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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第二章

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公爵令嬢は逃げられない




 異世界から聖女が現れた。

 それは魔女リタが聞いた天のお告げ通りに。


 この後は、1ヶ月後に聖女の歓迎舞踏会が皇宮で開催される筈だ。

 そこで皇太子殿下と聖女の結婚が発表される事になる。


 アリスティアが招待されなかった舞踏会で。

 アリスティアが花嫁になる筈だった日の結婚を。


 今回はどうなるのかしら?

 今は結婚式の準備も何もしていないのに。



 未来は変わる。

 だけど、それでも変わらない未来があるとリタは言った。


 それは天のお付げがある事と、異世界から聖女が現れる事。

 そして皇太子殿下と聖女が結婚をすると言う事だ。


 リタの言った通りに天のお付げがあり、その後聖女が現れた。

 残りはレイモンドとタナカハナコの結婚式だ。


 世界を救うと言う使命を持った孤独なタナカハナコに、優しいレイモンドは寄り添うだろう。

 なので二人の仲が深まるのはこれから。


 タナカハナコは聖女。

 それは世界を救う大切な存在。

 それは魔物を退治しても。


 皇太子殿下と聖女の物語に魔女は必要ない。



 これから二人は、手を取り合って魔物を退治する事になる。


 流石にそれには関わりたくはない。

 だから自分は歴史の傍観者になると決めた。

 皇太子殿下の婚約者でなくなった今はそれが出来るからで。


 これからは二人の応援をしながら生きて行く。



 アリスティアは自分が魔女にならなかった事に安堵していた。

 タナカハナコを目の前にしても魔女にはならなかったのである。


 あれ程の憎悪と嫉妬があったと言うのに。


 頬を捻ったり、レイモンドとキスをしなくても魔力が発動しなかったのである。


 違う意味でキスはしっかりさせて貰ったが。


 もしかしたら魔女の能力が少しずつ身体に馴染んで来ているようにも感じていて。


 ()()()()として生きて行けるかも知れないと言う希望が持てたのである。



「 レイ。わたくしは聖女を殺らなかったわ 」

 月の無い夜空を見上げながら、転生前のレイモンドに向かってアリスティアはそう言った。


 アリスティアの胸を時戻りの剣で貫き、時を戻したレイモンドに。




 ***




 翌日の午後。

 学園に行こうとするアリスティアの元に、皇宮から陛下の使者がやって来た。


 皇宮に来るようにと呼び出されたのである。


 何故自分が皇帝陛下に呼ばれたのかが分からなかった。


 もしかしたら、タナカハナコが地面に落ちた事を咎められるとか?

 レイがタナカハナコを受け止めようとしていたのを、邪魔をしたのはわたくし。


 タナカハナコは丁重におもてなしをしなければならない存在にも関わらず。

 タナカハナコがレイの腕の中に入るのが嫌過ぎて、気が付いたらキスをしていたと言う。



 陛下はレイには厳しかったけれども、わたくしには優しかったからそんなに酷くは叱られないわ。

 もし叱られるのなら、あれはレイも受け入れてくれたのだからレイも一緒ですわ。


 そんな事をぶつぶつと言いながら登城した。



 案内された謁見の間には皇帝陛下とレイモンドと父と兄の二人がいて。

 夜通し忙しくしていたのか皆疲れた様子だった。

 

「 そなたに頼みたい事がある。是非とも引き受けて貰いたい」

「 はい。陛下の頼み事ならばなんなりと 」

 皇帝陛下の頼み事とは、それは命令を意味する。

 誰しもが絶対に断れない頼み事だ。


「 アリスティア嬢。そなたを聖女の教育係にしたいと思う 」

「 ……… 」

 えっ!?

 タナカハナコの教育係?

 わたくしを?


 皇帝陛下の横にいるレイモンドが、尻尾をフリフリしているワンコみたいに嬉しそうに立っていた。



 この日。

 聖女は皇帝陛下に御目通りをし、皇帝は黒髪に黒い瞳のこの少女を聖女だと認定した。


 その後は皇后陛下にもお目通りをしたが。

 その時にかなり精神的に不安定になった聖女には、寄り添う者が必要だと言う事になったのである。


 聖女がずっとレイモンドの腕を離さない事から、同じ年頃の令嬢が話し相手に必要だと。


 そこでレイモンドがアリスティアを推したのであった。



 アリスティアが選ばれた理由を、横にいる宰相から説明される。


 お父様のお仕事モードだわ。

 ちょっとカッコ良い。


 ハロルドはチラリとアリスティアを見てから、手にしている書類を読み始めた。



 皇宮内の事を知っている事から、聖女の案内が出来る事。

 それは小さい頃から通っているのだから当然で。


 妃になる為に教育をされて来たのだから全てのマナーは完璧で。

 そして特進クラスに編入出来る程に頭が良い。


 何よりも。

 聖女はアリスティアと歳が近く、会ったばかりでありながら既に彼女と親しくなったのだからと。

 タナカハナコと言う名を聞き出した程に。


 その話はレイから聞いたのだわ。


 タナカハナコと口走ってしまった事を、後悔したアリスティアだった。



「 勿論、教育係として正式に別の者付ける予定だ。アリスティアには聖女様の()()()()()()になって貰いたい 」

 淡々と話をするハロルドの横では、カルロスが申し訳なさそうな顔をして立っていて。

 その横ではオスカーが、すまないとばかりに手を顔の前に上げた。


「 はい。承知致しました 」

 アリスティアがカーテシーをすると、皇帝陛下は満足そうな顔をして退室して行った。



 どう言うつもり?

