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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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聖女のお披露目

 



「 !? 」

「 うそっ!? 」

「 …… 」


 ここは皇宮の大広間。

 皇太子殿下が聖女をエスコートして現れた。


 世界を救うのは聖女だと、天のお告げがあってから2ヶ月。

 異世界から聖女が現れてから1ヶ月。


 言葉も話せない聖女だから、この世界に慣れる為にずっと皇宮で過ごしていた。

 皇太子殿下がそのサポートをしていると聞いていた。

 自分の住む皇太子宮に滞在させてまで。


 母国に帰りたいと言って毎日涙する聖女を、皇太子殿下が親身になって癒しているとも。


 若い皇太子殿下と若い聖女。

 そこにはロマンスが芽生えていると、国中で噂される程に。



 黒髪に黒い瞳の異世界から現れた聖女。

 その様相は神秘的であると。

 街では皇太子殿下と聖女の姿絵も出回っていて。


 優しく慈愛に満ちた異世界から来た聖女のイメージは崇高な姿だった。


 聖女。

 女神。

 天使。


 世間では、まだ見ぬ聖女の噂がどんどん一人歩きしていたのだ。



 しかし。

 本当に一人歩きだった。

 全くの。


 今、皆の目は聖女に釘付けになっている。

 それは自分や皆が抱いていた聖女のイメージとのギャップに。


 黒髪に黒い瞳は間違ってはいない。

 真っ直ぐに切り揃えられた前髪に、肩の上で切り揃えられた横髪と後ろの髪。


 確かに神秘的だと言えば神秘的なのだが。



 ヒラメみたいな顔は何気に薄い。

 目は細いから黒い瞳も見えるのは少し。

 丸い鼻に分厚い唇。


 何よりも滑稽なのはその大きな頭。

 ドレスがまるで似合っていない。

 きっとどんなドレスを着ても。


 聖女の周りにいる者達から、美しいとか美人とか可愛いとかの言葉が聞こえて来ない意味が分かった。


 全くこの国の者とは違う様相に、聖女は異世界から来た人間だと改めて認識する。


 そして思った。

 皇太子殿下と聖女のロマンスは全くのデマだと。

 彼が()()()ならば話は別だが。



 皇族専用の扉から出て来た二人は招待客の前をゆっくりと歩き、皇帝陛下と皇后陛下の元へ歩いて行く。


 その姿を皆が目で追っている。

 女性達は一斉に扇子を広げていて。


 時々躓いて皇太子殿下に寄りかかる所為も、3回もそれをすればわざとなのだと分かる。


 わたくし達の皇子様に無礼者!

