それは……

 時戻りの剣は自分に使われたと思っているからだった。




 ***




「 私は……今生は王太子妃……いえ、皇太子妃になるわ 」

 その瞳はレイモンドを見据えていた。

 熱を帯びた視線からは、若き皇太子に恋をしている事が伺える。


「 少し確認させて貰いますわ。セドリック王は千年前の我が国の国王で、貴女はその側妃である魔女サラであったと言う事は間違いないかしら? 」

  「 ええ。でも、何故貴女がそれを知っているの? 」


 時戻りの剣は自分に使われた事から、貴女の思いを共有しているからだとは言えない。


 それは……

 セドリックにただ殺害されたと言う事を知る事になるからで。


 それにここにはレイモンドもいる。

 アリスティアにずっとベタベタしていて、様子がおかしいが。

 聞いてないとも限らない。


 レイモンドにも、時戻りの剣が自分に使われた事は知られたくはない。


 アリスティアは腰に回されているレイモンドの手に自分の手を重ねた。


 この優しい皇子様を苦しめたくはない。



「 それは……魔女の森にいるリタ様に聞きましたのよ 」

 最近は嘘ばかり吐いている。

 そんな自分が嫌になる。


「 魔女の森?……リタ様? 」

 サラは少し遠い目をした。

 何かを思い出すように目は見開いたままで。

 細い目だが。


 リタは何千年も魔女の森で生きて来た妖精だ。

 世間では魔女だと言う事にしているが、彼女から聞いたといえば信じてくれるだろうと。



「 魔女の森……妖精の森でしょ? 確かチンクルと言う可愛らしい妖精がいたわね。あの妖精はまだいるのね 」

 流石は妖精だと言って。


「 チ……チンクル!? 」

 アリスティアの口からすっとんきょうな声が飛び出した。


 リタがチンクル?

 千年前はチンクル。


「 ……… 」

 駄目だわ。

 可笑しすぎる。


 吹き出しそうになるのを必死で我慢する。

 いつの間にか、アリスティアの頬をムニムニとしているレイモンドの手を、ギューッと握って耐えた。

 


 千年前のリタはチンクルと言う名で、妖精のままの姿でいた。

 しかも可愛らしい妖精。


 しかし今は魔女リタと言う姿でいる。

 黒いマントを被り、垂れ下がった目蓋に長い鼻。

 妖精なのに瞳の色も赤くして。


 彼女は魔女である方が都合が良いからと言った。

 忌み嫌われている存在の魔女が都合が良いなんて、きっと人間に理不尽な事をされたからに違いない。


 アリスティアは何だか胸の奥がツンとした。

 明日のディナーは、大好物のローストビーフに白身魚のマリネをシェフお願いしようと思った。

 最近は魚介類もお気に入りだとメイド達が言っていたので。

 勿論、骨抜きで。



 納得したサラは、それ以上はリタの事には触れずに話を続けた。


「 レイ様はまだ婚姻をされてないのなら、私は正妃になれるわね 」

 セドリック王には既に正妃がいたが、レイモンドにはまだ妃はいない。


「 そう言えば……お前は()()()()をされたのに、何時までもレイ様にしがみついているみたいね 」

 タナカハナコが言っていたわとサラはクスリと笑った。


 タナカハナコの顔でそんな風に言われたら、違和感ありまくりだ。



「 あら?婚約破棄ではなく婚約解消ですわ。婚約は解消致しましたが、今はわたくし達は恋人同士の関係ですのよ 」

 アリスティアの後頭部に、チュッチュッとキスをするレイモンドが見えないのかと。


 頭上にいるレイモンドを見やると、 直ぐさまに優しくて甘い顔が降って来た。



「 大丈夫よ 。 セドリック様なら私()愛する筈ですわ 」

「 えっ!? 何を言っているのかしら?()()はレイモンド皇太子殿下よ!セドリック王ではないわ 」

「 彼はセドリック様の生まれ変わりだから同じよ。そうだわ。私が正妃になればお前を側妃にしてあげるわ 。今の皇族は二人の皇子しかいないのでしょ?何かあったらどうするの? 先ずは二人でレイモンド様の皇子を沢山産みましょう 」


 その後にも最低でも三人は側妃が必要だと、サラは未来の皇室のビジョンを口にした。




 ***




 寛大だ。


 千年前は戦時中であり、産めよ増やせの時代だ。

 アリスティアとは全く考え方が違うのだ。


 いや、違わない。

 一夫一妻制のエルドア帝国で、皇族にだけ側妃が認められているのは、本来の皇族はそうあるべきなのだから。


 先代には沢山の側妃がいた。

 現皇帝にもミランダ妃がいる。

 転生前のお妃教育では側妃が必要な理由を学んだ。


 アリスティアははたと考え込んでしまった。

 嫉妬深いわたくしは……

 やはり妃には向いていないのかも知れないと。



 だからと言ってサラが皇太子妃になれる訳がない。

 魔女でも皇太子妃にはなれないと言うのに。

 魔物が皇太子妃だなんて、国民の一人としても嫌だ。


「 皇太子妃になるなど安易に思ってはいけませんわ! 」

 アリスティアは目を眇めた。


 普通ならば、皇太子と正式に婚約してからの一年から二年の間にお妃教育が行われるのだが。


 生まれる前からレイモンド皇子の婚約者だったアリスティアは、幼い頃から皇室に嫁ぐ為の様々な教育が公爵邸で行われて来た。

 

