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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第四章

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誰かが呼ぶ声




 この日アリスティアは、朝から離宮の奥にある一枚岩の前に来ていた。


 昨日には、レイモンドから離宮に行く事にダメ出しをされたのだが。

 レイモンドと時間を合わせて行くのは甚だ難しく。

 この日の午前中は、大事な議会があるとオスカーから言われた。


 しかしだ。

 魔力の調節をしたかった。

 そして、小屋の周りにある薬草も欲しかったのだ。

 それは魔女の森にも咲いていない珍しい薬草を、午後からの学園での薬学の研究に使いたくて。


 なのでどうしても午前中に。



 昨日のレイモンドとの話が、どうしても頭から離れなくて。

 考えないようにしているのに身体に熱が溜まって来ていた。



 一枚岩の前では思いっきり妄想した。

 正妃を迎えたレイが()()()()()()を抱く事を。


 キィーーーッ!!!


 あの瑠璃色の優しい瞳で。

 キィーーーッ!!!


 あの腕の中に。

 キィーーーッ!!!


 そして……

 キィーーーッ!!!



 ドカーンドカーンと何発も魔力を放出するが、身体の中心には熱が溜まる一方で。


 レイモンドと()()()()()()との閨を想像したら、魔力は留まる事がなかった。


 アリスティアの魔力は嫉妬だ。

 嫉妬心が大きければ大きい程に魔力の威力が増大する。


 ……多分。

 それはアリスティア自身も魔女が何なのかを知らないので。

 ジョセフの魔女の研究に期待している。



 一枚岩に魔力を次々に放出していると、アリスティアの指先に光る赤色の魔力は()()に変わった。


「 えっ!? 」

 自分でも分からない身体の異変に困惑する。



 ~魔女ゾイはレベルが上がった~


 すると……

 身体の中心にある熱が、身体の中を駆け巡るような感覚を感じた。


 その瞬間に魔力のコントロール出来なくなった。

 それは転生前に魔女になった時と同じ感覚。


「 駄目っ! 」

 アリスティアは、自分の身体を両手で抱き締めて身体を抱え込んだ。



 しかし。

 銀色の魔力が身体から放出されてしまい、銀色の魔力は小屋の方に飛んで行った。


 すると……

 小屋の辺りがパアッっと銀色に輝いたのが見えた。

 しかし、辺りは静かなままで。

 小屋に命中したのならば凄い爆発音がする筈。



「 あら?……当たらなかったのかしら? 当たったと思ったんだけど 」

 恐る恐る小屋の方に近付くと。


 小屋があった場所が更地になっていた。

 その周りにあった木や薬草も綺麗になくなっていて。


「 うそ……? まさか……消滅したの? 」

 自分の魔力の凄さに放心状態になっていた。



 幸いなのは放出されたのはこの一発だけだったと言う事。

 あれだけの魔力を押さえ込む事が出来たのは、アリスティアの()()()が向上していると言う事で。


 魔女になったばかりの転生前は、身体から溢れ出す魔力を全く制御出来なくて、街中を破壊した事を考えても。


 これはかなりの進歩だと言える。


 だけど。

 小屋を消滅させた事は確かなのである。

 跡形もなく。


 小屋には医学書やジョセフが作成した独自の資料もあった。

 天才ジョセフからは学ぶべき物が多いのは必須。


 どうしたら良いの?



