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第38話 お姫様の秘密①

 今日はナンパにあったり鹿島(かしま)くんと遭遇したり、何かとトラブル続きだった。


 目の回る出来事の連続で、涼木(すずき)さんは相当疲れてしまっているだろう。

 お店を離れながら、今日はもう解散かな、と思っていた私だったが、歩いているとふいに「ねぇ、もう少しだけお話していかない?」と涼木(すずき)さんが誘ってきた。


 断ることなんてできず、私は涼木(すずき)さんと通りからほど近い河川敷を歩いている。


鳴海(なるみ)ちゃん、こっち来てくれる?」


 遊歩道そばのベンチに座って、涼木(すずき)さんが手招きをしてくる。

 話を聞いてあげるのも友達の役目だと思って、隣に座る。私がそうすると、涼木(すずき)さんはさりげなく私から距離をとって座り直し、俯きがちで口を開いた。


「今日一日で鳴海(なるみ)ちゃんにはいっぱい迷惑をかけちゃったし、アキくんには色々と暴露されちゃったことだし……これはもう鳴海(なるみ)ちゃんには話すしかないなって思ってさ」

「……うん」


 涼木(すずき)さんは川向こうに視線をやる。その視線を追って私も同じ方向に目を向けるけど、多分涼木(すずき)さんは私よりももっと遠くのほうを見つめているんだと思う。


「わたしね、男の子が苦手なの。突然触れられたり声かけられたりすると、どうしても身体が強ばっちゃって……それで、凍ったように動けなくなっちゃう」


 そこまで言われれば、昨日今日と涼木(すずき)さんを見ていて抱いた違和感が解けたような気がした。


 例えばそれは、学校の玄関やプールで鹿島(かしま)くんに身体を触れられたとき。

 例えばそれは、ついさっきの出来事――駅ビルで男の人に腕を掴まれたとき。


 後者は女の子なら誰しもが怖い思いをするシチュエーションだけど、その後彼女が私の胸に縋り付いてきたのは、ショックを受けたにしても少し過剰に思えた。


「きっかけは、小学校の頃のことでさ――」


 涼木(すずき)さんは微かに唇を噛むと、とつとつと当時のことを語りだした。








 わたし、自分で言うのも恥ずかしいんだけど……当時から、その、女の子な部分の発達が他の子より早かったんだよね。


 ……そう、胸とか、腰回りとか。あとは、身長も。

 身長なんて小学校を卒業してから今――高校一年にかけて二、三センチしか伸びてないし、つまりはそれぐらい、本当に女の子らしい身体つきに成長するのが早かったの。


 そんなとき――今でも忘れないんだけど、小学三年の、放課後の教室掃除のときに起きたことなんだけどさ。


 同じ掃除班の女の子と雑巾がけをしてるとき、ふいにぶつかって、その際にわたしの胸に手が当たっちゃったの。

 女の子は、触った瞬間ちょっとびっくりした顔になってたけど、幼いながらに、その女性らしい感触に心地よさとか好奇心とかを抱いたんだと思う。


「スズちゃんの、やわらかい。もっと触っていい?」


 そんなことを言ってきた。

 女の子同士だしいいかなって思って、わたしはその子に胸を与えた。


「ふかふかだ。ママのみたい」


 触られているときはそこまで恥ずかしくなかったんだけど、感想を言われると途端に顔が熱くなったのも覚えてる。

「変なこと言わないで」って胸を離したら、女の子は「私のも触っていいよ。お返し」って言って、今度はわたしの手を掴んで自分の胸に当ててきた。


 そうやって「えっちー」とか「やだー」ってふざけ合ってたんだけど……。


 そうしてるうちに、クラスの男子たちが掃除から帰ってきて、


「オレたちにも触らせて」


 わたしとその子がふざけてるのを見て、何かが触発されたのかそう言ってきた。


 男の子が触るのと女の子が触るのとじゃ、意味合いが変わってくる。

 当時なりにそれくらいの性意識があったわたしは断ったんだけど、男の子たちは違った。「嫌だ」って拒否し続けてたんだけど、男の子たちはついには――。


 ……五人だった。

 わたしを押さえつけたのが二人で、その子を押さえつけたのも二人。

 残った一人の役得を、一人ずつ、代わりがわり交代してって感じで。


 あんなことされて男の子たちを擁護するつもりはないんだけど、男の子たちを突き動かしたのは、明確な情欲というよりは、「クラスの女の子にいたずらをして面白がっている」という意識のほうが強かったような気がする。


 だって、小学三年だよ? 

 それくらいの年齢で、性意識が一般レベルまで発達してるほうが変だよ。


 男の子たちは「女の子にいたずらをする」の延長線上で、女の子に絶対にしちゃいけないことをした。これが、あの出来事の真実なんだって理解はしてる。


 ひとしきり事が済まされると、わたしと女の子は解放された。

 先生には言えなかった。男の子に触られたことを誰かに知られるほうが、私もその子も恥ずかしくて、今日あったことは忘れようってふたりで決めて。


 ……結局、高校生になった今になっても、忘れられないでいる。


 その子のその()については……正直いって、分からない。

 四年生のクラス替えで離れて、卒業して進んだ中学も違ったから、なにも。

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