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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第三章

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進撃のアリスティア




 聖女が現れて二週間が経った頃。

 皇家からグレーゼ公爵家に書簡が届いた。


 それは皇宮舞踏会への招待状だった。

 聖女の歓迎会と皆に御披露目をする為に、急遽開催される事になった舞踏会だ。


「 わたくしの名前が……ありますわ 」

「 当たり前でしょ?貴女は公爵令嬢なのですよ 」

 公爵邸のリビングで、アリスティアと母親のキャサリンが招待状を手に取っていた。


 エルドアの紋章が入った招待状には、家族全員の名前が記載されていた。



 そう。

 当たり前なのである。

 公爵家は皇族の一員であり、グレーゼ家はエルドア帝国の筆頭貴族なのだから。


 しかし、転生前にはこの招待状にはアリスティアの名前は無かった。


 皇太子殿下の婚約者であったと言うのに。

 そのアリスティアが、皇族の主催する舞踏会に呼ばれないなんて事は有り得ない事だったのだ。


 転生前と変わった事の一つとして、宰相がニコラス・ネイサン公爵からハロルド・グレーゼ公爵に代わったと言う事がある。


 当時の宰相であったニコラスが、アリスティア排除の企てをした事が想像出来る。


 それは兄達の推理通りに。



 皇帝陛下主催の舞踏会は、何時もならば1ヶ月以上前には招待状が届くのだが。

 今回は2週間前だからかなり急だ。


「 ドレスはどのドレスにしましょうか? 」

「 新しく作るにはもう時間がありませんわね 」

 嬉しそうに支度部屋に向かうキャサリンと侍女を、アリスティアはぼんやりと見ていた。


 転生前の事を思い出しながら。



『 皇太子殿下の婚約者が、皇宮の舞踏会に招待されなかった 』

 この有り得ない事態から、貴族間でも二人の婚約は()()されるのだと言う認識が生まれた。


 この頃には……

 既に民衆の間では、皇太子殿下と聖女のロマンに熱狂していた事もあって。


 そして。

 アリスティアのいない舞踏会で、レイモンドとタナカハナコの婚約が発表されたのである。


 アリスティアとの婚約を破棄すらせずに。


 その日の内にハロルドが、ギデオン皇帝に婚約を破棄して欲しいと願い出たのだが。



 それはアリスティアが花嫁となる筈だった日。


 ()()二人での幸せな記者会見が行われた日から、一年をかけて結婚式に向けての準備が行われている中。


 花嫁だけが聖女に代わったのである。



 婚約を解消していて良かった。

 もしも。

 転生前と同じに、レイとタナカハナコの婚約が発表されたとしても、わたくしへのダメージはないのだから。


 あれ程の屈辱を味わわずにいられる。

 胸を張って舞踏会に出席出来る。



「 デイジー! わたくしのドレスは一番豪華なドレスにするわ 」

 勿論、レイモンドからプレゼントされたドレスではないものを。


 自分らしさ全開の素敵なドレス。

 我が国の公爵令嬢として相応しい装いで。




 ***




 レイモンドはガゼボでの約束を守ってくれていた。

 彼はあれ以来お茶会には来てはいない。


 因みに、タナカハナコは皇帝宮に移る事を拒んだと言う。

 折角皇太子宮の生活に慣れたのにと泣きながら。


 その事から、暫くはこのまま皇太子宮にいる事になったのだと、オスカーから聞いた。

 異世界から来て間もない聖女に負担はかけられない。


 早くこの世界に慣れて貰い、聖女の能力を引き出す方が先決なのだから。



 しかしだ。

 そうなると、アリスティアもレイモンドに会えなくなってしまった。


 分刻みで動いているレイモンドは、このお茶会に来ないとなると他に時間が取れないらしい。

 この数日は彼の側近であるオスカーも、帰宅する時間は深夜近く。

 執務室に泊まる事もある。


 転生前のこの時期に全く会えなかったのは、それ程に忙しかったのだと言う事が分かる。

 兄達は、アリスティアをレイモンドに会えなくしたのは、当時宰相だったネイサンの企てだったと言うが。


 強ちそれだけでが理由ではなかったと言う事だ。



 そして。

 レイモンドが来なくなると、やはりタナカハナコも来なくなった。

 来たとしても直ぐに席を経ってしまう。

 気分が悪いからとか何とか。


 それはお互い様である。



「 わたくしがここに来る意味があるの? 」

 この日もタナカハナコからすっぽかしを食らったアリスティアは、時間が来た事でサロンの席を立った。


 プンスカと怒りながら。



 薬学の勉強をしたいのは勿論だが、魔女の森に行って魔力の調節をしたいと思っていて。


 魔力の調節は出来てはいるのだが。

 身体の中にある魔力を放出したくなるのだ。

 何だか身体の中心がムズムズとして。


 それに、鶏小屋の掃除もしたかった。

 リタ達は絶対に掃除はしていない筈。

 餌は与えてくれているらしいが。


 驚いた事に、鶏が産んだ玉子は朝に食べていると聞いた。

 湯しか沸かした事のないリタ達が、と思うと感慨深い。

 これは是非とも、料理をしている姿を見なければならない。



 タナカハナコの教育係を辞める手続きをするのは、カルロスお兄様に言えば良いのかしら?

