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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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魔女の存在

 



 魔物を討伐したアリスティアは、リトルニ王国の国王に書簡を書いて貰う為にリタを向かわせた。

 その書簡を皇太子宮のレイモンドに渡して欲しいと。

 ローストビーフを交換条件にして。


 リタならば、他国の王宮へ前触れなく行っても怪しまれないし捕まる事はない。

 世界に三人いる魔女は世界が認める存在だからで。


 翌朝早くに、レイモンドとタナカハナコが出陣する事を聞いた。

 どうかそれまでに間に合ってくれますようにと、祈るような気持ちで。



 アリスティアはその後、魔力切れを起こした事で家の壁に凭れて身体を休めていた。

 そして、王太子や騎士達が現場を調べる様をぼんやりと見ていた。


 やがて熊肉を知る村長が、肉片から熊だと断言したのだ。


 そう。

 魔物は熊だったのだ。

 3メートルを越える大きさだった事から、村人達は魔物だと思い込んでしまったのである。



 まさかの()


 魔物を討伐したと偉そうに高笑いをした手前。

 討伐したのは良き魔女だとアピールしまくった手前。

 何だか恥ずかしくなったアリスティアは、村人の家のダイニングにこっそりと行き、魔女の森のリタの小屋に戻って来たのである。


 ロキとマヤと仲良く手を繋いで。


 そして……

 魔力切れを起こしていた事もあって、そのまま自分の部屋のベッドに倒れ込み、目が覚めたらレイモンドとリタがいたと言う訳だ。



 実は、今回の様な例は世界各国で起きていた。


 怪しい物は全て魔物だと政府に通報される事態となっていたのだ。

 それはリトルニ王国に現れた大きな熊だったり、狼だったり、或いは山でグラス人間である事もあった。


 魔物に対する極度の不安や恐怖感からそうなってしまっていて。

 魔物の正体が何であるかが分からないから尚更だ。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 世界にある3つの帝国にいる魔女達が聞いた天のお告げは、世界中を震撼させた。


