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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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まだ、終わってはなかった




「 レイモンド! 何があった!? 」

「 あっ……兄上!ティアは何処へ向かいましたか!? 」

 アリスティアが飛んで行った方向にある離宮に駆けて来たレイモンドは、玄関口にいたジョセフから声を掛けられた。


 普段はレイモンドの事を皇太子と呼んでいるジョセフが、レイモンドの名を呼ぶのはかなり慌てていた証拠だ。


 魔女アリスティアは空を飛べる。

 だが、アリスティアは魔女にはなってはいなかった。

 飛んで行く彼女の瞳は、魔女の証である赤く光る瞳でなかったのだ。


 ましてや飛び方も、誰かに引っ張られているような飛び方だった。

 どう考えてもアリスティアに何か異変が起こったのは確か。



「 アリスティア嬢は庭園の奥に飛んで行った 」

「 兄上! 僕はティアの元へ向かいます!オスカーにこの旨をお伝え下さい! 」

 彼は皇太子宮にいると言って、レイモンドは庭園を駆け抜けて行った。


 オスカーはレイモンドの側近。

 彼に言えば諸々な事に対処してくれる筈であり、何よりもアリスティアはオスカーの妹なのだ。



 オスカーへの伝言を門番に言付けたジョセフは、直ぐに自分の研究室に向かった。


 因みに、公務をしていないジョセフにはオスカーの様な側近はいない。

 なので、皇室間の連絡は全て侍従を通して伝えられている。



 サラが魅了の魔力を持っていたのは、ジョセフのせいであるのは間違いない。

 それは、媚薬の材料を魔木(まぼく)近くの地面に破棄していたからで。


 だとすれば、サラが宿っていた魔木にも何らかの影響を及ぼしている可能性がある。


「 迂闊だった 」

 サラとタナカハナコにばかり注視し、魔木の事を考えなかった事をジョセフは悔いた。


 天才ジョセフにはしくじりはない。

 その彼が初めて自分のしくじりを感じていた。


 異常な飛び方をしていたアリスティアの姿を思い浮かべながら、ジョセフは臍を噛んだ。



 門番から、皇太子殿下が離宮の庭園に向かった旨を伝言されたオスカーは、直ぐにカルロスの執務室に向かった。


 ギデオン達は各々の部屋に引き揚げていた。

 既に深夜を過ぎていた事から、その後の処理は翌日に持ち越そうと考えて。


 何よりも、魔物はもういないのだと言う安堵感からで。

 久しぶりにゆっくりと眠れると言って笑って解散をしたのだ。

 他の大臣達に良い報告が出来ると。


 そして……

 不安に満ちていた国民達がどれ程喜ぶかを考えれば、鼻唄さえ出る程の喜びだった。


 魔物はもういない。

 世界に平和が訪れたのだから。



「 兄貴! 」

 皇宮のカルロスの執務室のドアが、勢いよく開けられた。


「 おっ!オスカーか。丁度良い。今、祝杯を挙げようとしていた所だ 」

 座っていたソファーからカルロスが立ち上がり、お酒瓶が並べられているサイドボードに行こうとした。


「 いや、それは後だ!ジョセフ皇子殿下からの伝言があった。レイが離宮の庭園の奥に向かったから直ぐに行けと! 」

 オスカーはそう告げると直ぐに踵を返した。


「 殿下が? 離宮の庭園の奥に? 殿下はティアと一緒にいたのではないのか? 」

「 ああ。ずっとイチャコラしていたぜ 」

 先に廊下に出たオスカーを追うようにして、カルロスは自分の執務室を出た。



 オスカーとしては、直ぐに二人の結婚式の準備に入るつもりでいた。

 それが主君の望みだからで。


 オスカーの後ろを歩く二人の、幸せそうな会話が聞こえていた。

 自分達の部屋に小さなキッチンをつくって欲しいと言う、アリスティアの可愛いおねだりが。


 キッチンをつくるなど、転生前にはなかった事だろうなとオスカーは思った。

 公爵令嬢であるアリスティアが、料理など作る必要は無いのだから。


 そんな二人の会話を聞いて。

「 忙しくなるぞ 」と、オスカーは結婚式の準備の算段を想い巡らせるのだった。


 最高の結婚式にしてやると鼻息も荒く。


「 レイ……何があった? 」

 皇宮の階段を凄い勢いで駆け下りるオスカーは、何やら胸騒ぎがするのだった。




 ***




 無事でいてくれ!

