第34話 アクセサリーを買いに②
「じゃーん! どう? 似合ってる?」
アクセ選びが終了しお店を出ると、涼木さんはちょっとおどけた動作で首元を見せびらかした。購入したのは、小さな珊瑚があしらわれたネックレスだった。
えっ、あっ、あっ……か、かわ…………。
明度の暗い赤が首元で輝く度、私はその尊さに天国まで飛んでいけちゃいそう。
ぽわぽわと目がハートな私の隣で、波瀬は「おー、カワイイ」と無難に褒める。
その平温さに思わず「涼木さんをもっと褒めなさい」と説法の精神が表に出る。
「波瀬、そんな簡単な褒め方じゃ涼木さんファンとして格が落ちるよ。涼木さんの首のラインに美しくぴったり収まる、あのシンデレラフィットを見て何とも思わないの? 私からすれば『涼木さんがネックレスをつけている』じゃなくて、『ネックレスのほうが涼木さんにつけられている』と形容したほうが正しいまであるぐらい尊みに溢れているようにみえるね!」
私の熱弁に、うぜぇ……と顔を歪める波瀬。
そして「もう変に褒めすぎだってば」と頬を赤らめる涼木さん。
「ウチいつから涼木のファンになったのよ。てか、突然厄介オタクになりだすの、やめてね」
波瀬が心外だとばかりにこちらを見つめてくる。
心外だとは、ナンセンス。
ちなみに私は涼木教に入ってから、毎日に活力が芽生え幸福でいっぱいです。
サクラではありません。さぁ、皆で涼木さんを崇拝し、幸せになりましょう。
それからも(主に私が)涼木さんカワイイカワイイを続けていると、ふいに波瀬がぽちぽちとスマホをいじりだす。
涼木さんの買い物中も、何かとスマホを取り出して誰かとこまめに連絡を取り合っていた波瀬だ。私と涼木さんが目配せをしあって(ちなみにこのときの涼木さんももちろんカワイかった)から、「どうしたの?」と尋ねてみた。
「あ、いや、なんか弟が急に熱出しちゃったみたいで。ゼリーと熱さまシート買ってきてってママにおつかい頼まれてるんだけど、今はそれを必死に断ってる感じ」
なんでよ。それぐらい買いに行ってあげなよ。
私も涼木さんも白い目で見つめていると、ピロピロと着信が入る波瀬のスマホ。
出たほうがいいよ、と涼木さんも促す。
「……はい、もしもし――えー、なんでウチが――ママが買いに行けばいいじゃん――……うん、はいはい、わかったから、もう切るよ? じゃあね、バイバイ」
事が済んだようで、はぁ、と盛大なため息をつきながら波瀬はスマホを仕舞う。
「……ごめん、急だけどママに帰ってこいって言われちゃった」
波瀬が気まずそうに言うと、涼木さんは全然気にしていない様子で手を振る。
「いやいや全然。弟くん大事かもしれないから、早めに帰ったほうがいいよ」
「本当ごめん。涼木のほうから誘ってきたのに、こんな形で中断になっちゃって」
姉の外出を邪魔しおって、帰ったら弟の奴しばいておく、とか宣言してるけど相手は病人だぞ。少しは遠慮してやってほしい。
それに私も涼木さんも別に、見ず知らずの弟くんのことを恨んじゃいない。
私は弟くんの未来を案じて「また別の日に遊べればいいじゃん」と口添えする。
そうすれば、波瀬は怒りで震える拳をおさめ、息を吐いてから小さく笑った。
「わかった。今日のところはふたりの優しさに免じて拳骨二発にしといてあげる」
一発も殴らない未来は存在しないのか。
笑顔で人を殴る宣言をするギャルってば恐ろしい。
奉仕活動ができるツンデレギャルに、パワー属性も備わっていたとは。
属性盛りすぎて、キャラのテコ入れを疑うレベルだ。
「それじゃあ埋め合わせは鳴海に任せるから、残りの時間はふたりでごゆっくり」
波瀬はおどけるようにしてそう言うと、駅方面に向かって歩いて行く。
一度バイバイと手を振って横断歩道を渡れば、彼女は通りの人波に呑まれてすぐに見えなくなった。
午後三時半の街角。解散するにはまだ早すぎ、波瀬がああ言い残したのもあって、私と涼木さんはなんとなく離れ難い。涼木さんは間を埋めるように言った。
「……それじゃあ、次はどこ行こっか、鳴海ちゃん」
あ、この問題進研ゼミでやったところだ。
くだんの「それじゃあ、次はどこ行こっか?」問題である。
私は事前に頭に入れておいた遊びスポットを、脳内検索エンジンから提案する。
「県庁通りから少し外れたところに、チャイティーが美味しい焼菓子店があるんだけど、行ってみない?」
「へぇ、そんなお店があるんだ。行ってみたいかも」




