第45話 真の陽キャは誰にでも優しいという怪談的噂②
「あ、そういえば鳴海って飼育委員じゃん? 活動場所の主が中庭なわけだから、幽霊について何か別の情報とか持ってたりしない?」
波瀬の質問で、みんなの視線が一斉に私のほうに向いた。それがちょっと怖かったので、私は目を瞑ってさも返答を考えています的なポージングで誤魔化しつつ。
たっぷりと間を空けてから答えた。
「……怪談の起源とか、そういうのはまったく全然知らないんだけど。でも、その怪談が広まってるせいで、委員会に悪影響が出ているのは確かな事実だね」
「へぇ、どんな?」
「飼育委員は、中庭の飼育小屋で飼ってるうさぎのお世話をしなきゃいけないんだけど。委員の生徒が『中庭でオバケを見た』とか『怖いから行きたくない』とか言い出すから、仕事が放棄されてしわ寄せを食らってる子が増えちゃったんだよね」
私が週に五、六回のペースで中庭に行かなくてはいけない理由はそこにある。
まぁ私は中庭に行くこと自体そこまで苦に思っていないから全然いいんだけど。
なんせ昼休みに中庭にいけば、妖精のようにカワイイ似鳥さんに会えるし。
語り終えると、鯨井くんが尋ねてくる。
「鳴海ちゃんは、そういうの平気なタイプなの?」
「そういうのって?」
「幽霊とかホラーとか。もしかして鳴海ちゃんって心臓に毛が生えてる系女子?」
どんな女子だ。そんな系統の女子って存在するのか。
鯨井くんの変な造語に内心ツッコミつつも、私はなるべく平静に答える。
「そうだね。あんまり怖くないかも。幽霊なんてこの目で見たこと一度も無いし」
「意外。鳴海ちゃんって第一印象からして、怖い系苦手そうだと思ってたから」
へぇ、鯨井くんには私がそんな風に見えていたのか。
彼が抱く第一印象について、具体的に聞いてみたいと思っていた私だったが。
「ほら鳴海ちゃんってタヌキ顔だし。もっと女の子女の子した性格なのかと」
もういいよ認めますよ。私はタヌキ顔ですよ。
近頃みんなから妙にタヌキ認定をされるので、もう潔く認めようと思う。
「褒め言葉だって」
涼木さんがそうフォローしてくれたから、私はもうタヌキでも何でもいい。
いっそのことドロンと化けて、私自身が中庭の妖怪として全校に名を轟かせてやろうか。中庭のジメジメしたところに棲息する妖怪バケタヌキ……。
へっへっへっ……と遠い目で変な笑い方をしてると「鳴海ちゃーん……? 戻っておいでー……」と涼木さんが心配そうに肩を揺すって意識確認をしてくれた。
あ、食べ終わったケーキのお皿下げますよ。
とか言い訳して、私は沈んだ気分もそぞろに全員分の皿を重ねてカウンターまで一人で運んだ。山から下りてきた狸じゃ、人様の世界は生きづらい。
カウンターまで運ぶと、ちょうどエプロン姿のお姉さんがバックから出てきた。目が合うと「あらあら」と素敵な笑顔で少し早足がちにこちらまで歩いてくる。
「お客さんがそこまでしてくれなくていいのに。お皿はお姉さんが下げるから、食べ終わってもそのままテーブルに置いておいていいのよ?」
「あ、すみません。わざわざありがとうございます」
微笑むお姉さんの顔を見つめていれば、「あぁ、そういえば本日の主催は鯨井くんだったな」と思い出す。
自己紹介の最初で鯨井くんが言っていたことだけど、このケーキショップは彼の親戚が経営していて、わざわざ口利きをして定休日に開けてもらっているのだ。




