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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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魔女の弟子参上

 



 早朝のリトルニ王国の片田舎に現れた魔物は、村人を襲い建物を破壊し、村人達を恐怖に怯えさせた。


 村人達の元に王太子率いる軍隊が駆け付けたのは夜遅くになってから。

 ただの賊ならば王太子がわざわざ来る事はないのだが、何せ相手は魔物だ。


 それも世界を滅ぼす魔物なのである。


 得体の知れない物に対峙する時には、やはりその場で判断し指令を出せる王太子が、現場に駆け付けるのはどの国も同じだ。



「 この村の人々や近隣の村人達も避難させろ! 」

 王太子の登場でやっと村人達のパニック状態が収まった。


 村人達がざわついているのは、魔物だけではなく、初めて見る凛々しい王太子の姿もあるだろう。


 今は魔物の姿は見えないが。

 がさがさと言う音で何処かに潜んでいるは確かだった。


 このままエルドア帝国から聖女が来るのを待つしかない。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 村人達の話では、体長は2メートル、いや5メートル、もしかしたら10メートルはあると言って情報は錯綜した。



 ジリジリと時間だけが過ぎて行く。


 やがて夜になり魔物が王太子達に姿を見せた。

 暗くて全体像は分からなかったが、かなりデカイ生物なのは確かだ。

 この場からはかなり離れてはいるから、その正確な大きさは分からないが。

 ただ、流石に10メートルもなかった。



 王太子や騎士達は剣抜き、弓兵達は弓を構えた。


 その時。

 黒いフードを被った女が王太子の前に現れた。

 何時何処から現れたのかは分からないが、小さな3人の婆さん達もいる。


「 君達は誰だ!? 危ないから下がりなさい 」

「 わたくしはエルドア帝国からやって来た魔女ゾイ。ここにいるリタ、ロキ、マヤの弟子ですわ 」

「 魔女だと? 」

 世界にいる魔女は、エルドア帝国のリタ、タルコット帝国のロキ、レストン帝国のマヤの三人だと聞いている。


 その魔女達が天のお告げを聞いた事は勿論知っている。


 確かにこの婆さん達は魔女っぽい顔をしている。

 絵本にある通りの。



「 この者達が魔女の森に住む魔女……と弟子? 」

 魔女は忌み嫌う存在。

 それは()()があるからで。


「 おい! 魔女でも殿下に礼を尽くせ! 」

 その時、王太子の側近がゾイの肩を掴んだ。


「 よせ! 魔女殿に失礼な事をするな!」

 魔女は魔女。

 彼女達は、皇帝とも対等に話せる特別な地位にある存在だ。



 肩を掴んだ側近の手をペンと払ったゾイは、改めて王太子に向き直った。


 そしてカーテシーをした。

 その所為がとても美しい。


 フードを深く被ってはいるが、横でウロチョロしている他の魔女よりはずっと若い魔女。 

 そして貴族令嬢。

 平民の女性ならば、こんなに美しいカーテシーは出来ない。


 魔女は人間の突然変異と聞いている。

 三大帝国の三大魔女に弟子がいるとは聞いた事はないが、弟子がいてもおかしくはない。 


 それが貴族令嬢であっても。

 王太子はそう考えてゾイに改めて聞いた。



「 それでゾイ殿は何をしにここに来たのか? 」

「 わたくしの()()で、魔物を攻撃致しましょう 」

「 魔物は聖女でなければ討伐出来ない 」


 そう。

 魔物を討伐出来るのは聖女だけ。


「 わたくしの魔力で、タナカ……聖女が来るまでの足止めには…… 」

 話している途中で彼女の瞳の色が赤くなった。


 魔物がこちらに向かって走り出したのだ。



 王太子の目の前で、ゾイが被っていたフードがフワリと取れた。

 現れたのはそれはそれは美しい令嬢。


 瞳の色は燃え上がるように真っ赤になり、彼女のミルクティー色の髪が空中にフワフワと遡りながら浮き上がった。


 そして……

 赤く光った指先を魔物に向けた。


 刹那!