「 ……えっ?誰? 」

 呆然として立ち尽くしているアリスティアの耳に、微かに声が聞こえた。


 誰かに呼ばれたような気がして、声のした薮の中に入って行った。


 すると……

 薮を抜けた先にあったのは一本の大きな木。


 その木の下に行くと……

 身体から力が抜け崩れ落ちた。


 そこからの意識はぼんやりとしていて。



 やがて。

 草木を踏む足音と声がした。

 ガヤガヤと大勢の。


 ジョセフ皇子殿下が来たのならば、小屋を消滅させた事を詫びなければならない。


 珍しい薬草までもを消滅させて。

 彼は……

 これから薬工場のプロジェクトを担う為に、久し振りに来たと言っていたのに。


 きっと小屋にあった資料が必要だったのだろう。

 媚薬以外の研究もしていた筈だ。


 動かない身体のままで座っていると、誰かがやって来る気配がした。


 ガサガサガサ。



「 ティア! 」

 茂みの向こうから飛び出して来たのは素敵な皇子様。


 キラキラとした黄金の髪が。

 綺麗な瑠璃の瞳が。

 優しい顔立ちが。

 背が高くその美しい佇まいが。



 ああ。

 なんて格好良いわたくしの皇子様。


 好き。




 ***




 今にも泣き出しそうなアリスティアの顔は、青ざめている。

 それも並大抵の青さではない。


 そして……

 瞳の色は赤い。


 アリスティアの前に跪いたレイモンドは、アリスティアの頬に手を当てた。


 冷たい。


 続けてやって来たカルロスとオスカーに、レイモンドは命じた。


「 カルロス!オスカー!直ちに後ろを向け! 」

「 ……御意 」

 アリスティアの頬に手をやり、愛おしそうに見つめているレイモンドに、兄達は慌てて後ろを向いた。


 流石に妹のラブシーンを直視したくはない。

 勿論レイモンドが、魔力の調節をしようとしている事は分かっている。



 レイモンドは片方の手をアリスティアの後頭部にやり、アリスティアの頬に手を添えたままに口付けをした。


 何故キスで魔力の調整が出来るのかは分からないが。

 やってみるしかない。

 今までのキスは魔力を抑制する為のキスみたいだったが。



「 ん…… 」

 やがて……

 ぼんやりとしているアリスティアの長いまつ毛が揺れた。


 唇をそっと離したレイモンドは、アリスティアの瞳の色がヘーゼルナッツ色になっているのを確かめた。


「 大丈夫か? 」

 アリスティアはコクンと頭を下げて頷いた。


 その視線を目の前にいるレイモンドからカルロスとオスカーに向けたアリスティアは、涙をボロリと溢した。


「 どうしましよう。わたくしは小屋を……小屋を…… 」

 おろおろと泣き出したアリスティア。

 涙を指先で拭うレイモンドは眉尻を下げていた。


 やはりティアだった。


「 ティア! 有り難う! 」

 レイモンドはそう言って、アリスティアを自分の胸に抱き寄せた。



「 えっ? 有り難う? 」

「 良かった。ティアの顔色が良くなってる 」

「 流石は皇子様のキスだぜ! 」

 カルロスとオスカーは二人の側にドカッと腰を下ろした。


 するとレイモンドは胡座をかいて、アリスティアを自分の膝の上に乗せた。


「 レディを地面に座らせたままの訳にはいかないからね 」

 そう言って肩を竦めたレイモンドに、アリスティアは嬉しそうに笑った。



 幼い頃はこんな二人の姿を何度も見た。


 カルロスが、小さなアリスティアを膝の上に乗せようとすると、直ぐ様レイモンドが自分の膝の上に乗せていた。


 僕の婚約者だと言って。


 二人を見ていたカルロスは、そんな事を思い出していた。


 

 レイモンドは先ずはアリスティアから事の経緯を聞いた。


「 どうやら魔力がレベルアップしたみたいですわ 」

「 レベルアップ? 」

「 魔女にもそんなのがあるのか? 」

 カルロスは複雑な顔をしているが。

 オスカーのキラキラとした顔は愉快だと言っている。


「 何をしたらレベルアップするのか? 」

 アリスティアを横抱きにして、包み込むようにして座るレイモンドは、アリスティアの顔を覗き込んだ。



「 レイと……()()()()()()との()を想像したら……魔力がどんどんと高まって、そうしたら赤い魔力が銀色になって……」

「 えっ!? ど……どうしてそんな妄想を? 」

 アリスティアからとんでもない言葉が飛び出した。


「 だって、レイが正妃を迎えたら……そうなるのでしょ? 」

 もじもじと言いにくそうにするアリスティアに、レイモンドは呆気に取られた顔をしている。


 ティアは閨を想像したのか?


 ブッ!!

