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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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離宮での遭遇

 



 エルドア帝国の巨大な皇宮には、皇帝宮と皇太子宮と離宮の三つの宮がある。


 皇帝宮には皇帝陛下と皇后陛下の家族が住んでいて、離宮は側室と側室達の産んだ皇子や王女が住む場所であった。


 世継ぎを残さなければならない皇族は、側妃を持つ事を許されている。

 正妃と側妃がバッティングしないようにと、このような仕組みになっていた。



 歴史に名を残せるのは正妃である皇后陛下のみ。

 それは皇后の立場を尊重するものであった。


 どれだけ側妃が優れていようが、どれだけ側妃が皇帝から寵愛されようが、皇帝宮に住むのは皇帝陛下と皇后陛下と決まっていて。

 側妃は皇子を産んでいても、離宮に住まなければならない立場だった。



 前皇帝が早くに身罷った事により、現皇帝であるギデオンと皇后クリスタは早くに皇太子宮から皇帝宮に移る事となり、レイモンド皇子も皇太子になるまでは皇帝宮で繰らしていた。


 本来ならばギデオンが皇帝に即位をした時に、直ぐにでも皇太子が確立される筈なのだが。


 第一皇子であるジョセフと第二皇子であるレイモンドの世継ぎ争いが激しく、レイモンドが皇太子に確立されたのは19歳になってからで。

 立太子の式典が行われ、レイモンドが皇太子宮に移ったのは20歳の時。


 後は婚約者であるアリスティアが、学園を卒業するのを待って結婚式を挙げ、彼女がこの皇太子宮に入内するのを待つだけだったのだ。



 建物は三つに分かれてはいるが、庭園は宮殿の周りをぐるっと囲むように造られていて。

 本来ならば行き来は出来ない構造になっている。


 しかしアリスティアは、皇太子宮の庭園から離宮の庭園に行く秘密の通路を知っていた。


 幼い頃から皇宮に遊びに来ていたアリスティアは、ちょこまかと動き回る活発な令嬢だった事もあり、皇宮を熟知しているのである。


 しかしだ。

 離宮の奥にあんな大きな一枚岩がある事は知らなかった。

 幼い頃、離宮に行ってジョセフ第一皇子と会った時から、レイモンドに言われるままに離宮には行かないようにしていた事もあって。



 綺麗に刈り込まれ丁寧に手入れされた庭園は、皇帝宮の庭園も皇太子宮の庭園も同じ。

 だけど離宮の庭園の奥深くまで歩いて行くと、だだんだんと木々が鬱蒼として来た。


 この森は魔女の森に似ているわ。


 皇宮にこんな場所があるとは思わなかったなどと思いながら更にその奥に進むと、先日魔力の検証に皇帝陛下達と訪れた一枚岩の前に出た。


 高さは30メートル以上はある崖が、スパッと切り取られたように岩肌を見せていた。



 この一枚岩を前にしてアリスティアは思った。


 この場所は(いにしえ)の魔女が魔力の調節を行った場所ではないのかと。

 刃物で切ったように出来た不自然な一枚岩は、誰かが削っものとしか思えない。


 だったら。

 魔女は正妃にはならなかったと言う、リタの話の方が信憑性がある。

 この離宮に住み、魔力を調節していた事が想像出来るからで。


 魔女が王太子妃になった事が、文献に記されていたとレイモンドは言ってはいたが。



 しかしどちらが正しいかといえば、もうそれは誰も分からない事。


 だけどレイモンドの望み通りに、もしも魔女が皇太子妃になれるのであれば、良き魔女である事は必須。


 魔女が忌み嫌われる存在であってはならないのだ。


 いや、たとえ皇太子妃になれなくとも魔力が役に立つ事がある筈。

 例えば先日の、街道を塞いでいた大きな岩を砕いたように。



「 それにはやはり、魔力の強弱を完璧にコントロール出来るようにならないと駄目ですわね 」

 今までは身体に溜まる魔力の熱量に注視していたが。


 そう。

 ()()()()()()はまだ消えてはいない。

 討伐したあの魔物は()だったのだから。


 嫉妬をしなくても魔力を出せるようにしたい。

 でないと、レイモンドと女がいる姿を見なければならない。


 その正体が婆さん達だと知っていても。

 あんなに美人でグラマラスな女が、レイモンドに腕を絡ませている姿は流石に心臓に悪い。



 因みにあの美女達は、ロキとマヤの各々の国の皇后だと言う。

 歴代でも一番美しいと言われている程の。


 二人の変身した姿が他国の王女の姿だと聞いて納得した。

 ドレスが異国のものであり、何気に古くさい仕様だったのだ。


 リタのレイモンドにも驚いた。

 時たま変身して貰いたいと思ってしまう程に。


 声がリタの声なのが残念なのだが。




 ***




 一枚岩に強弱を付けて魔力を放出し、微かに砕けるようになった。

 魔力の調節を終え一息ついていると、少し先の地面に薬草が生えているのを見付けた。


 そこに行って見ると、図鑑でしか見た事のない薬草も何種類かあった。


「 魔女の森にも無い薬草がここにあるなんて…… 」