 その指から赤い魔力を放たれた。


 その赤い魔力は魔物に向かって真っ直ぐに飛んで行く。


 ドカーンッ!!!


 凄い爆音と共に魔力に当たった魔物は、バラバラに砕け散った。


 それは一瞬。


 魔女ゾイは魔物を殺ってしまったのだ



 目の前で起こった信じられない出来事に周りは静まり返っている。


「 わたくしは()()()()ですわ! オーホホホホ 」

 魔女ゾイの高笑いだけが辺りに響いていて。


 何時までもしつこく。

 ()()()()を連呼して。



 そこにいる騎士達は恍惚として魔女に見とれていた。

 ここにいる誰もが魔女のその美しさに魅了されていた。



 勿論、王太子殿下も。




 ***




 この日。

 アリスティアとタナカハナコはお茶会の席にいた。

 流石に毎日は欠席は出来ないからか、この日はちゃんとアリスティアの前に座っていた。


 しかし。

 何時ものように黙りのお茶会だ。

 何を話し掛けても言葉が分からない振りをするから、今では話し掛ける事もしない。


 侍女が出したお茶を飲み干したらお開きだ。



 その時、誰かがサロンに入って来た。

 それは皇帝陛下の側近の一人だった。

 皇太子殿下の側近はオスカー一人だが、陛下には三人の側近がいる。

 皇帝の立場がどれだけ忙しいかが分かると言う事だ。


 側近はアリスティアに軽く会釈をすると、聖女に告げた。


「 緊急事態が発生致しましたので、陛下が聖女様をお呼びです 」

「 緊急事態? そこにレイ様はいるの? 」

「 はい。もう陛下の元に向かっていると思います 」

「 じゃあ、行くわね 」

 ウフフと不気味な顔をして笑ったタナカハナコは、アリスティアの顔をチラリと見た。


 勝ち誇った顔をしている。


「 じゃあ、()()()はここでごゆっくりね〜 」

 タナカハナコはそう言い残して、側近の後を歩いて行く。

 身体が左右に揺れる歩き方が気になる。



 流暢に喋ってるじゃないの。

 やはり話せない振りをするのはわたくし相手だからなのね。


 アリスティアは残った紅茶をコクリと飲んで席を立った。



 行かいでかっ!と、アリスティアは二人の後を追った。

 少し間を開けて。


 緊急事態と聞いたら行かない訳にはいかない。

 もう、何も知らないアリスティアではいたくない。

 後に兄達からは聞く事にはなるだろうが。



 集められた部屋の窓の外に潜んでいれば、中の様子がよく分かる。

 5月なので窓が開け放たれていたのでラッキーだった。


「 リトルニ王国に魔物が出現した 」

 ギデオンの言葉に皆は驚きの声を上げた。

 勿論、アリスティアも。


 思わず叫びそうになり慌てて口を押さえた。



 魔物が出現したですって?

 わたくしが転生前にはそんな話は聞いた事はなかった。


 いくら秘密裏にしていたとしても、出陣したら秘密裏には出来ない。

 街には沢山の人達がいるのだから。


 うーんうーんと転生前のこの時期の事を思い出そうとしたが、アリスティアは何も思い出せなかった。

 この頃の事で思い出されるのは、レイモンドとタナカハナコのロマンスの噂ばかりで。



 皇太子殿下と共に出陣を命じられたタナカハナコは、皇帝陛下の前で跪いた。


「 私はこの時の為にこの世界に来ました 」

 会場からは感嘆の声が上がった。


 ほう。

 一応自分の役割は分かっているのだわ。


 だけどアリスティアは、今のこのタナカハナコが聖女の能力を出せるとは思わなかった。



 聖女の能力。

 それはあの()()()()にあるのでは?とアリスティアは思っていた。


 タナカハナコは始終四角い物を手にしては、天にかざしたり振ったりしながら、ぶつぶつと何かを言っている事もあって。


 あの四角い物は壊れているのだろう。

 だからジョセフ皇子殿下に見せたのだ。

 彼は科学者なのだから。


 そしてこの日のお茶会でも、四角い物を天にかざしたりしていた事から、ジョセフの力を持ってしても直せなかったのだと。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 だったら。

 共に討伐に向かう()()が危険だわ!


