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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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第一皇子と聖女

 



「 使えないわ~! あの糞オヤジは何なの? 」

 あいつは馬鹿じゃないの!?と、タナカハナコは地団駄を踏んでいた。


 素敵で優しい皇子様との恋の進展は何時なのと、全く進まない恋愛ストーリーにイライラとして。


 タナカハナコは自分の後見人となったネイサンとは定期的に会って話をしている。

 それはアリスティアとお茶会をするあのサロンで。



 ネイサン公爵邸に住まないのは、やはり聖女を政府が責任を持って保護する為。

 勿論、公爵邸に行けと言われても拒否する。

 物語のヒロインとヒーローの恋物語はお城で始まるのだから。


 有りがちな話である、ジジイのいる大聖堂なんかに住みたくもない。

 何よりもレイモンドと会えないのでは話にならない。

 皇子様からのお姫様扱いは最高だ。



「 殿下との恋仲を新聞社にリークしたから、殿下との婚約の話が持ち上がる筈だ 」

 ニコラスは自信たっぷりにタナカハナコに言った。


 そして。

 この国では二人で朝食を共にする事は、夜を共に過ごしたと言う意味になる事も。


 そんな噂が流れると、当然ながら大臣や議員達から議会で皇太子殿下と聖女の結婚の進言が出るに違いないと。


 だから。

 頑張って早起きをして突撃したと言うのに。

 因みにタナカハナコは何時も昼近くまで寝ている。



 皇太子殿下と聖女の恋になるストーリーの筈なのに、アリスティアがかなりしつこく邪魔をして来るので、思うように進まない事もあって、タナカハナコは少し焦りを感じていた。


 彼女の父親は宰相だから余計に。


 婚約を()()された分際で何なの?