   ……と聖女を睨み付ける者や扇子を広げてひそひそと話をする。


 登場してから僅か5分の間に聖女は嫌われた。

 そのあざとさに、いち早く気付いた女性陣達からの嫌悪感は凄まじい。



 そんな会場の様子をカルロスとオスカーは見ていた。

 この現象は転生前にも起こった筈だ。


 この舞踏会にはアリスティアは招待されていなかった事から、本当の事は分からないが。

 それでも、聖女を初めて見た者達の感想は同じだろう。


 転生前はこの舞踏会でレイモンドと聖女の結婚が発表されたのだ。

 我がグレーゼ家の大事な娘であるアリスティアが、花嫁になる筈だった日に。



 それを想像しただけで、カルロスとオスカーは腸が煮え返る思いがした。

 その時の自分達は、この場にどんな思いでいたのかと。


 そして……

 不本意な結婚を強いたげられたレイモンドは、どんな気持ちでいたのかと。


 優しい彼は笑って耐えていたのだろう。

 母親を助ける為に。

 アリスティアに申し訳ないと思いながら。

 心の中で信じて欲しいと叫びながら。



 二人はニコラス・ネイサン公爵を睨め付けた。


 ハロルド達大臣達のいる近くで、平然と笑みを浮かべながらレイモンドと聖女を見守っているニコラス・ネイサンを。



「 この場に奴がいるから、ティアには要注意だな 」

「 ああ。俺達でもこんなに憎悪を抱いているのだから、ティアはまた魔女になるかも 」

 以前もニコラス・ネイサンを見て魔女になった事がある。


 あの時、本気で魔力を放とうとしていたのだ。

 レイモンドが咄嗟に連れ出してくれたが。



「 ……で? ティアは何処にいるんだ? 」

「 まだ来てないようだ 」

 カルロスもオスカーも邸には帰らずに、執務室で夜会服に着替えた事から、アリスティアには会ってはいない。


「 ティアは母上とマリアと来ると言っていたから……遅れるのは仕方がない……な 」

 マリアは子供を産んでからの初めての社交界だ。

 まだ一歳のダイアンがグズれば、出るのが遅くなるのは仕方がない。


 二人は出入口を気にしながらも、レイモンドと聖女に注目をした。



 皇太子殿下と聖女が両陛下の元へ行くと、ギデオンが聖女の手を取り前に進み出た。


 会場の男性達は胸に手をやり頭を垂れ、女性達は一斉にカーテシーをした。


 ギデオンが片手を上げて合図をした。


「 この麗しき令嬢が聖女、タナカハナコ嬢だ。彼女は異世界から我が国……いや、世界を救うために現れてくれた救世主。彼女が魔物に対峙するまで彼女を庇護する事が我々に与えられた使命である 」