 それともオスカーお兄様?


 依頼された時の契約書は、オスカーお兄様が持って来たけれども。

 でも、雇い主はお父様の名前。


 そう。

 タナカハナコの教育係の仕事には給金が発生している。

 薬局を開業するのがアリスティアの目標なのだから、高額報酬は丁度良いとして。



 (いにしえ)の魔女が、王妃になったと知ったレイモンドは結婚を望んでいるが、()()魔女が王妃にはなっていない事をアリスティアは知っている。


 ()()魔女は、自分の愛する国王により()()()()で胸を貫かれ絶命した事が真実だとアリスティアは思っている。


 永く生きている、魔女の森に住むリタが言っていたように。


 その事から……

 やはり魔女が皇太子妃になるのは無理なのだと。



 そんな事を考えながら、サロンを出たアリスティアは、待合室で待機していた侍女のデイジーと一緒に馬車に乗った。


 カラカラと馬車が進み出す。


「 デイジー?さっきから何なの? 言いたい事があるなら言いなさい! 」

 アリスティアの前に座るデイジーが、アリスティアの顔をチラリと見ては、口を開けたり閉じたりを繰り返している。


「 あの……お嬢様。先程聞いた話なのですが…… いえ、聞いたと言うより耳に入った話なのですが 」

「 どっちでも良いから、早く言いなさい! 」

 考える事が多く頭がパンクしそうなのにと、アリスティアは眉を顰めた。



「 はい。実は……皇太子様と聖女様が……ガゼボでお会いしていると聞きました 」

「 !? 」

 勿論デイジーも、ガゼボがアリスティアに取って特別な場所だと言う事は知っている。


 皇宮には貴族の使用人達が待機する部屋がある。

 宮殿の中を使用人がウロウロしていたら、賊との区別が付かないからなのであるが。


 デイジーはその部屋の裏庭で、庭師達が話しているのを聞いたそうな。


 噂はこんな風に広がるのである。



「 ……… 」

「 はい。私もそう思っていたのですが。金髪の()()()()と黒髪の()()が庭園に向かって歩いて行く所を見ました 」

 窓からチラリと見ただけだから、()()()かも知れないと自信のない顔をしながら。



 いや、金髪と黒髪なんてここにはレイとタナカハナコでしかないでしょうに。


 アリスティアは念の為にタナカハナコの髪型を指先で示した。

 前髪真っ直ぐの、横髪と後ろ髪も真っ直ぐの。

 要はボブカットだ。

 別名金太郎カットである。


 タナカハナコみたいな髪型は、この国では珍しい。

 デイジーはそうだと言って、うんうんと頷いている。


 そして。

 皇太子宮はレイモンドだけが住む宮殿。

 勿論、庭園もレイモンド専用である。



 わたくしに隠れて二人でこっそりと会っていたと言うの?

 タナカハナコとは会わないとわたくしに言ったから、わざわざガゼボに行って?



『 キスと言えば、皇宮の庭園のガゼボで殿下と聖女様がキスをしていたらしいわ 』


『 もう何度も庭園で逢瀬を重ねているとか。それは聖女様がやって来て直ぐからだそうよ 』


『 やっぱりあの姿絵の通りに、お二人は初めてお会いしたあの瞬間に恋に落ちたのね 』


 姿絵は存在しないが、他の噂は合っている。



 レイに会ったのは一週間程前のガゼボ

 あの時はわたくしへの愛を感じたのに。

 この間に愛を育んでいたの?


 あの後二人に何かあって、やっぱり()()()()()()としたとか?



「 引き返して!! 早く! 」

 アリスティアは御者に皇宮に戻るように命令した。


 確かめたい!

 今ならまだガゼボにいるかも知れない。

 あの時の噂の真相を知るチャンスだ。



 アリスティアはこう言う女だった。

 腕を絡ませ胸を押し付けながらレイモンドに言い寄る女には、全て突撃して完膚無きまでに叩きのめして来た。


 それは他国の王女であろうとも。



 しかし今回はそれではない。

 レイモンドを信じる為に行くのだ。


 あの夜。


『 ティア……これから先、何があろうとも()()()()()()()()


 そう言って、アリスティアを強く抱き締めた未来のレイモンドを信じる為に。



 馬車から飛び降りて、庭園に駆け行くアリスティアの瞳の色は、少し赤くなっていた。




 











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