第4話 唐突にはじまる青春ラブコメ①
四時間目前の小休憩。
次の授業は化学だ。魚見と波瀬と一緒に、一年三組の教室を出る。
「それでね、日曜の合コンのセッティング全然間に合いそうにないの。魚見でも鳴海でもいいから、数合わせで参加してくれないかなーって」
こいつ、つい最近別れたばっかなのにもう恋人を欲してやがる。
私は思わずしらーっと波瀬を見つめる。
と、私同様話を聞いていた魚見が廊下の窓に目を向けながら言った。
「合コンねぇ。あたしはパスだな。土曜日曜は釣りに行きたいし」
「そっか。じゃあ鳴海は? 日曜、ウチと合コンに参加してくれない?」
魚見が誘いを袖にしたから、当然私にその話が振られる。
さてどうやって断ろうかと考えながら、私はその合コンとやらについて色々尋ねてみることにした。
「合コンって、何人参加なの?」
「男女三人ずつだから合計で六人だね」
「メンバーは?」
「男子は東高の子たち。女子メンツは今のところウチ一人だけなんだけど、とりあえず残りは放課後あたりに同じ委員会の子にも声かけてみようと思ってる」
波瀬はこんなキャラをしていながらなんとボランティア委員会に所属している。
奉仕活動ができるギャルとか、属性マシマシすぎないか。
なんて考えていたけど、私はそこらへんでてきとうに断り文句を入れる。
「あー、東高の男子かぁ。そうなると私ちょっと参加微妙いかも」
波瀬がきょとんと首を傾げる。
「なんで?」
「私の出身中学の子って、大抵東高に進学するんだよね。だから……」
続けようとしたけど、そこで納得したように頷いたのは波瀬だ。
「なるほど。そっかそっか、鳴海って高校デビュー勢だもんね。自分を変えたくて、東高じゃなくて青高に進学したって前に言ってたもんね」
「そうそう。だからメンバーが東高ってなると、顔合わせづらいから……」
私が暗黒時代に陰キャしてたのは、新学期の時点で二人には話していたことだ。
それに加えて、高校では社交性を身につけたくて、環境を抜本的に変えたくて、薔薇色の高校生活を送りたくて、東高ではなく青高に進学したということも。
私の暗黒時代の陰キャぶりを告白しても、二人はたいして驚きはしなかった。
というよりは「変わりたくて行動に移せてるのって偉いじゃん!」と、私の過去をはねのけることなく優しく受け入れてくれたという具合である。
そのときは「真の陽キャは誰にでも優しい」という、ネットスレでまことしやかに囁かれていた伝説的民話的怪談的ウワサが本当であったことに驚いたものだ。
「マジかぁ……鳴海も魚見もダメかぁ……」
「うん。ごめんだけど、他を当たってほしいな」
歩いてきた廊下を曲がって、生徒玄関近くの階段に向かう。
と、玄関で何やら騒がしくしている生徒たちの人垣。
さっきまで体育だったのか、ジャージ姿の男女が一人の女子生徒の周りに集まっている。中心に立っている女子生徒は、またあの困り顔で小さく笑っていた。
「涼木さんってテニスも上手なんだね! 見ててもう、かっこよくて……!」
「涼木、今度は俺とダブルス組もうぜ。涼木となら面白いゲームできそうだし」
「涼木さん! テニスしてる姿が本当綺麗で……思わず写真撮っちゃいました!」
最後に涼木さんに話かけたのは、キラキラと瞳を輝かせているファンガールと思しき女の子。先週のプール掃除で見かけた、あの子だ。
授業中のスマホ使用は禁止のはずだ。なぜ体育の時間に写真が撮れる。
あの子は集団から一歩前に踏み出し、積極的に涼木さんに近づこうとする。
「ところで涼木さん、いつになったら連絡先交換してくれるんですか?」
え、まだ交換してもらってなかったのか。
突如として浮上する、あの子しれっと避けられてる説。
学内カースト最上位に君臨する真の陽キャ、涼木さんをそこまでドン引かせるとは、あの子、相当な地雷系の可能生があるぞ。私も気をつけねば。