 しかし何故庭園の奥に?


 綺麗に手入れされた庭園を抜けると、鬱蒼とした草木が繁る小道に入る。

 最近は何度も通った事から通りやすくはなっていたが、小道の先は真っ暗だ。


 レイモンドがその小道に一歩足を踏み入れたその時。


 庭園の奥が銀色に輝いた。

 それは目も眩む様なとてつもなく強い光。



「 ……ティア…… 」

 嫌な予感しかしない。

 レイモンドは、泣きそうになりながらも必死で小道を駆けた。


 何故あの魔木を放置をしていたのかと、レイモンドは後悔した。


 あの大木は……魔木(まぼく)だと言うのに。



 魔女サラがあの木の下に埋葬された事。

 魔女の魂が宿る木は、千年の間に魔木になっていた事。

 それらの事をリタから聞いたと、アリスティアが言っていた。


 サラの魂がいなくなっても、あの魔木にはサラの魂が宿っている筈で。

 その上、魔女の森にいる動く木々もまた、サラの魂が分霊したもの。


 何故それを重要視しなかったのか。


「 くそっ! 」

 生い茂っている木の枝がビシビシと顔に当たるのを手で避けながら、レイモンドは必死に小道を駆け抜けて行く。


 枝に引っ掛かるマントを引っ張りながら。



 そして……

 もっと重要視しなくてはならない事があった。


 アリスティアの中にはサラの魂があると言う事だ。

 それは転生前の自分が、時戻りの剣をアリスティアに使った事から。

 なので、アリスティアを呼び寄せたのは、魔木だろうと言う事は推測出来る。

 

 魔物がいなくなったとしても、あの魔木が存在する限りは平和など訪れないのだ。


 まだ……

 何も終わってはいなかった。




 ***




 アリスティアが魔力の練習をして削られた一枚岩の前を横切り、アリスティアが消し去ったジョセフの実験していた小屋のあった更地を駆けて行った。


「 無事でいてくれ 」

 そう祈りながらも懸命に。


 そして……

 レイモンドは大木の前に到着した。


 両手を膝に付いてハアハアと息を吐きながらも、周りを見渡した。

 魔木の周りには草木はなく、土の地面があるだけで。

 それが返って、この辺り一帯を不気味に感じさせている。



「 ティア! ………アリスティア! !」

 名前を呼んだが返事はなかった。


 カサカサと風に吹かれて揺れる木の枝や、草木の音だけがしているだけで。


 既にレイモンドの目は暗闇には慣れていたが、少し先にある深い森の木が黒い山の様に見えた。


 そこにあるのは魔女の森。


 もしかしたら。

 ティアは魔女の森に入ったのかも知れない。


 そう思ったら少しだけ気持ちが楽になった。

 魔女の森ならばリタ達がいるのだから。



 魔女の森への入り口はあの小さな橋だけ。


 その事から、先程の銀色に輝いた光は、アリスティアが消滅の魔力を使って魔女の森に入ったのかも知れないと考えた。

 

 暫く魔女の森を見ていると、誰かに呼ばれたような気がした。



「 ティアなのか!? ……何処にいる? 」

「 レイ…… 」

 声は魔木から聞こえて来た。


 魔木に近寄ったレイモンドは耳を澄ました。


「 レイ……様 」

 しかしアリスティアの声ではなかった。

 レイモンドがアリスティアの声を間違える筈はない。


「 そなたは……まさか…… 」

「 そう。サラよ 」

「 そなたはハナコと異世界に行ったのではなかったのか? 」

「 そうね。でも、どうやら憑依を拒まれたみたいよ 」


 サラがタナカハナコに憑依をした瞬間に、タナカハナコが異世界に戻る事態が起こった。


 タナカハナコは異世界の人間だ。

 異世界は魔物を受け入れなかった。

 なので、サラの魂をタナカハナコから弾き出したと言う訳である。


 あの時の銀色の光は、サラがタナカハナコの身体から抜けた光。


 タナカハナコは魔物を持ち帰らなかった。

 とことん役に立たなかったと言う。



「 やはり魔物は異世界には行けなかったか…… 」

 振り出しに戻った事に、レイモンドの頭は混乱していた。


 そのせいか、何やら頭がボーッとして来た。



「 レイ様……魔木()に触れて 」

 サラの声がレイモンドの頭の中に入って来た。


 それは心を擽るような……心地好い声。


 手を魔木に伸ばしたレイモンドは、掌で幹に触れようとした。


 バチッ!!