 最近は薬剤作りをしてはいない事から、アリスティアは夢中になって薬草を摘んだ。



 そして……

 気が付けば辺りは薄暗くなっていた。


「 いけない。レイに叱られるわ! 」

 最近になり、茶会が終わって帰る時にはレイモンドの執務室まで来るように言われているのだ。


 皇太子宮でのタナカハナコとの接触を避けると、アリスティアとの接触も無くなったからで。


 慌てたアリスティアは、摘んだ薬草を脱いだ上着で包んだ。

 これ……無駄で摘んでも良いわよねと、今更ながらに不安になりながら。



「 あら? 」

 木々の向こうに小さな小屋があった。


 用具が置いてある庭師の小屋かとも思ったが、流石にこんなに離れた場所である筈がない。


 もしかして。

 (いにしえ)の魔女が使っていた小屋?


 そう思ったら確かめずにはいられない。

 アリスティアの好奇心がうずうずとして、早く帰らなければならないと言うのに、小屋に向かって歩いていた。


 ちょっと覗くだけですわ!ホホホと思いながら。



 小屋は魔女の森にあるリタの小屋位の大きさだった。

 永らく誰も訪れた事がないのか、周りには草木が生い茂り、小屋の中に入るとクモの巣だらけだった。


 しかしだ。

 中にあるものは、流石に(いにしえ)の魔女の時代の物ではなかった。

 永らく使用されてはいないみたいだったが、間違いなく現代の物だ。


 テーブルの上には大鍋やすり鉢や天秤など、薬を調合する器具が置いてあった。

 薬品用の瓶もいくつか。

 薬草を煮立てる釜戸もちゃんとある。


 きっと、皇宮医師か薬師がここで薬草を作っていたのだわ。



 皇宮には皇宮病院の横に薬剤を作る施設がある。

 それなのに、こんな場所にある小屋で薬草を作っていたのならば、誰かが秘密裏で作っていた事になる。


 そう言えば……

 薬草が生えている場所は種類毎に違っていた。

 あれは自然に生えていたのではなく、誰かがそこに植えたみたいだった。


 何だかワクワクするわね。

 でも、もう使われて無いのであれば、わたくしがここを使っても良いのでは?



 最近は学園に行けていない事から薬の調合はしてはいない。

 勿論、魔女の森にも。


 薬局に売りに行ってはいない事から、病気になった人々が困っているだろうと。

 アリスティアの作った薬はよく効くと評判なのである。


 魔力の調節を終えたらここで薬剤を作りたい。


 良い考えだわ!

 これは皇宮に来る楽しみになる。

 タナカハナコとのお茶会は苦痛でしかないが。



 もう茶会に来るのは止めたいと思っていたが、皇宮に来る理由が無くなれば、皇宮で何があったのかを知る事は出来ない。


 転生前は何も知らなかったし、知らされる事も無かった。

 しかし今生では、ちゃんと知りたいと思っているのだからやはり来るしかなくて。



 上着で包んだ薬草を抱えて、アリスティアはやって来た道を戻って行った。


 レイもオスカーお兄様も心配してるわよね。


 小屋に暫く滞在していたからか、もう辺りはすっかり暗くなっているから足早に。


 するとチラチラと灯りが目に入って来た。


 秘密の抜け道から見える離宮の庭園は、灯りが灯されとても綺麗だった。


 昼間は庭園を見る事は無かったが。



 その綺麗な灯りを楽しみながら、歩くスピードを落としてゆっくりと歩いていると、誰かの話し声が聞こえて来た。


 見付かったら大変とばかりにそのまま通り過ぎようとした時、その声は聞いた事のある声だと気が付いた。



 皇后様?

 こっそりと木の陰から見てみれば。


 クリスタ皇后陛下と向かい合っているのは、ミランダ・ラ・ハルコート妃。


 ギデオン皇帝の側妃であり、ジョセフ第一皇子の生母だ。



 皇后様と……

 ミランダ妃様。


 永く頻繁に皇宮に出入りしていたアリスティアでさえも、二人が一緒にいる所を見る事は少なかった。


 いや、もしかしたら初めてかも知れない。


 それよりも、ミランダ妃の姿を見る事自体が久しく無い事だった。


 アリスティアが離宮への出入りするのを、レイモンドからきつく止められている事もあるが。

 ミランダ妃が公の場に出る事は殆ど無かった事もあって。



 二人がどんな会話をしているのかが気になる。

 自分が知らないだけで案外上手くやっているのかも知れない。

 今まで二人の不仲説は聞いた事はない。


 正妃と側妃の関係。

 それはこの先の自分の未来にも起こる事。


 それがタナカハナコであるかは置いといて。

 自分が皇太子妃になるのかどうかは置いといて。


 これは見逃せないと、アリスティアは木の陰に潜んで聞き耳を立てた。



 しかしだ。

 二人は何かを言い争っていた。


「 えっ!? 」

 これは盗み聞きするのは不味いのでは?

 わたくしがここにいるのは不味いのでは?


 アリスティアの心臓がバクバクと波打ち始めた。



「 ゆ…る…さない 」


 刹那!

 アリスティアは二人に向かって魔力を放った。














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