表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/124

側妃の誤算




 ギデオンとミランダは幼馴染みだった。

 ミランダの父親がギデオンの教育係だった事もあり、幼い頃から共に遊んだ関係だ。

 勿論、他にも皇子であるギデオンの幼馴染みの令息や令嬢は沢山いたが。


 ミランダはギデオンよりも3歳年上だ。

 他の令嬢よりも少しばかり年上のミランダは、ギデオンが甘えてくる存在だった。


 皇子教育で悄気るギデオンを励ましたり、泣いているとギュッと抱き締めたりと。

 彼の癒しになる存在であった。

 ギデオンもまた、激しい世継ぎ争いをしていたのである。


 勿論、ミランダは初めて会った時からギデオン狙いだ。



 ミランダは妃になる事を夢見て密かに努力をしていた。

 マナーを完璧にマスターするのは勿論だが、外交の為に必要だと外国語も学んだ。


 しかしだ。

 ミランダがどんなに努力をしても、親族に罪人がいると言う事から正妃にはなれなかった。


 それは酒を飲んで喧嘩をしての、逮捕歴があったと言うだけの些細な事だったのだが。



 ショックだったのはギデオンが否を唱えずにあっさりと、クリスタ侯爵令嬢との婚姻を受け入れた事。

 彼から一度も好きだと言われた訳では無かったが、彼は自分を離さないと信じて疑わなかった。


 その時のギデオンは、激しい世継ぎ争いを制して皇太子となったばかり。

 議会で否を唱える気力が無かったのだろうとミランダは自分を慰めた。



 二人の婚約が決まってからは会う事は無かった。

 いや、会う事が出来なかったのだ。

 周りの目が厳しくなった事で。


 デートをしている二人の後をつけたりもしたが、護衛が厳しくて側にも寄れなかった。

 騎士達に守られているクリスタがどんなに妬ましかった事か。



 側妃になればギデオンの寵を得られる自信はあった。

 皇太子妃となったクリスタは政略結婚でしかないのだから。


 側妃になりたい。

 側妃になってみせる。


 その一存でクリスタに避妊薬を飲ませると言う企てをした。


 2年だ。

 二人の間に2年子が出来なければ側妃になれる。

 それは気が遠くなる程の時間との戦いだったが、ミランダは耐えた。

 皇太子夫婦の仲睦まじい姿を見ても。


 側妃を選ぶのならば、ギデオンが自分を選んでくれる事は分かっていたからだ。


 事実、側妃になるとギデオンの寵を得られた。



 そしてミランダは直ぐに妊娠し、待望の第一皇子を出産したのだ。

 皇帝の寵もあり、第一皇子の生母である自分が皇宮で一番優遇される立場になった。


 クリスタが『 愛されない正妃 』と噂されているのを聞いて、どんなに胸の空く思いをした事か。



 だけどギデオンは、常に皇太子妃であるクリスタを第一に考えていて。

 側妃であるミランダは、終ぞ表舞台に立つ事は出来なかった。


 第一皇子を産んだのにも関わらず。


 皇宮で開かれる晩餐会や舞踏会や地方への公務に同行させるのは、何時もクリスタであった。

 夜会などの身内が開催する貴族間での宴には、同伴させてくれる事もあったが。


 その理由は明白だった。

 国民が求めるのは、皇太子と皇太子妃の仲睦まじい姿であり、皇太子と側妃の姿では無いのである。



 側妃と言う立場が皇子を産む為だけの存在だと気付いたのは、クリスタが妊娠した時だった。


 周りの貴族達の掌返しがそれはもう凄かったのだから。

 国民の祝福も自分の時とは全く違った。



 それでもギデオンはこの離宮に通って来てくれていた。

「 そなたといる時が癒しだ 」と言って。


 ミランダは幼い頃のように、ギデオンには姉のように接していた。

 膝枕をして、頭を撫でて。

 励ましの言葉を言って。


 いや、そうするしか無かったのだ。

 表舞台に出れない自分がこの皇宮で生きて行くには、ギデオンの癒しである事しか道は無かった。


 愛されているのに大切にされない存在。



 それに憤りを感じながらも、 彼が離宮に頻繁に通って来るようにと、ミランダは()()()()ある禁忌を犯していたのである。




 ***




 皇后クリスタを追い返した事で、侍女達だけでなくミランダもテンションが高かった。


 クリスタがこの離宮に来るのは今まで無かった事で。

 門前払いをしたから余計に。



 そもそも、毎年ギデオン主催で盛大に行われるクリスタの誕生日を、羨ましく思わない筈がない。

 自分には、身内だけを呼ぶささやかなパーティーしか開いてくれないのだから。


 勿論、不満は一切漏らさない。

 ミランダは控え目で謙虚な賢妃であらねばならないのだから。



 そして今回は、聖女なんかのお披露目舞踏会の為に、中止になってしまったのだ。

 流石に可哀想に思ったのか、少しの時間しか取れないが、二人だけで祝おうと言ってくれた事が嬉しかった。



 まさか。

 ()()話を聞かれるとは思わなかった。

 今まで話題にすらした事のない話だと言うのに。


 それはミランダと侍女の二人の、三人だけが知る事で。

 そんな秘密の話をしてしまう程に、やはり皆がテンションが高かったのだ。



 クリスタに避妊薬を使っていた事が知られてしまい、青ざめたミランダだったが。

