表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/45

第42話 朝っぱらからルームメイト②

 波瀬(はせ)は天真爛漫な性格で男の子からの評判が良いと同時に、一部から「たらし」と評されることもあるが、基本的に学内のほとんどから好かれている陽キャ女子。

 涼木(すずき)さんは言わずもがな誰も認めるルックスの良さと、その天使ような清廉潔白なイメージから異性同性恋愛友愛様々な形の思慕を集める学内カースト最上位。


 仮に、そんな二人といきなり出かけるって友達に報告されたら、私だって驚く。私は潮尻(しおじり)目線に立って事の発端を説明することにした。

 ……波瀬(はせ)と私が同じクラスであることは知っているはずだから、まずは波瀬(はせ)涼木(すずき)さんが同じ委員会に所属していた、という経緯があったところから――。


「……なるほど。鳴海(なるみ)にそんな繋がりがあったとはね。それで、合コンかぁ」


 情報共有が済むと、それでも驚きを隠せないのか潮尻(しおじり)は口元を手で覆っている。


「あの、波瀬陽菜(はせひな)と……あの、涼木彩愛(すずきあやめ)さんかぁ……」

「えっと、さっきから波瀬(はせ)のことぞんさいにフルネームで呼んでるけど、その理由は聞いても良い感じ?」

「ああ、波瀬陽菜(はせひな)は、カスミの推しの魚見(うおみ)くんと仲良さそうにしてるから憎いの」


 女の子の嫉妬って怖い。そんなことをさらりと笑顔で言う潮尻(しおじり)も怖い。

 潮尻(しおじり)って案外重いタイプなのかも。


 そして何気に初出情報。潮尻(しおじり)魚見(うおみ)推しだった。

 昨日の釣り(ナンパ)を思い出して、やめたほうがいいと忠告しそうになるのを自制する。推し方は人それぞれだし、何より潮尻(しおじり)魚見(うおみ)釣り(ナンパ)癖のことを知らない。


「え、私はいいの? 私もその、魚見(うおみ)とは割と仲良くしてるほうだと思うけど」

鳴海(なるみ)はいいのよ。カスミ的に、魚鳴(うおなる)は今ところ一番熱い校内カップリングだし」


 魚見(うおみ)が左で、私が右。

 なんで私受け設定なんだ。


「タヌキ顔女子ってえっちなイメージあるから、これはもう完全なる誘い受けね」


 おまえも私のことタヌキ顔っていうのか。


 ……と、そこでなんとなく、点と点が繫がった感覚。

 私はもしやと思って、尋ねずにはいられない疑問を潮尻(しおじり)に投げかける。


潮尻(しおじり)。あんたがさっき私に『ドタキャンして』って言ったのって……」

「そうだよ。魚鳴(うおなる)は絶対だよ。自由恋愛なんて認めないんだから」


 カップリングへの愛が重すぎて、スポーツ強豪校並の恋愛への厳しさである。


「一昨日、湖崎(こさき)先生との件について妙につっかかってきたのって……」

「そうだよ。魚鳴(うおなる)は絶対なんだよ。教師との恋愛なんて許すわけないじゃん」


 まさかの伏線回収。

 ルームメイトが信じてくれなかったのは、カップリングへの愛ゆえだった。

 







 ほとんどの準備を終えると、午後○時を過ぎていた。

 約束の時間は午後三時である。着ていく服も決めたし、化粧もこれからゆっくりしても間に合うだろう。


 合コンに行かせたくないと駄々をこねる潮尻(しおじり)をなだめるには、結局「合コンは数合わせでの参加だから」と真実を話すほかなかった。

 さよなら、私のマウンティング精神。私が女としてネクストステージに進んだという虚栄は、トドのつまり潮尻(しおじり)からの反感を買うだけで何の得もなかったのだ。


 潮尻(しおじり)はあれから、何だかんだ言って私の言い訳が腑に落ちず二度寝(ふてね)に入り。

 時間に余裕のある私は、部屋の本棚からお気に入りの小説をとり何度目か分からない再読をしていた。

 と。


 ――にゃあ。


 ……またどこから侵入してきたのか、ずんぐりむっくりしたブチの猫。

 うみゆり寮のマスコットこと、バラだ。


「バラ。どうしたの、また撫でられにきたの?」


 話しかけるが、そこで何となくバラの様子がおかしいことに気づいた。いつもなら、いの一番に私の足元に寄りついて、身体をすりすりしてくるはずなのに。


 ――にゃあにゃあ……。


 バラは何故か私に近づきたがらない。仕方ないから私のほうから寄っていくけれど、にゃあにゃあ言葉数多めに鳴いて私から距離を取りたがっている。


 ――にゃあにゃあにゃあ。

「本当にどうしたの?」

 ――にゃあにゃあにゃあにゃあ……。


 当然だが私は人間だから猫語がわからない。わからないから、コミュニケーション手段として、バラに手を伸ばす以外なかった。

 だけど……。


 ――ふしゃああああっ!

「痛っ!? え、バラ……? あんた私に威嚇なんてしたことなかったのに……」


 激しい威嚇と共に、手の甲をひっかかれた。赤い線が肌の上に走る。

 バラは爪が刺さった箇所を撫でる私を見つめ、いまだ鳴き声をあげている。


 ――にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ……。

「な、なに……? バラ、あんた何かあったの……?」


 尋ねるが、バラは答えてくれない。お説教のように猫語で何かひとしきり喋った後、ぷいっとベランダから出て行った。

 ひくひくと鼻と(ひげ)をゆらして、不快そうに私を睨むバラが鮮明に記憶に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