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おもて帽子  作者: 南部屋
23/23

また会う日まで


 私は奇跡的に生きていた。ビルから身を投げて、いろんなことが重なって、今ここで生きている。

 落ちたところに、ちょうど木が植っていて、まるで木が私を助けるように、高いところから体を受け止めていてくれた。

 骨折はしたけど、致命的な怪我は負わず、ただ意識が戻らない状態が長く続いていたらしい。

 その後のことの方が、正直思い出したくもないほど辛かった。

 家族に会って、説教されて、泣かれて、いろんな後始末をして。


 気づいた時には半年以上経っていて、もう春だった。

 怪我は完治してる。

 こちらに戻ってくれば、あちらの記憶は薄まっていくと思っていた。

 でもまだ忘れていない。

 何も残っていない。

 あの時のことは、記憶の中でしか残っていないけど、自分の中で実感として残っている。


 でももう、みんなには会えないんだな、あそこにも二度と行けないし、行かない方がいい。

 寂しさもあった。

 夕暮れ時には、あの日々を思い出す。


 何も言わない時もあったが、いつも側にいてくれたおもて帽子が恋しい。

 もう何があっても、頭の上で叱咤してくれるあいつはいないんだ。

 

 私は今、花屋に向かっている。

 ついに秋一の墓参りをする決心がついたのだ。

 その時に、親御さんにも挨拶に行く。

 彼に命を救ってもらったこと、その命を一度捨てようとしたこと、たくさんのことを謝って、感謝しないといけない。

 ずっとやらないといけないと思って、怖かったことだ。

 でも今なら前に進める気がした。


 川の向こうで秋一は笑っていた。

 だから私は、前に進める。



 花屋の前に着いた時、女の子の帽子が風に流されて飛んでいった。


 私はなんとなくそれを追いかけて、ずいぶん走らされた後に、それを拾おうとした。



「元気にいているか?」

 懐かしい声が聞こえた。



「街がなくなっても俺は相変わらずだ。仕事ができる奴がいなくなって、だいぶ手こずっているがな」



「ニーヒはここではない時代に転生した。おまえと再会できるのは、正直気が遠くなるぐらい長くなる。

 あいつはもう、おまえのことは覚えていない。だが、実感としてあいつも覚えているんだよ。

 あの時のことは、永遠に」



 帽子をとって、顔を上げると夕暮れだった。

 オレンジ色に染まった住宅街が、坂に沿って続いている。

 桜だけが、薄いピンク色を纏って、風の中で揺れていた。

 


「俺もおまえに会えて良かったよ。ありがとう」




「いつか、あいつにまた会える日まで。またな」




 風に解けて、その声は消えていった。

 私は夕日をじっと見つめた後、帽子の持ち主に向かって走っていった。



 

 生きていこうと思った。

 どんなに辛くても。

 どんな未来でも、過去でも目を逸らさず、生きていこうと思った。


 きっとその先に、私が見たかった未来があるんだろう。

 順風満帆で、完璧な未来じゃなくても。



 私の先にある未来が、私が待っていた未来なんだ。


 




 この世界では、夕日が沈んだら夜が来て、朝日が昇る。



 そのことを愛おしいと思える日が来るまで、笑っていようと思う。



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