 彼女が懐に短剣を忍ばせている事が分かった時に、ミランダは勝機を得た。


 ここでクリスタに切りつけられたら、彼女を皇后の座から引き摺り下ろせると。

 皇后が犯罪者になるのだから。



 ミランダはクリスタを挑発した。

 これを言えば、必ずや短剣を抜くであると言う事を言った。


「 ギーがわたくしを求めたのは、わたくしがギーの()()()()()だったからなのよ 」

 そしてこれは真実だった。

 それはミランダが婚約者候補から外されたと知った時の、一夜だけの関係。


 ギデオンが誰かのものになる前にと泣いて。


 だからこそミランダはギデオンに執着し、ギデオンはミランダを側妃に求めたのだった。



 クリスタの顔が嫉妬に歪んだ顔になった。

 彼女の目がつり上がる。


 切り付けられる瞬間には固く目を瞑っていた。


 怖くは無かった。

 邪魔なクリスタを消すには、今この瞬間しかないと歯を食い縛った。



 しかしだ。

 気が付いたら地面に転がっていた。


 宙に浮いたクリスタが地面に落ちて行くのがミランダの目に入った。


「 何……が? 」

 一体何が起こったのかが分からなかった。



「 クリスタ!! 」

 聞こえるのは愛しい(ひと)の声。


 だけど彼が口にしたのは自分の名前では無かった。

 駆け寄ったのも、抱き上げたのも、泣きそうな顔も。

 それは自分に向けられたものでは無かった。



 彼が一番大切にしているのは皇后。

 側妃である自分は大切にされない存在だと思い知る。


 いくら愛されていようが。

 彼の中では側妃は側妃なのだ。



 ミランダ・ラ・ハルコート。

 夫の姓である()()()()を名乗れない妃。


 その扱いが悲しかった。



 ミランダがギデオンを悲し気に見つめる中。

 彼に抱き上げられ運ばれて行くクリスタが、ミランダを見やった。


 クリスタが勝ち誇ったような顔をしたのを、ミランダはただ呆然と見ていた。


 ギデオンに運ばれるのは、血を流してぐったりとした自分だった筈なのにと。


 皇后クリスタは罪人になる筈だったのにと思いながら。



 恐るべき女同士の憎悪劇はここにもあった。




 ***




「 ミランダ妃。親父……いや、グレーゼ宰相が来るまでこのまま暫くお待ち下さい 」

 この場に残ったオスカーは、地面に座ったまま項垂れているミランダを立たせて、側にあった椅子に座らせた。


 この後、陛下は()()を寄越す筈だ。


 流石に皇太子の側近であるオスカーが、事情聴取をする訳にはいかない。


 彼女は皇帝陛下の側妃だ。

 そしてその側妃に切り掛かったのは皇后陛下なのだ。


 幸にも、侍女や使用人達はこちらの騒ぎに気付かずにまだガセボにいる。

 キャアキャアと何やら楽し気な声が、オスカーの耳にも聞こえて来ていて。



 皇后陛下と側妃の 諍い(いさかい)だけでなく、アリスティアも関係しているのだ。

 オスカーは初めてアリスティアが魔力を放つ瞬間を見た。


 魔力の威力も。


 先程から短剣を探しているが、見付からなかった。

 きっと焼き切れたのだろう。


 アリスティアの魔力はそれだけ凄い威力なのである。

 あれがクリスタに当たらなかったのは、一枚岩で練習したからで。


 少しでも当たっていたら、やはり聖女のようにクリスタも死んでいたに違いない。



 そして……

 それを皆に見られないで良かったと胸を撫で下ろした。

 皇后と側妃が見たかも知れないが。

 今、この場で騒ぎにならなくて良かったと。



 気になるのはジョセフだ。


 先程彼の姿を見たのだが、彼はもうここにはいなかった。


 ミランダ妃とジョセフ皇子の不仲説は聞いていたが、ここまでだとは思わなかった。

 倒れている母親を助け起こす事もなく、手を伸ばして助けを乞う母親を、一瞥して立ち去ってしまったのだから。


 無機質な顔のままで。


 皇后とレイモンドの確執も相当なもんだが、側妃とジョセフはそれ以上の確執があるのだと、オスカーは頭を横に振った。



 オスカーはこの惨劇の理由は知らない。

 勿論、レイモンドもだ。

 一枚岩のある離宮の奥に向かう所で、庭園を通りがかっただけなのだから。


 お茶会が終わっても、顔を見せに来ないアリスティアを探して二人はここまでやって来たのだった。


 皇太子宮を探してもいなかった事から、きっと一枚岩で魔力の調節をしてるに違いないと。


 もう、暗くなっていた事から足早に。


 皇太子宮の庭園から続く小路を通って来たら、この惨劇に遭遇したのである。



 こうなった理由なんてどうでも良かった。

 正妃と側妃の確執なんでどの時代でもある事。

 先代の時代は沢山の側妃がいた事から、この離宮では泥沼の戦いがあったと聞いている。


 だから……

 後は親父が何とかするだろうと。



 問題はアリスティアがそれを防いだと言う事だ。

 皇后が側妃を切り付ける事を。


 そこにアリスティアが居合わせた事は価千金だ。

 大事件にならずに済んだのだから。


 魔女になったアリスティアだけが防ぐ事が出来た意味。



 その事で、オスカーはある結論に辿り着いていた。




 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