第41話 朝っぱらからルームメイト①
翌朝。
昨夜は疲れもあって早々に寝たから、寝起きがかなりすっきりしていた。
うーん、と身体を伸ばして、ベッドに手をついて起き上がる。
――ふにょり。
ベッドに置いたはずの左手に、妙な柔らかい感触。
え、なに? なんかめっちゃ柔らかいものに触れたんだけど……。
おそるおそる毛布をめくってみると、そこには。
「……う~ん、むにゃむにゃ」
何故か私のベッドに平然と潜り込んで眠っている、潮尻の姿があった。
……いや、自分のベッドで寝ろよ。
と、ツッコんでも奴は夢の中である。
私の手は潮尻の胸元に置かれていた。げんなりしながらその手を離し、隣に備え付けてある空っぽのベッドに目を向けた。呆れのため息。
「あの潮尻さん、そろそろ起きてもらえませんか? 今日日曜だし、ベッドのシーツ洗いたいから、退いてもらいたいんですけど」
「……もう鳴海ったらぁ、こんなところで裸になってぇ、えっちなんだからぁ」
こいつ、なんて夢見てやがんだ。
夢の中に私を登場させて、そのうえ、色々と倫理規定を破っている。
さすがにイラッとしたので、枕を投げつけ潮尻を無理やり退かすことにした。
「――痛いっ!? って、あれ、裸の鳴海は!? カスミが愛した裸の鳴海はどこに」
まだ寝ぼけているようなので、もう一度顔面に枕をぶつけてやる。
「うきゅっ」と声をあげて、しばらく動かなくなる潮尻だった。
退けてほしいのに、余計動かなくなったので「どうしたもんかな」と少し悩む。
「まぁ、いいか」
悩んだけど、シーツの洗濯は来週に回せばいいと考え直した。
そうひとりで納得して、私は洗面所で顔を洗った。歯磨きをしながら洋室に戻ってくると、私のベッドの上で何故か不機嫌そうに枕を抱いている潮尻がいた。
あ、おはよう潮尻。
「鳴海、最近カスミへの対応が雑になってない……?」
それはあんたが、ベッドに潜り込んだりしてくるからだ。
私が歯磨きしながら無言で見つめていると、奴はふいに物憂げな顔になって。
「……鳴海。女の子にはね、どうしてもひとりじゃ寂しくて寝れない夜があるの」
なんかそれっぽい言い訳をしてきた。
うがいをするのが先だと一旦そっちを優先して洗面所まで往復し、戻ってきてようやく潮尻にツッコむことにする。
ちなみに昨夜私が寝る前の記憶では、別々のコップに歯ブラシが入っていたはずなのに、今朝になって私のコップに潮尻の歯ブラシが入っていた。どういうこと。
「ひとりじゃ寝れない夜ってどんな夜さ」
「……言わせないでよ、もう。人肌恋しい夜のことよ」
ツッコめば、さらに言い訳がやかましくなった。そして女々しさ倍々。
いくら人恋しいからって、インスタントにルームメイトで解消しようとするな。
「だからさ鳴海。日曜だし、ふたりでもう一度同じベッドで二度寝しよ?」
「しない。今日は午後から予定があるし」
まるでこれまで何度もふたりで二度寝したことがあるかのような誘い方、やめてね。一度だってしたことないからね、私たち。
ぴしゃりと断ると、「予定?」と首を傾げる潮尻。
私はちょっとドヤ顔になりながら言った。
「そう。私、今日は合コンに行かなくちゃいけないから」
「ご、ごごご合コンっ!?」
朝っぱらから騒がしい奴だ。
「な、なんでいきなり合コン!? 鳴海って、男欲してるタイプだったっけ!?」
「別に欲してなんかいないけど。友達に誘われて」
数合わせで、とは言わない。潮尻が「鳴海がカスミを置いてネクストステージに……」とか呟いて真っ白になってるから、何か女として勝った感ハンパないし。
「合コンなんて、そんな……カスミ聞いてないよ。今すぐドタキャンして」
なんでだ。相手側にも波瀬や涼木さんにも迷惑がかかるだろ。
それに私は昨日涼木さんの騎士になると誓ったのだ。指輪も窓辺に飾ってある。
「誰と行くの?」
「波瀬と涼木さん」
「ええっ!? あの、波瀬陽菜と涼木彩愛さん!? どういう繋がりなのよそれ!?」
またしてもオーバーリアクションの潮尻。
それもそうだ、波瀬も涼木さんも学内じゃ名前を知らない生徒のほうが少ない。