 タナカハナコは、アリスティアが悪役令嬢だと言われていた事を聞いた。


 きっとこの物語は、皇太子殿下と悪役令嬢の()()()()から始まったのよ。

 聖女()が現れるのをレイ様は待っていたと言う事ね。



 朝から着飾って行ったダイニングには、何だか薄汚れた婆さん達がいた。


 婆さん達の正体は魔女の森に住む魔女とその友達らしいと、後から侍女のメリッサから聞かされた。

 リタと言う魔女が、聖女()の転生を天のお告げで聞いたのだと。


 そんな事はどうでも良かった。

 魔女の森に住む魔女など、乙ゲーや漫画の中では、モブ中のモブに過ぎないのだから。



「 ババア達がいるなら二人だけの朝食にはならないじゃん 」

 タナカハナコは項垂れた。


 まあ、今回は邪魔をされたけど、何時でもチャンスはあるわ。

 何せ私とレイ様は同じ屋根の下に住んでいるのだから。



「 聖女様の国と違って、我が国では婚約をしていない男女が朝食を共にする事は出来ません 」

「 そんな事は分かってるっちゅーの!! 」

 分かっていて突撃したのだから。


 侍女のメリッサや侍女頭のロザリーから説明されたが、タナカハナコは理解出来ない振りをして翌朝もダイニングに突入した。


 言葉が通じない振りをするのは都合が良い。

 何も分からない天真爛漫を演じれば、何をしても皆はニッコリと笑って許してくれるのだから。

 時には涙もぶっ込んで。



 しかしだ。

 そこにはレイモンドはいなく、彼は自分の部屋で朝食を食べていると聞かされた。


 流石に皇太子殿下の部屋には行けない。

 部屋に通じる廊下の扉の前に立つ、騎士団の騎士達は突破出来ない。



 皇太子宮の使用人達は、レイモンドが聖女に会わないようにしている事を察した。

 そこにはアリスティアへの配慮がある事を彼等は知っている。


 それは新聞にあんな記事が出たからで。


 国民達は皇太子殿下と聖女の恋に熱狂的になったが、肝心のレイモンドから距離を置かれてしまう事になった。

 夕食でさえも何らかの理由を付けて断られている。


 勿論、お茶会も然りだ。



 お茶会の時。

 彼にエスコートされてサロンに行った時の、あの公爵令嬢の顔。

 彼女の前で楽しく会話をするのが、どんなに小気味良かった事か。


 言葉を丁寧に教えようとするレイ様の、あの唇の動きが色っぽい。

 ヨダレが出そうな程に。


 何時かはあの逞しい胸に抱かれてキスをされたい。


 そう思っていたタナカハナコの思惑は外れたのだ。



 同じ屋根の下にいるからと言っても、皇太子宮は恐ろしく広い。

 偶然を装い会おうとしたが無駄だった。


 ニコラスからは、「 聖女様は殿下と同じ屋根の下で愛を育んで下さい 」と言われていたが。


  会う事も出来なくなったと言うのにどうしろと言うの?

 あのボンクラオヤジの作戦に乗った私が馬鹿だったわ!


「 レイ様と会えないなら、この退屈で不便でしかない城で何をすれば良いのよーっ! 」

 スマホも動かないままだしと言って、タナカハナコは癇癪を起こしていた。



 そんな頃。

 ジョセフから会いたいと言う申し出があった。


「 えっ!?第一皇子がいるの!? 」

 タナカハナコは歓喜した。


 ジョセフが側妃の子供だから皇太子になれなかった事。

 母親である皇帝陛下の側妃と共に離宮に住み、未だに婚約者がいない事をメリッサから説明された。



 これってもしかして。


『 皇太子殿下と第一皇子の、異世界から現れた麗しき聖女を巡る骨肉の争い 』


 来たわ!

 ファンタジー恋愛はこうでなくっちゃ!

 きっと私が第一皇子との逢瀬を繰り返していれば、レイ様も焦るに違いない。


「 勿論!会うわ! 」

 会うに決まっている。


 皇帝陛下もレイ様もあんなに美形なのだから、きっと第一皇子も美形に決まっている。


 見ないでどうする!

 


 第一皇子と第二皇子。

 元婚約者であるあの悪役令嬢がいるレイ様よりも、婚約者のいないジョセフ様の方が良いのかも?


 いや、もしかしたら不細工なのかしら?

 だから婚約者もいないとか?

 美形と不細工な兄弟の芸能人は沢山いる。


 そんな事を思いめぐらせながら、タナカハナコはガゼボに行った。


 美形だった。

 喜びの鐘が頭に鳴り響く。



「 そなたが聖女か? 」

「 はい 」

「 そなたの国の事を聞かせてくれ! 」

 ジョセフはそう言うなり気怠るそうな顔をした。


 キャア!素敵。

 瞳の色が紫!

 この、拗ねたような虚無感のあるオーラが良いわ。


 きっと彼は聖女()に癒しを求めるパターン。


 レイ様に似ているけど。

 まるでタイプが違う。


 学者だからもっと華奢な体躯だと思っていたが、案外いける身体だ。

 背も高いし。

 レイ様程には高くはないけれども。



「 あの……私をハナコと呼んで下さい 」

 タナカハナコは、とって置きのスマイルをジョセフに向けた。


 誰が見ても恐い顔だ。



「 ……そなたの国の話を聞かせてくれと言ったのが聞こえなかったのか? 」

「 えっ? 」

 威圧的な所為は、柔らかい雰囲気のレイモンドとは全く異なるもの。


 この日。

 タナカハナコはまるで取り調べのように扱われた。

 言葉が直ぐに通じないから、彼は余計にイライラとしているようで。


 通訳と言う程ではないが、語学の講師が側にいてくれてはいたが。

 彼もジョセフの前ではずっとビクビクとしている。



「 何?第一皇子って? 怖過ぎるぅ~ 」

 これは、世継ぎ争いでレイ様に負けたから、歪んだ性格になったに違いない。


 いくら私を求めて来てもこの皇子はないわ。

 やはり私はレイ様一択!