 オスカーが吹いた。

 カルロスは口を押さえている。

 笑って良いものなのかと。



「 僕の妃はティアだけだと言った筈だ 」

 何度言ったら分かるんだと、レイモンドはアリスティアにデコピンをした。


 勿論、オスカーのデコピンよりもソフトに。



「 ……それで、()()()()()()に嫉妬をしまくっていたら魔力がレベルアップをしたの…… 」

「 嫉妬? 」

 腑に落ちない顔をするレイモンドに、アリスティアが口ごもるのを見ていたオスカーは思った。


 ああ、そうか。

 レイは知らないんだ。

 アリスティアの魔力は、嫉妬から来るエネルギーだと言う事を。



「 魔女アリスティアはね。殿下に関わる女への嫉妬が魔力になる……らしいです 」

 カルロスがその理由をレイモンドに告げた。


 流石に、もう秘密裏にはしておけないと。


 こんな凄い魔力を目の当たりにしたからには、皇帝陛下や父上は早急に魔力の検証をするだろう。

 ならば、殿下には前もって伝えておく必要があると考えて。



「 ティアの魔力が嫉妬だと? 」

「 嫉妬故に、ティアは魔女になったんだ 」

「 ……ティアは、朝日を浴びていた時に突然に魔女になったと聞いているが? 」

「 えっ? そうなの? 」

 アリスティアが驚いた顔をしてレイモンドの顔を見た。


 膝の上にいるから、また口付けをしそうな至近距離だ。


 すっかり忘れていた。

 あれは咄嗟についた嘘なので。



 アリスティアは何か言おとするオスカーを見て、目で合図をした。

 何も言わないでと。

 それを見たカルロスがオスカーの肩を叩く。


 アリスティアが魔女になった経緯を知れば、レイモンドがアリスティアを転生させた事を言わなければならない。


 愛するアリスティアの胸を《《時戻りの剣》》で貫いた事も。

 それが未来のレイモンドの正しい決断だったとしても。


 今の彼を苦しめたくはない。



「 しかし凄いな。破壊どころか消滅されるなんて 」

「 それが人に当たったらどうなるんだ? 」

 レイモンドが訝しい顔をしていた事から、カルロスとオスカーは話を変えた。



「 お前……やっぱり魔物はお前じゃないのか? 」

 またもやオスカーが洒落にならない事を言った。


「 わたくしだったら……タナカハナコに殺られるだけですわ 」

 アリスティアはそう言いながら、レイモンドの膝の上から立ち上がった。



「 いや、それはない。ティアが魔物だったら、ハナコが何らかの反応をしてる筈だ 」

 そう言い切ったレイモンドも立ち上がった。


 確かにそうだ。

 タナカハナコは聖女。

 側に魔物がいるならもう討伐してる筈。


「 良かった 」

 レイモンドの力強い否定は、アリスティアを安堵させた。


 ()()()()()()が消えたのだから。



 アリスティアはレイモンドのズボンやお尻に付いていた草や葉っぱを、せっせと払っていて。

 甲斐甲斐しく世話を焼くアリスティアに、レイモンドは嬉しそうに片方の手を差し出した。


「 おいで 」と言って。


 アリスティアがピョンとレイモンドの横に行くと、二人は手を繋いで歩き出した。



 そんな二人の後ろ姿を見ている、カルロスとオスカーは複雑だった。


 転生前。

 アリスティアが魔女になってしまったのは……

 レイモンドへの辛く切ない想いから。


 殿下。

 私の小さな妹は……

 殿下との結婚を夢見ていた貴族令嬢だったのです。

 花嫁のすげ替えなどとんでもない事をされて、壊れない訳がない。


 殿下に剣で心臓を貫かれても尚、殿下の事を愛して止まない女なのです。



 レイ。

 俺の可愛い悪役令嬢は……

 普通の令嬢ならば、到底耐えられない運命を生きているんだぜ。

 ティアがいればあんな未来にはならなかったんだ。


 レイも。

 この国の未来も。

 守る事が出来た俺の妹は凄い魔女だよ。



 そんな風に思いながら。

 カルロスとオスカーは……

 未来が二人を引き裂かないようにと願うのだった。



「 それよりも、レイ達はどうしてここに? 」

 皇宮に戻る道すがら。

 レイモンドはアリスティアに事の経緯を説明した。


「 じゃあ……わたくしが小屋を消滅させたのは…… 」

「 大金星だよ!ティアが兄上を救ったんだよ 」

 レイモンドはそう言って、アリスティアの包帯が巻かれた指先に唇を落とした。


 先程、レイモンドから有り難うと言われた意味が分かった。

 ニコラス・ネイサンの企てを、またもや退けたのだとアリスティアは胸がいっぱいになった。


 きっとカルロスお兄様は、記録しているあのファイルにこの事を書き加えるだろうと。



 後ろでは……

 オスカーが腹が減ったと喚いていて。

 カルロスもそう言えば昼食がまだだったと、懐から懐中時計を取り出して時間を見た。


「 まだ、食堂は空いてる時間ですね 」

「 じゃあ、久し振りに四人で一緒に食べよう 」

 そう言ったレイモンドはそれはそれは嬉しそうに笑った。


 太陽の陽が……

 レイモンドの黄金の髪をキラキラと輝かせていた。





「 ……やっと逢えた……()()()()()殿()()


 大きな木が嬉しそうに揺れていた。













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