 ギデオンがそう告げると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。



 やはり彼女は聖女なのだ。

 嫌でも、無理でも、彼女を敬わなくてはならない。


 世界を救う唯一無二の存在なのだから。


「 聖女様! 万歳! 」

 皆が口々にそう言って、聖女を称えた。


 ものすごーく嫌でも。




 ***




 ニコラス・ネイサン公爵。

 彼はエルドア帝国の三大公爵の1つであるネイサン家の当主である。


 同じ公爵であるハロルド・グレーゼ公爵とは同い年であるが故に、子供の頃からハロルドと何かと比べられて来た。


 頭脳明晰、容姿端麗のハロルドにどうしても注目が集まり、ニコラスはずっとハロルドを憎んで来た。


 ハロルドは先帝の時代に、その頭脳を買われて若くして宰相に抜擢された。

 史上最年少の宰相だと騒がれて。


 当時の皇太子妃であるクリスタから、レイモンド皇子の婚約者にグレーゼ家の令嬢が選ばれた事が妬ましかった。

 まだ産まれてもいないのに決められていた事が。


 そう。

 自分の妻も妊娠中だったのだから。

 結局は自分の子は男だったから良かったのだが。

 もしも娘だったらと思うといたたまれなかった。


 そして……

 外戚は宰相になってはいけないと言う彼の持論で、彼は宰相を辞職した。

 そんなハロルドを皆は惜しみ、その後もハロルドを頼りにしていたのにも怒りを感じた。


 永い年月は彼を歪んだ人間にしていた。



 宰相として今まで上手くやっていた筈なのに、気が付いたら宰相を辞任しなければならなくなった。

 自分の栄華もこれまでかと思った時に聖女が現れたのである。


 ニコラスは聖女の後見人になり、もう一度輝きたいと思った。


 様相が悪い彼女が皇太子を陥落させるのは無理だろうと思った。

 皇太子が()()()なら話は別だが。


 それよりも皇太子は元婚約者とよりを戻そうとしていると聞いている。


 皇太子宮に聖女住まわせば何とかなるとニコラスは考えた。

 常に接している内に情が湧く事もあるだろうと。



 レイモンドとタナカハナコのロマンスの噂を流したのは、勿論ニコラスだ。

 聖女の後見人の自分からと言って新聞記者にリークした。

 二人は朝食を共にしたと言う話も、リークするつもりでいた。



 しかしだ。

 あのボンクラは役に立たなかった。


 朝食を一緒に取る意味をどう捉えたのか、彼女はレイモンドの朝食時に突撃したのだ。

 言葉が上手く通じなかったのも原因なのだろうが。


 それでもそこにいるのがレイモンドだけなら、まだ救いがあったのだが。

 婆さん達が先に一緒に食べていたと言うオチだ。



 ニコラスはタナカハナコにレイモンドの部屋に夜這いに行けと言ったのだ。

 朝方には警備員の交代がある。

 それを狙って忍び込めと。


 警備が行き届いている皇太子宮に入るのは難しいが、宮の中では比較的警備は緩く、自由に移動出来るからで。

 既にタナカハナコは皇太子宮にいるのだから容易い筈だと。


 夜這いを拒否されても、何時ものように「母国に帰りたい 」と言って泣けば、優しいレイモンドならば絆されるのは確実だ。


 もしかしたら一緒に朝食を取ってくれるかも知れない。

 彼は女性に恥をかかす事はしない筈だ。


 何よりも……

 聖女に母国に帰られたら困るのだから。



 ニコラスのレイモンドの認識は、母親である皇后に搾取された()()()()()()()である。

 優しいだけの。

 第一皇子のジョセフの方がまだ気骨があると思っていて。


 しかしそれ以来。

 レイモンドの周りの者達は、自分を警戒し始めたみたいだとタナカハナコが言う。

 同じ宮にいると言うのに、会う事さえも儘ならなくなっているのがその証拠だ。



 ニコラスが聖女の後見人になって1ヶ月が過ぎた。


 最初はタナカハナコを皇太子妃にするつもりだったが、流石に彼女では無理だと悟った。


 先ずはクリスタ皇后が許すわけがない。

 いや、この様相では国民も許さないだろう。


 現にこのお披露目舞踏会の会場では、皆がひきつった顔をしてるのだから。


 多分、今のままでは側妃になる事も無理で。



 だからこそ、魔物討伐は絶好のチャンスだったのだ。

 レイモンドと一緒に旅に出れば少なくとも側妃にはなれる。


 若い男女が旅を共にするならば、その責任を負わなければならない。

 それが皇太子殿下と言う立場であるならば尚更で。


 今回は()()に邪魔をされたが。


 因みにニコラスは、魔女の森に住む魔女リタが行ったのだと思っていた。

 魔女も魔物を討伐しようと模索しているのかも知れないと。


 その考えは国民も同じで。

 魔女の存在は知ってはいるが、魔女の事をよく知らないのだから、人々の見解はそんなものである。


 ただ。

 結局は聖女でない事から無駄な事に過ぎないのだと。

 天のお告げでは、世界を救うのは()()となっているのだから。



 あの時は……

 魔物は本当に魔女によって討伐されたのかとニコラスは焦りに焦った。


 結果、魔物は熊だった事で、次がある筈だと。


 彼は次の出陣に期待していた。




 ***




 凄いわ。

 皆が私に頭を下げている。

 カーテシーで出迎えられるなんて最高じゃん。


 どう?

 羨ましいでしょう。


 この後直ぐに、タナカハナコはレイモンドと踊る事になっている。


 皇太子殿下は王族としか踊らないと、侍女のメリッサから聞いた。

 後は婚約者だった公爵令嬢とだけだと。


 タナカハナコは自分が特別な存在だと改めて認識した。

 だから必死に練習したのだ。

 この日にちゃんと踊れるように。



 皇子様と踊れるなんて……

 この世界に来て良かった。


 噂では母国に帰りたいと毎日泣いていると言われているが。

 タナカハナコは侍女のいるこの生活に満足していた。


「 日本に戻る日が来ても絶対に戻るもんですか! 」

 ネイサンは皇太子妃になれると言っていたけど、私は側妃でも構わない。


 皇太子妃なんて責任が重そうだし。

 兎に角、レイ様と結婚出来るなら何でも良いわ。


 側妃だって妻には変わりはない。

 当然ながらエッチもするだろうし。

 キャッ!



 会場では宮廷楽士達が音楽を奏で始めた。

 今から、レイモンドとタナカハナコのダンスが行われる。

 何時もならば両陛下のファーストダンスからはじまるのだが。


 今宵は聖女が主役。

 予定では皇帝陛下と踊る事になっていたが、タナカハナコの要求でレイモンドと踊る事になっていた。


 兎に角、タナカハナコの要求は何でも叶えられていた。

 レイモンドとご一緒したいと言う事を除いては。


 あの朝の襲撃以来、侍従や侍女達によって皇子様はしっかりと守られていた。



 レイモンドから差し出された手に、タナカハナコは自分の手を乗せた。

 ホールの真ん中に進み出ると拍手が湧き上がる。


 ドキドキ。

 私を見つめるレイ様の瑠璃色の瞳が揺れているわ。


「 緊張しないで。僕に委ねたら大丈夫だから 」

「 はい 」

 ドキドキ。


 メリッサも言っていた。

 殿下はダンスがお上手よと。


 私を見つめるレイ様の瑠璃色の瞳が揺れているわ。

 早くあの逞しい胸に顔を埋めたい。



 しかし……

 音楽が鳴らない。

 鳴らないからダンスが始まらない。


 周りが急にざわざわとし始めた。

 何事かと周りを見渡せば皆はある方向を見ていた。


 目の前にいるレイモンドの視線もそこに注がれている。

 今、自分を見つめて優しく微笑んでくれていたと言うのに。



「 ? 」

 タナカハナコも視線をそこに向けた。


 皆の視線の先には……

 アリスティア・グレーゼ公爵令嬢と、3人の()()()()イケメン達がいた。












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