 タナカハナコが使い物にならないのだったら、魔物に殺られるかも知れない。


 気が付いたら駆け出していた。



 魔物が現れたのだから魔物はわたくしではなかった。

 自分が魔物でないなら魔女である自分が何か役に立つかも知れない。


 もしかしたら魔物は自分ではないのかとずっと思っていて。

 レイモンドとタナカハナコに、討伐される自分を想像しては悲しくなっていたのだ。

 シクシクと。



 ()()()()になりたい。


 それが魔女になってしまったアリスティアの願い。




 ***




 魔物は隣国リトルニ王国の片田舎に出現した。

 それはソニリ地方。


 アリスティアは以前から思っていた。

 リタ達の通る道は、魔女の森の道と同じなのではないのかと。


 だったら。

 自分も通れるかもと。


 勿論、定かではないが。


「 やって見なけりゃ分からないわ 」

 そう思いながらアリスティアは帰宅した。



 リタ達は夕方には何時もグレーゼ邸のダイニングに来ている。

 この日もちゃんといてくれた事にホッとした。


 明日の朝に出陣すると聞いた。

 出来れば今すぐにでもリトルニ王国に行きたい。


 自分の足下で、逃げ惑う人々の姿が目に焼き付いている。

 それと同じ事がリトルニ王国でも起きているのだから。



 アリスティアは今すぐにでも道を試してみたいが、婆さん達は食事が終わるまでは梃子でも動かない。

 兎に角、食への拘りが凄いのだ。

 何千年も生の作物ばかりを食べて来たからか。



 アリスティアも婆さん達と一緒にシェフの料理を食べてから、リトルニ王国に魔物が出現した事を話した。


 天からお告げを聞いたのは婆さん達だ。

 彼女達は魔物に興味を持ってくれた。


「 見に行くとするか 」

「 見に行くとするか 」

「 見に行くとするか 」

「 わたくしも! 」

 アリスティアはハイッと手を上げた。


 椅子から立ち上がった婆さん達は、いきなりダイニングの床に沈んで行った。

 次々に。


 最後に沈むリタの手を咄嗟に握ったら、アリスティアもそのまま沈んで行った。


「 あ~れ~ 」と言う声が小さくなって行く。



 そして出て来た先は何処かの家のダイニング。

 何故ダイニング?。

 やはり食い意地のせいなのか?


 兎に角、人が居なくて助かった。

 鉢合わせをした際には、驚きのあまりに殺されそうだ。

 不法侵入で。


 そう。

 家人はこの家に居なかった。

 テーブルの上にある食べ掛けのパンとスープは朝の物みたいで、倒れている椅子もある。


 これだけでも緊急事態だったのかが分かる。

 皆は慌てて逃げたのだ。


 どうかこの家の人が無事に避難をしていますようにと、祈らずにはいられない。



 家を出ると、沢山の松明が灯されていた。

 騎士達がいて。

 皆がある場所を見据えている。


 その後ろ姿には皆の緊張感滾っている。

 殺伐としたその雰囲気が、アリスティアにも緊張感と不安感が身体中に湧き上がった。



 その視線は遠くにいる黒い塊に注がれていて。


 魔物。

 こいつが出現するから、わたくしの人生が滅茶苦茶になった。


 そう思うと自然に魔力が溜まって行くのを感じるのだった。



 やがてアリスティアは……

 魔物に向けて魔力を放つ。


 渾身の魔力で。













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