 でも。

 彼が科学者なら、このスマホを動けるようにしてくれるかも知れない。


「 怖いけど、スマホが点くなら次も我慢して会うわ! 」

 ネットは出来ないのは当たり前だけど、写真だけは撮りたい。


 レイ様の凛々しい姿を。

 このスケールが凄い皇宮を。

 私のドレス姿を。


 何時か日本に戻る事があるならば……

 皆に自慢したい。



 そしてあの日。

 ガゼボでジョセフと会ったタナカハナコは、彼にスマホを見せていたのだ。


 ジョセフは興味深そうにスマホを覗き込んで来た。

 日本の話は半分つまらなさそうに聞いているが。


 そりゃあそうだろう。

 テレビとか車社会とか高層マンションとかオタク文化とかを説明されても、全く意味が分からないのだから。


 そして。

 オタクのタナカハナコは説明下手だった。

 日本の説明をする時はJK語も出るから余計に。



 近いわ!

 うわっ!まつ毛が長い。

 鼻が高い。


 男とこんなに近くに顔を寄せ合ったのは初めて。


 良い匂いがする。

 レイ様とは違った香り。


 スマホの説明をしているタナカハナコは、ドキドキしながらスマホを手に取るジョセフの見つめた。



 勿論、近くにはタナカハナコの侍女のメリッサも、ジョセフの侍女もいた。

 恋人関係でもないのに、男女が二人で会うわけがない。

 ましてや皇子様だ。


 アリスティアは気付かなかったが。


 レイモンドとタナカハナコがガゼボにいると聞いただけで、彼女は既に魔女になっていたのだから。


 魔女になると、周りが見えなくなるのが難点である。




 ***


 


「 皇太子殿下と聖女様の噂で持ちきりですね 」

 離宮にあるジョセフの部屋で、新聞を手にしているのは彼の侍従であるヨーゼルだ。


 ジョセフは公務をしていない事から、オスカーのような側近はいない。

 彼への連絡は主に彼が中心に受け持っている。



「 国民は聖女様に夢中ですから、皇太子殿下と結ばれればアリスティア様は…… 」

「 興味ない 」

 ジョセフから吐き捨てるように言われて、ヨーゼルは慌てて口を噤んだ。


 ジョセフが興味がないと言ったら、もうそれ以上は話をしても無駄だと言う事は分かっているからで。



 ヨーゼルは前任の侍従が辞任した後に、彼の世話をしている侍従である。

 歳は40代の前半。

 なのでジョセフの幼い頃の事は知らない。


 そこがレイモンドの侍従であるマルローじいとは違う所であった。



 科学者であるジョセフは、研究に夢中になると風呂にも入らない事が多く、使用人達にとっては結構手がかかる皇子である。

 

 そして……

 そこが良いのだと皆は思っている。



 実は。

 彼等はジョセフとアリスティアとの婚姻を望んでいた。


 それは……

 アリスティアと関わりを持ってから、ジョセフは何気に楽しそうにしているからで。


 それは他の令嬢にはなかった所為だ。


 ジョセフももう27歳。

 やはり早く結婚をして欲しいと思っていて。


 皇太子になれない彼は、結婚をすると新しく公爵の爵位を与えられ皇族から離れる事になる。

 いつまでもこの離宮にいる訳にも行かない事から、皆はヤキモキしているのだ。


 勿論、主君に付いて行くつもりだ。



 公爵令嬢であるアリスティアも、ジョセフと結婚すれば公爵夫人になれる。

 皇太子妃になる筈だった彼女が、侯爵家に嫁いで侯爵夫人になるよりは良い条件だと思っていて。


 勿論、レイモンドとの婚約を解消しているからこその望みなのだが。


 だだ、レイモンドがアリスティアを手離そうとしない事が難点だった。



「 私はただ。彼の一途な想いに興味があるだけだ 」


 ジョセフは独り言ちた。












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