「 っ!? 」

 触れる瞬間に、何かに押し出されるように弾き返された。


 まるで木に触らせないようにするかの様に。


 そして同時にサラの気配は消えた。



 その時。

 ザザザザと草木を薙ぎ倒しながら、オスカーが飛び出して来た。


「 レイ! 無事か?何があった? 」

 自分の掌を不思議そうに見つめているレイモンドの側に、オスカーが駆け寄った。


 ハアハアと息を切らして。


「 オスカー!来たか 」

「 何故ここに? 」

「 それが…… 」

 レイモンドが事情を話そうとした時に、ザワザワと草が揺れた。


「 殿下ーっ! 無事ですかーっ 」

 その声はカルロスだ。


 暫く待っているとカルロスが現れた。

 レイモンドの前でフラフラと座り込んだ彼は、ウェッと吐きそうになっている。


 流石に、騎士達と一緒に訓練をしているオスカーとは体力が違う。

 そもそもオスカーの子供の頃の夢は騎士だ。



 レイモンドは、アリスティアがこの離宮の庭園の奥に向かって飛んで行ったと言う事。


 その時、まるで何かに引っ張られるようになっていた事の話を二人にした。


 そして……

 サラの声がこの魔木からしたと言う、ショッキングな事も。



「 聖女は魔物を連れ帰らなかったのか 」

「 クソッ! 初めてタナカハナコが役に立ったと思ったのに 」

 落胆したカルロスの横で、オスカーが悔しそうに地団駄を踏んだ。


 あの女は、一体何しに異世界から来たのだと憤慨して。



「 殿下……ティアは?今、何処にいるのですか? 」

「 もしかしたら魔女の森に行ったのかも知れない 」

「 成る程。さっきの銀色の光はティアか…… 」

 レイモンドは二人に向かって頷いた。


「 消滅の魔力を使って魔女の森に入ったとのだな 」

「 しかし、何故魔女の森に? 」

「 ……それは分からない 」


 三人は魔女の森を見やった。

 暗い事から、大きな山のように見える魔女の森を。



 この魔木にはサラが宿っている。

 ならばアリスティアをここに連れて来たのはサラ。


 もしかしたらここで何らかの接触があり、それで魔女の森に逃げ込んだのかも。

 それが三人で出した結論だ。


 アリスティアが魔女の森にいるのならば、取りあえずは心配ないとカルロスとオスカーも安堵した。



「 だったらレイが危険だ。一旦引き揚げよう 」

 サラは執拗にレイモンドを狙っている。

 サラが現れない内に、早くここから離れなければと。


 アリスティアがここにいない事が、カルロスとオスカーを不安にさせる。


 自分達ではレイモンドは守れないのだから。


 相手が人間ならば守り抜く自信はあるが、流石に魔物化した魂相手ではお手上げだ。



「 なあ? この木……更に大きくなってないか? 」

 歩みを止めてよく見れば、明らかに幹は太くなっていた。


 以前ここに来た時よりも。


 魔木の高さも……暗くてよく見えないが多分伸びている。

 枝にある葉も以前よりはワサワサと繁っていて。


 ここには身震いがする程の不気味な雰囲気が漂っている。



 その時。

 レイモンドは、またもや誰かに呼ばれた様な気がして魔木の前で立ち止まった。


 その声は遥か高い頭上から。


 レイモンドは魔木を仰ぎ見た。

 暗くてよく見えないが、何か違和感を感じて目を凝らした。



 何か……いる?


 動いているのは明らかに木の枝ではない。

 何か長い物が揺れているのを、更に目を凝らして見た。


 とてつもない程の嫌な予感に、心臓の音がバクバクと大きく波打ち始めた。



 その何かの正体が分かった時。

 レイモンドの瑠璃色の瞳が大きく見開いた。


 そして……

 その衝撃的な光景に、レイモンドの身体がガタガタと震え出した。



「 ティ……ア…… 」 

 魔木には上半身だけ幹から出ているアリスティアがいた。


 ミルクティー色の髪を、サラサラと風に揺らして。














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