表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/124

千年後の転生

 



 今から千年前。

 エルドア帝国がまだ小さな王国だった頃。

 この国には一人の魔女がいた。


 魔女は人間の女性だけがなる突然変異。

 それは何十年に1人現れるのか、何百年に2人現れるのかは分からない存在。


 ただ。

 人々からは忌み嫌われる存在である事だけは確かな事で。


 魔女の森に住む妖精リタが、自分は魔女だと名乗っている事から、魔女がエルドア帝国にいると言う認識は人々にはある。


 世界には三大帝国には、各々魔女がいる事は教科書にも載っていて。

 魔女がいる魔女の森に近付かないようするのは暗黙の了解であった。



 ある日突然魔女になった事で、魔力が暴走し魔力を制御出来なくなる事から、魔女の殆どが射殺や処刑されている。


 転生前のアリスティアも射殺される寸前だったのだ。


 そして、レイモンドが調べたところ。

 魔女について詳しく記載されているのは、今から千年前の(いにしえ)の魔女が王妃になったと言う事だけで。


 魔女の実態は未だに明らかにはされてはいない。




 ***




 (いにしえ)の魔女がいた千年前は、エルドア王国はまだ建国されたばかりの国だった。

 もしかしたらまだ部族の一つだと言っても良いくらいの。


 近隣には大小様々な部族が小競り合いを続けており、平和な日常など程遠く、一般人も日夜戦いに明け暮れていた時代だった。


 略奪、殺人、強姦を繰り返す野蛮な部族もある中で、これらの部族を制圧しては、エルドア王国はどんどんと大きな国になっていったのである。


 その戦いに一役買ったのが魔女の存在だった。



 (いにしえ)の魔女の名はサラ。

 平民の女だ。


 その魔女の魔力は()()()()()()