 だからと言って半信半疑な所もあった。

 魔女の言う事なんか信じられないと。


 そしてお告げ通りに聖女が現れた事で、人々は安心感と共に、本当に魔物が現れるのだと言う恐怖をより強く持つようになっていた。



 リトルニ王国に出現したのは魔物ではなく、熊だったとアリスティアから聞いたレイモンドは暫し固まった。


 アリスティアにプロポーズをしたままにまだ跪いていて、その小さな白い手を握ったままである。


「 そうか……熊だったのか……」

 少しガッカリした顔をしたレイモンドが大きく一つ息を吐くと、アリスティアの顔を覗き込んで来た。


「 僕達の結婚は魔物を討伐してからだ! 」

「 …… 」

「 返事は? 」

「 はい 」

「 じゃあ、誓いのキス! 」

「 誓いのキス? 」

 アリスティアはクスクスと笑った。


 格好良くプロポーズを決めたにもかかわらず、肩透かしみたいになってしまい、レイモンドは少し拗ねたような顔をしている。


 それはまるで子供みたいな顔で。

 いや、子供の時にもこんな顔をした事はない。

 少なくともアリスティアの前では。


 5歳歳上のレイモンドは何事にも完璧な皇子様だった。

 完璧な皇子様になる為に頑張って来たのだから。



 アリスティアは今のレイモンドがとても好きである。

 何気に格好悪い所も全てが愛しい。


 勿論今までも愛し合っているとは思っていたが、やはりそれは政略結婚の延長線上にあったのだと思わずにはいられなかった。


 今の二人の関係はとても甘い。

 愛を囁き合ったり、手を繋いだり、口付けを交わして。

 もしかしたら、これが恋人同士の関係なのかも知れないと思うのだった。


 辛かったけれども。

 悲しかったけれども。

 いっぱい泣いたけれども。


 決められた通りの結婚をしていたら、こんな関係にはならなかったのかも知れないと。



 この先はどうなるかは分からない。

 だけど……

 今のレイモンドならば信じる事が出来る。


 たとえタナカハナコを側妃にする事になるとしてもだ。


 魔女が皇太子妃になれるのであれば……

 自分が皇太子妃になる事を受け入れようと思った。


 皇太子妃に誰よりも相応しいのは自分。

 レイモンドと共にその為に生きて来たのだから。



 転生前には、花嫁のすげ替えなどと言う事になったが。

 アリスティアが正妃だと言う事は譲らなかった事だけは確か。


 婚約を解消しているのにも関わらず、決して離そうとはしない今の状況と同じ様に。


 アリスティアは、レイモンドの熱い想いを甘受しようと決めた。

 レイモンドに愛されている幸せを感じていたい。


 それが束の間の幸せであろうとも。



「 レイ。大好きよ 」

「 僕も大好きだよ 」

 アリスティアがレイモンドの首に手を回すと、レイモンドは顔を傾けて来た。


 それは魔力の調節のキスなんかではない恋人同士の熱いキス。




 ***




 アリスティアはレイモンドの馬に乗って皇宮に向かった。

 隣国での()()()()を皇帝陛下に説明する為に。


『 魔物は昨夜魔女によって討伐された。聖女の出陣の必要なし 』


 リトルニ国王からの書簡に書かれていた内容を、アリスティアはレイモンドから聞いた。

 その魔女が自分なのだから、説明しなければならないのは当然で。



 二人が無事帰城した事で、皇帝陛下の元に皆が集められた。

 そこには父親であり宰相でもあるハロルド。

 そしてカルロスとオスカーもいた。


 今、アリスティアが魔女だと知る者は、グレーゼ邸の面々とここにいる者達だけなので秘密裏に。


 ハロルドはかなり渋い顔をしていて、カルロスとオスカーを見れば、呆れたような顔をアリスティアに向けていた。


 一人で勝手に隣国にまで魔物討伐に赴いたのだから、叱られる事は重々承知している。



 アリスティアはレイモンドに説明した通りに皆に説明した。

 魔女として何か出来る事があるかと思い、リタの道を使って行った事を。


 そして……

 魔物ではなく熊だった事も。


 熊が5メートルはあったから間違えたのだと、身振り手振りで。

 レイモンドがクスクスと笑うので4メートルにしたが。



「 何と……魔物じゃなかったのか? 」

 アリスティアの話にギデオンを始め、皆が落胆した。


 これからは魔物に怯えなくても良いと思っていたのは、勿論レイモンドだけではない。

 天のお告げがあってからの2ヶ月間あまり、ずっと魔物対策の為に時間を費やして来たのだから。

 自国の為だけではなく、他国の事まで。



「 良い良い。そたなが無事だったのが何よりだ 」

「 畏れ入ります 」

 落胆しながらもギデオンは、アリスティアに労いの言葉を掛けた。


 しかしだ。

 ギデオンはアリスティアが魔女だと言う事を改めて認識する事となった。

 熊を木っ端微塵に吹き飛ばした程の魔力を、皇帝としては容認は出来ない。


 アリスティアの魔力を実際に見た者はレイモンドだけで。

 良い機会だからと、アリスティアにその魔力を披露するようにギデオンは命じた。



 魔女は国が管理する存在。

 魔女を名乗るリタ達がそうであるように。


 いや、魔女アリスティアこそが管理しなければならない存在だ。

 害を及ぼす魔力の持ち主なのだから。


 そして、宰相であるハロルドこそが、アリスティアを検証しなければならない立場だったのだが。


 彼は……

 アリスティアが魔女だと言う事が、受け入れられずにいた。

 ギデオンもそれが分かるからこそ、そのままにして来たが。



 場所を離宮の庭園に移した。

 それはこの庭園の奥には崖に面した大きな岩があるからで。


 皆が見守る中、アリスティアは魔力を放出しようとした。

 手を前に伸ばして指に力を入れた。


 しかし……

 指先は赤く光る事はなく、魔力はプスリとも出なかった。

 瞳の色も髪も何も変わることは無かった。



「 父上。ティアは今、魔力切れを起こしていて、魔力を放出するのは無理です 」

 全力で魔力を放ったばかりだと、レイモンドがアリスティアを庇うように言った。


 勿論、それもある。

 しかし、アリスティアはそれだけではない事は分かっていた。


 アリスティアの魔力は嫉妬だ。

 彼女の醜い嫉妬の感情が魔力になるのである。

 力を入れたからと言って出せるものではないのだ。


 以前はタナカハナコのあのいやらしい顔を思い浮かべただけで、身体の中心に魔力が集まって来たのだが。



 今はレイモンドから愛されていると言う自信と確信がある。

 ましてやレイモンドからの愛を甘受しようと決めたばかりだ。


 そんなアリスティアの身体の中心には、魔力が溜まっては来なかったのだ。

 いくらタナカハナコの顔を思い浮かべても。



「 体調が戻ったら余に見せておくれ 」

「 はい。本日は申し訳ありませんでした 」

 アリスティアは頭を下げて、ギデオンとハロルドがこの場から去るのを見送った。


 去り際に、ハロルドが少しホッとした様な顔をアリスティアに向けた。

 愛娘の魔女の姿を見れなかった事に安堵したのだった。


 それは宰相としては不味い事。

 だけど、愛娘が魔女であると目の当たりにする事がどうしても辛くて。

 何時かは検証しないといけないのは分かってはいるのだが。


 そんな親心を知ってか知らずか、カルロスとオスカーはアリスティアの魔力を見れなかった事に残念がっていた。



 この後アリスティアは、この崖の岩を利用して魔力を調節する為に、離宮の庭園への出入りを許可された。




 ***




 翌日には、リトルニ国王から伝書鳩による手紙が届いた。

 魔物と熊を間違った事を詫びる手紙だ。


 それを聞かされた騎士団の騎士達を初め、皇宮の皆は落胆した。

 昨日は魔物が討伐された事に喜んだ事から余計に。


 皇帝陛下は出陣の予行演習になったと笑っていたが。


「 魔物がそう簡単に討伐されるなら、聖女様がわざわざ異世界からやって来る筈はない 」

 それが皆の見解だった。



 その後、この事が新聞に載った事により、聖女の重要性がより強くなって行った。

 それはもう熱狂的に。


 それと共に魔女の存在も注視される事になった。


「 魔女の名はゾイと言うらしい 」

「 魔女の森のリタの弟子らしいぞ! 」

「 熊をバラバラにした程の凄い魔力なんだと 」

 あの熊による被害が大きかった事もあって。


 十数人の村人が襲われて死傷者も多く出た。

 家畜も食べていた事も伝えられた。


 魔女ゾイが行かなければ、もっと被害が出ていたのではないかと。



 そんな中、皇宮では聖女のお披露目の舞踏会の準備が予定通りに進められていた。


 異世界から聖女が現れてから一ヶ月近く経った。

 ずっと皇太子宮にいた聖女が、貴族や新聞記者の前にいよいよ披露されるのだ。



 転生前には、この舞踏会で皇太子殿下と聖女の結婚が発表されたのだった。


 レイモンドとアリスティアが結婚式を挙げる予定だった日に、レイモンドと聖女の結婚式をする事を。















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