また会う日まで
私は奇跡的に生きていた。ビルから身を投げて、いろんなことが重なって、今ここで生きている。
落ちたところに、ちょうど木が植っていて、まるで木が私を助けるように、高いところから体を受け止めていてくれた。
骨折はしたけど、致命的な怪我は負わず、ただ意識が戻らない状態が長く続いていたらしい。
その後のことの方が、正直思い出したくもないほど辛かった。
家族に会って、説教されて、泣かれて、いろんな後始末をして。
気づいた時には半年以上経っていて、もう春だった。
怪我は完治してる。
こちらに戻ってくれば、あちらの記憶は薄まっていくと思っていた。
でもまだ忘れていない。
何も残っていない。
あの時のことは、記憶の中でしか残っていないけど、自分の中で実感として残っている。
でももう、みんなには会えないんだな、あそこにも二度と行けないし、行かない方がいい。
寂しさもあった。
夕暮れ時には、あの日々を思い出す。
何も言わない時もあったが、いつも側にいてくれたおもて帽子が恋しい。
もう何があっても、頭の上で叱咤してくれるあいつはいないんだ。
私は今、花屋に向かっている。
ついに秋一の墓参りをする決心がついたのだ。
その時に、親御さんにも挨拶に行く。
彼に命を救ってもらったこと、その命を一度捨てようとしたこと、たくさんのことを謝って、感謝しないといけない。
ずっとやらないといけないと思って、怖かったことだ。
でも今なら前に進める気がした。
川の向こうで秋一は笑っていた。
だから私は、前に進める。
花屋の前に着いた時、女の子の帽子が風に流されて飛んでいった。
私はなんとなくそれを追いかけて、ずいぶん走らされた後に、それを拾おうとした。
「元気にいているか?」
懐かしい声が聞こえた。
「街がなくなっても俺は相変わらずだ。仕事ができる奴がいなくなって、だいぶ手こずっているがな」
「ニーヒはここではない時代に転生した。おまえと再会できるのは、正直気が遠くなるぐらい長くなる。
あいつはもう、おまえのことは覚えていない。だが、実感としてあいつも覚えているんだよ。
あの時のことは、永遠に」
帽子をとって、顔を上げると夕暮れだった。
オレンジ色に染まった住宅街が、坂に沿って続いている。
桜だけが、薄いピンク色を纏って、風の中で揺れていた。
「俺もおまえに会えて良かったよ。ありがとう」
「いつか、あいつにまた会える日まで。またな」
風に解けて、その声は消えていった。
私は夕日をじっと見つめた後、帽子の持ち主に向かって走っていった。
生きていこうと思った。
どんなに辛くても。
どんな未来でも、過去でも目を逸らさず、生きていこうと思った。
きっとその先に、私が見たかった未来があるんだろう。
順風満帆で、完璧な未来じゃなくても。
私の先にある未来が、私が待っていた未来なんだ。
この世界では、夕日が沈んだら夜が来て、朝日が昇る。
そのことを愛おしいと思える日が来るまで、笑っていようと思う。