 魔女になったばかりでも、彼女の魔力は特殊だった事で、最初から魔力のコントロールは出来ていて。


 それでも家族からは追い出され、サラは途方にくれた。

 自分の魔力が役に立つ事は出来ないかと、国王セドリック・ロイ・ラ・エルドアの前にサラは自ずから名乗り出たのだ。



 王はサラの魔力を戦いの場に利用した。


 時間を操作する事で大将の首を打ち取れる事が出来るからだ。

 しかし、直ぐに魔力切れを起こす事から魔力を使う時間は限られていて。


 戦いを終わらせるのに10年の月日が掛かった。


 近隣諸国を制圧し、永い永い戦いに終止符がついた頃には、セドリック国王は45歳。

 勿論彼には正妃がいて、側妃も何人もいた。

 沢山の王子や王女も。

 既に王太子は成人している。


 王太子や王子達もまた別の戦いに出陣しており、国中が戦いに明け暮れていた時代だった。



 戦いの勝利に貢献したサラは、セドリック王から褒美を賜る事になった。


 サラは言った。

「 セドリック陛下の妃になりたいです 」


 こうしてサラは希望どおりに妃として入内した。


 だけど……

 妃として入内したと言えども、平民のサラは沢山いる妃の内の一番格下の妃。

 ましてやサラ自身も40歳になっていた。


 魔女として戦いに参加してから10年もの間、彼女はセドリックと共に戦ったのである。



 妃となり入内したが、戦いの場にいた頃は王の特別な存在であったサラでも、大勢いる側妃の内の1人でしかなかった。


 旅先ではあれだけ寵を得ていたと言うのに。


 そして。

 平和の訪れと共に、王太子に皇位を譲位する事が決まった。

 セドリック王は余生を正妃と共に送ると言って。



 正妃は王や王子達が戦場へ出向き留守の間は、ずっと城を守っていた。

 敵から攻め込まれそうになった時には、皆の指揮を取り城を守り抜いた存在だ。


 千年前の事なので。

 王妃の名は残されてはいないが。

 エルドア帝国の歴史に刻まれる、立派な王妃だった事は伝承されている。



 城には自分の居場所はなかった。

 平民の自分には場違いな場所。

 サラは時間を戻す事を考えた。


 それはセドリックが若き王太子であった20年前の、25歳の年齢に。

 その時のサラは20歳。


 魔力をもったままに転生するのならば、セドリックが自分の事を覚えていなくとも、20年前から魔女としてセドリックの前に存在する事が出来るのだ。


 その頃に戻って彼の寵を得たかった。

 再び戦争になろうとも。

 いや、寧ろ戦争になって欲しいとさえ思うようになっていた。


 あの頃に戻りたい。



 サラの魔力は魔剣を作る事に費やされた。


 自分の命を削って出来上がった魔剣は《《時戻りの剣》》。


 自分の命を削って作ったと言う。


 その剣は……

 剣を振るう者の願う時に時を巻き戻す事が出来る魔剣だ。



「この剣は時戻りの剣。この剣を私の心臓を貫いて、陛下の王太子時代の20年前に時を戻して下さい 」

 自分の命を削った事で、サラはこの時老婆のようになっていて。

 勿論、その顔を見た時には絶望した。


 だから是が非でもこの剣で転生したかったのである。

 20歳の若くて綺麗な自分に戻りたいと。



 しかし。

 王はやり直しの人生を望んではいなかった。


 彼は自分が生きて来た今の人生に満足していた。

 戦いばかりの人生だったが、そのお陰で近隣諸国を統一する事が出来た。

 国民は他部族に怯えて暮らす事がなくなり、人々に平和が訪れたのである。



 後の世は、王太子を中心に王子達と臣下達とでこのエルドア王国を発展させてくれれば良いと願っていて。


 何よりも……

 再びの人生は、もしかしたら戦争に負ける人生になるかも知れないと考えたら、とてもじゃないが時を巻き戻す事なんてしたくはなかった。


 ましてや自分の記憶はないと言う。


 しかしだ。

 サラは時を操る魔女。

 否を言う事で、この先の時間を彼女の思うがままに操られてはたまらない。



 そうして……

 サラを騙すようにして、王は魔女サラの胸を()()()()で貫いた。


 自分と共に戦った戦友であり寵を与えた魔女を。


 時戻りの剣で貫かれたと思ったサラは、静かに目を閉じた。


 愛しい()の、綺麗な黄金色の髪と悲しげな瑠璃色の瞳を見ながら、嬉しそうに微笑んで。


 若くて美しい自分に戻り、若き王太子時代のセドリックに会える事を夢みながら。




 ***




 サラの遺体は、戦争後の焼け野原の見晴らしの良い場所に埋葬された。


 セドリック王はそこに木の苗を植えた。

 後にそこが魔女サラが埋葬された場所だと分かるように。


 戦争が終わったばかりのエルドア王国では、戦争で亡くなった人々の墓地はまだ作られてはいなくて。

 当時の宮殿もここからは遠い場所にあった。



 しかし王はそれから程なくして身罷った。

 永い戦争は彼の精神も身体も疲弊していたのであった。


 王はこの()()()()()を王家の秘宝として国王と王太子に代々継承して行く遺言を残していた


 エルドア王国が滅ぶ危機があれば使う事を。


 その遺言は遵守されたが、サラの埋葬された墓の事は忘れられた。

 いや、知らされていなかったと言う事が正解だろう。



 それから何代か先の国王は、セドリック王の非情さを隠す為に文献の改竄を行った。

 自分と一緒に戦った戦友を殺害したのは事実なのだから。

 勿論、二人の間にどんな事があったのかは知る由もないのだが。


『 時を戻しても二人はまた同じ時間を過ごしたいと、王妃となった記念に魔女が作った()()()()()を王に贈った 』


 それが()()()()()が残されている理由として。



 それからも何度も戦争を繰り返した後に、エルドア王国はエルドア帝国になった。


 その間千年。

 皇帝から皇太子に伝承されて来た時戻りの剣は、使用される事はなかった。


 時の皇太子レイモンド・ロイ・ラ・エルドアが、婚約者であるアリスティア・グレーゼ公爵令嬢の胸を貫くまでは。




 ***




 普通の剣により絶命したサラの魂は成仏する事も出来ず、ずっと20年前に転生される事を待っていた。


 やがてその魂はセドリックが植えた木に宿った。


 そして千年の時が経ち。

 目の前にセドリック・ロイ・ラ・エルドアが現れたのである。


 彼が植えたその木の下に。


 陽の光りに輝く黄金の髪。

 瑠璃色の瞳。

 それはとても凛々しく若々しい姿の王子様。


「 ……やっと逢えた……()()()()()殿()()



 レイモンドはセドリックの生まれ変わりだった。


 それは千年の時を越えた巡り合い。

 二人は再び相見える事になったのである。



 レイモンドが現れた事で(いにしえ)の魔女サラの魂が動き出した。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