 勿論、それ程に厳しいものではなかったが。

 皇子の婚約者である以上はどうしても人々からの注目が集まる事になる。

 アリスティアが恥をかかないように。

 強いてはグレーゼ公爵家が恥をかかないようにと。



 まだまだじっとしていられない程に小さなアリスティアが、静かにおりこうさんで座っていなければならないのだ。

 きちんと背筋を伸ばして手を膝の上に乗せて何時間も。

 それはまだまだ幼い子供には辛い所業だった。


 そんな小さなアリスティアの姿に胸を痛めたレイモンドが、自分の膝の上に乗せておやつを食べさせたり、本を読んであげたりしていたのだ。


「 僕には沢山甘えて良いよ 」と言って。



 アリスティアには皇太子妃になる為に培って来た時間と労力がある。

 安易に皇太子妃になりたいなど言って貰っては困るのだ。


 ましてやサラは千年前に生きていた女。


 さあ。

 叶わぬ夢など見て貰わずに、諦めさせて退場して貰いますわ。



 アリスティアは腕を組み、サラのその細い目を見据えた。


「 皇太子妃の仕事を教えてさしあげますわ。皇太子妃は皇太子殿下と共に外交を主にしますのよ。貴女は他国の言葉を話せるのかしら? 言語だけではなく、他国の要人達と渡り合うには話題に困らない豊富な知識が必要ですわね。それから、皇太子宮の管理をする為に算術も必要ですわ。おバカでは統制がとれないですしね。皇后陛下の補佐として皇宮での晩餐会や舞踏会の準備。社交界では貴族の上に立つ存在にならなければなりません。その為には我が国の貴族の家紋と顔と名前を覚える必要がありますわ。それから…… 」


 アリスティアはお妃教育での学びをサラに言って聞かせた。

 それは転生前のお妃教育で培ったものだ。


 それはもう機関銃のようにペラペラと。

 これは()をやり込める時のアリスティアの常套手段。



「 やっぱりあんたは悪役令嬢よ!」

 怯えた顔をしながらサラがいきなり叫んだ。


 アリスティアに向けて指をさしている。


 サラが別の魔力を放出するのかと、指先に魔力を込めながらアリスティアは身構えた。



「 乙ゲーやファンタジー小説では、悪役令嬢は皇太子から断罪されるのに、どうして断罪劇が始まらないのよぉ~ 」

 訳の分からない事を言うのはタナカハナコ。


 あら?

 サラはもう退場したのかしら?

 もうちょっと言ってやりたかったのに。

 残念だわ。



「 自分の優れた面をひけらかす嫌な女!レイさまぁ~ 良いの?こんな高慢ちきな女が皇太子妃で! 」

「 勿論だ 」

 レイモンドがアリスティアの横に立った。


 頭に手をやり何度か小さく横に振っている。

 どうやら魔力の効力が切れたようだ。

 それが何かを知らなければならないが。



「 彼女程に皇太子妃に相応しい令嬢はいないよ 」

 レイモンドはそう言って、アリスティアの手を掬い取った。


 今の今まで鬱陶しい程にべったりとくっついていたと言うのに。

 少しだけ離れた事が何だか寂しい。


 それでも図上から甘い顔が降って来ていて。


「 それに……ティアは我が国の公爵令嬢だ。口を慎みなさい! 」

 レイモンドとしては珍しく語気を強めた。


 

「 レイさまぁ~私は聖女なのよぉ。貴族なんか知らないわよ~ 」

 怒った顔も素敵だと言って、甘えた声を出すタナカハナコがうざい。


 アリスティアのコメカミがピクリと動いた。


「 この際だからハナコに言っておく。僕達は理由があって婚約は解消したが、このアリスティア・グレーゼ嬢は僕の愛する女性だ。それは昔も今もこれからも変わらない 」

 そう言い切ったレイモンドは、彼を仰ぎ見ているアリスティアを見下ろした。


 スキスキ光線が辺りをピンク色に染める。


 侍従や侍女達からのホゥゥと言う溜め息が聞こえた。

 見目麗しい二人の姿に見惚れている。


 サラが消えたから魔力が解けたのだろう。

 皆の姿が壁際にあった。

 


「 皇太子が悪役令嬢とイチャイチャしてるなんて信じられない! 聖女の立場がないじゃん 」

 ぶつぶつと言ってダイニングから立ち去ろうとしているタナカハナコに、レイモンドはエスコートの手を差し出した。


「 魔物が現れた今、そなたの補佐は何でもしようと思っている。今は魔物討伐の事を第一に考えて欲しい 」

「 まあ、良いわ 」

 レイモンドが差し出した手を見たタナカハナコは機嫌を直した。


 ニマニマといやらしい顔をしている。



 アリスティアは確認の為に聞いてみた。


「 タナカハナコは皇太子妃になりたいのですか? 」

「 はあ?あんたみたいな執着女がレイ様に纏わり付いているのに、皇太子妃も側妃もお断りよ! 」

 あんたに殺されそうだわと言ってタナカハナコは席を立った。


 殺したのだ。

 転生前は。



 レイモンドを見上げて、熱い視線を送っているタナカハナコの後ろ姿をアリスティアは見送った。


 ふむ。

 タナカハナコは皇太子妃になる気は失せているみたいだわね。


 以前はそう言っていたとオスカーから聞いていた。

 そう。

 タナカハナコは、レイモンドとのワンナイトラブを夢見ているだけなのだ。


 勿論、アリスティアはそれを知らないが。



「 あっ! こうしちゃいられないわ 」

 兎に角、お兄様達に伝えなくては。


 その為に皇太子宮に来たのだから。


「 僕の部屋で待ってて 」 と、タナカハナコの側に行く前に、レイモンドからアリスティアの耳元で囁かれていたが。


 アリスティアはオスカーの執務室に向かった。


 レイモンドの部屋には行かずに。













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