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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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閑話─皇子様の苦悩




 聖女のお披露目舞踏会のその後の皇子様はすこぶるご機嫌だった。


 それは……

 ずっと心に巣くっていた泥々な嫉妬が消えたから。

 魔女の森で会ったあの三人の男達が、リタ、ロキ、マヤの変身した姿だったと言う事が分かったからで。


 良かった。


 こんな事なら、もっと早くあの三人の男達の事を聞けば良かったと苦笑した。



 そして、アリスティアがタナカハナコに言い放った言葉を思い出しては、顔が綻んでしまうのを抑えられなくなっていた。


『 わたくし達は()()()()よ!()()()(ひと)が他の女に触られるのを許す程に、わたくしの心は寛容ではありませんわ! 』


 皆の前で恋人同士()()()()と言ってくれた。

 ()()()(ひと)だとも。


 アリスティアとダンスを躍りながら、何度も何度もその言葉を噛み締めては、アリスティアの頭にそっと唇を寄せた。



 その時にふと、レイモンドにある疑問が湧き上がった。


 じゃあ?

 ティアのファーストキスの相手は誰なんだ?



 レイモンドとアリスティアが初めての口付けをしたのは、クリスタ皇后の誕生日を祝う舞踏会の時だ。


 あの時。

 アリスティアの瞳の色は赤く光り、髪は空中に向かって逆立ち始めた。

 魔女になったアリスティアをレイモンドは庭園に連れ出した。

 その時、アリスティアに突然にキスをされたのだ。


 それは魔力を調整する為のキス。


 分かってはいたが、夢中になってアリスティアの唇を堪能した。

 二人の初めてのキスだと言うのに、今まで抑えに抑えて来た男の欲望をぶつけられ、アリスティアはさぞかし驚いただろうと反省した。


『 ティア……初めてのキスだったのにごめん 』

『 大丈夫よ。初めてじゃないから 』



『 大丈夫よ。初めてじゃないから 』

『 大丈夫よ。初めてじゃないから 』

 アリスティアの言った言葉が頭の中でぐるぐると。


 やはりアリスティアは、自分以外の誰かとキスをしていたのだと言う恐ろしい考えが、頭の中を支配する。



 ずっと女達に言い寄られても阻止して来た。

 裸の女に抱き付かれたり、アリスティアに似た女に抱き付かれてキスをされそうになっても。


 自慢じゃないけど24年間無傷だ。


 それはロマンチックなシチュエーションを思い描いていたからで。

 二人の初めての口付けは……

 海の音を聞きながらが良いのか、雪の降る夜が良いのかと。


 ずっと兄妹のように過ごして来た二人だから、ファーストキスをするには特別な何かが必要だと思って。


 そんなシチュエーションとは違ったが、確かにあの時が二人の初めてのキスだった。



『 大丈夫よ。初めてじゃないから 』

 しかしアリスティアは違ったのだ。


 アリスティアが自分以外の男を好きになるなどあり得ない事。

 それは万が一にも。


 魔力の調整でないならば、一体誰とキスをした?



 ダンスが終わり、アリスティアはレイモンドの前でカーテシーをしている。


「 ティア…… 」

「 ? 」 

 なあにと、頭を傾げるアリスティアが可愛らしい。



 もういい大人なのに、ファーストキスが誰だとかを気にするのもどうかと思う。

 5歳も年下のアリスティアに、みっともない事を言いたくない。


 何時でもアリスティアの素敵な皇子様でいたい。


「 いや、何でもない 」

 レイモンドは聞きたい思いを押し留めて、アリスティアの手の甲にキスを落とした。



 アリスティアのファーストキスの相手は勿論レイモンドだ。

 それは転生前なだけで。


 だからアリスティアは、何の躊躇いもなくレイモンドに、このキスは初めてじゃないと言ったのだ。


 勿論、自分だと言う事を知らないレイモンドは、新たなる苦悩を抱えてしまったのだった。















次話から第四章です。

いよいよクライマックスに向かいます。


この続きも宜しくお願いします。

読んで頂き有り難うございます。

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