 わたくしとレイは婚約を解消したのよ?

 元婚約のわたくしが聖女の()()()()()()ですって?


 まだこの段階では、皇太子と聖女の婚姻の話が持ち上がってはいないので、こうなる事も有りと言えば有りなのだが。


 アリスティアは混乱していた。



「 ティア。これからは特進クラスではなく、皇太子宮に()()通うように 」

 レイモンドがそう言って、アリスティアに向かってウィンクをした。


 それが色っぽくて。

 もうキスもしている仲なのにドキリとしてしまう。


「 聖女様は大切な存在だ。殿下のご意向に沿うようにしなさい 」

 見つめ合う二人を見ながらそう言うと、ハロルドがコホンと咳を一つした。


「 ………はい 」

 やられた。


 本気でアリスティアを()()レイモンドは、第一皇子のいる特進クラスに行くのを良しとしていない。

 アリスティアが自分の言う事を聞かずに特進クラスに通っている事も。



 アリスティアはレイモンドを睨み付けた。

 してやったりの顔をしているレイモンドを。


 その顔もまた美しくて。

 先程から胸がキュンキュンしている自分に腹が立つ。


 こうしてアリスティアは皇太子宮に通う事になった。

 ()()である筈の、タナカハナコに会う為に。




 ***




 わたくしがタナカハナコの()()()()()()になれるかしら?


 昨夜、タナカハナコはレイに恋に落ちた筈。

 あんなに素敵な皇子様に恋をしない女はいない。

 だから婚約者として苦労をして来たのだから。


 そんなタナカハナコとわたくしが?


 もしかしたら……

 最悪の事態になるかも知れない。

 折角、魔女にならなかったと喜んでいたと言うのに。


 お兄様達がいたのにどうしてこんな事に?


 帰宅したアリスティアは頭を抱えるのだった。



 アリスティアは公爵令嬢だ。

 皇族に皇女がいないのならば、アリスティアが聖女の話し相手として選ばれるのは考えられる事だった。


 それ程までに聖女は特別な存在なのである。

 世界を救う存在なのだから当然で。



 だけど。

 転生前はそれをしなかった。


 皇宮には厳戒態勢が敷かれた事から、皇太子殿下の婚約者であるアリスティアは徹底的に排除されたのである。

 お妃教育の為に皇宮に通う事も禁止されて。


 それは時の宰相だったニコラス・ネイサン公爵の謀だったのだろうと言う事は、カルロスとオスカーの考えだ。


 それは皇太子殿下と聖女を結婚させる為の謀。

 花嫁をすげ替え、グレーゼ公爵家に屈辱を与える為の。



 その話をアリスティアから聞いた二人は、その屈辱を阻止する為にレイモンドとアリスティアの婚約を解消し、ハロルドを宰相にする事に尽力して来たのである。


 勿論、アリスティア自身が婚約の解消を望んだからではあるが。


 ここで退散して、歴史の傍観者になる筈だったアリスティアの思惑は外れてしまったのだった。



 そんなアリスティアとは裏腹に、レイモンドは上機嫌だった。


 いくらジョセフがアリスティアとの婚姻を断ったとは言え。

 アリスティアが魔力の調節が出来ているとは言え。

 皇帝陛下からは、まだ自分とアリスティアの婚姻が認められた訳ではなかった。


 婚約は解消されたままだ。

 

 兄上がティアを好きになったら。

 兄上がティアを求めたら。


 父上は喜んでティアを兄上の妃にするだろう。


 それを考えただけで狂いそうになっていた。

 だから、アリスティアを自分の側に置きたかったのである。



「 殿下。良かったですね 」

 レイモンドにお茶を入れる侍従のマルローの口調も軽やかだ。


「 ああ。聖女が良い時に我が国に来てくれた。父上も僕の提案を受け入れてくれた 」

 アリスティアが皇太子宮に来る事に、反対されるかもと思っていたが。


 ギデオン皇帝は反対はしなかった。


 魔女になったアリスティアを、認めようとしてくれているのだとレイモンドは思った。

 元々アリスティアはギデオン皇帝に気に入れられていたのだから。



「 じいも、明日からティアを頼むよ 」

「 勿論。我々皇太子宮の使用人達は、もうずっとアリスティア様が、この皇太子宮にお越しになられる事をお待ちしておりましたから 」

 侍従のマルローは、嬉しそうなレイモンドを見て目を細めた。


 レイモンドはマルローにそう言われて満足をした。



 それにしても。

 睨み付けて来るティアの顔は可愛かった。


 これからは毎日皇太子宮にティアが来る事になる。

 毎日ティアに会える。



 レイモンドにとって、アリスティアがどれだけ大切な存在だったのかを今回の事で改めて知る事となった。


 アリスティアが自分の前からいなくなった半年の間。

 レイモンドは息をするのも辛かった。

 まるで脱け殻のような毎日だった。


 アリスティアからの愛を感受するだけで、ただ甘えていただけの自分を見つめ直す事になった。



 そして。

 アリスティアが魔女になった事で、自分達の結婚が頓挫してしまったが。


 聖女が魔物を討伐して。

 人々が安心して暮らせるようになったら、自分達の結婚式を挙げようとレイモンドは思っている。


 その時が来るまで。


「 僕とティアの()()()聖女を補佐して行こう 」

 明日から始まるアリスティアとの毎日に、想いを馳せるのだった。



 この後、後悔する事になるとは知らずに。











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― 新着の感想 ―
「この後、後悔する事になるとは知らずに。亅 うわぁ~。 ここらで不穏ワード、絶対出てくると思ったーーー!!
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