第33話 アクセサリーを買いに①
波瀬と合流して、私たちは駅ビルを後にした。
二区画ほど歩き、アクセサリーショップ――「ocean floor」に入る。このときにはすでに涼木さんは元気を取り戻し、波瀬もお腹のほうはすっきりしたようで。
「見て見て! 誕生石のアクセサリーコーナーだって! キレイ~!」
「本当! ねぇ、鳴海ちゃんも見てよ、ショーケースのネックレス! 可愛い!」
ショーケースを覗き込む二人は、まるで水を得た魚のように元気だった。
今日のお出かけの目的。
それは、涼木さんのファッションに馴染む首元のアクセサリーを探すことだ。
涼木さんに誘われるままに、私もショーケースのそばまでやって来る。
……うわ。
そこに広がるのは、私がまだ踏み込んだことがない、ザ・オシャレ女子の世界。
キラキラした宝石があしらわれた、数々のアクセサリーが並んでいる。
陰キャの出自にある私からすれば、宝石たちが眩しすぎるったらありゃしない。
こんな感じの綺麗なアクセを、巷のオシャレ女子たちは当たり前のように身につけているんだぁ……うわぁ、うわぁ、うわぁ…………。
溢れるオシャレオーラに貧血になりながら、私はガラスの宝石箱を眺めていた。
私たちがケースの前でぽわーっとしていると、スーツ姿の綺麗なお姉さんが近寄ってくる。お姉さんはまず始めににこっと笑って私に話しかけてきた。あわわ。
「あら、学生さんだ。今日はどんな感じのものを探しにきたの?」
陰キャ出身の私は、フランクに接してくる店員さんについドギマギしてしまう。
問われても、緊張でにょごにょ口調での返答になる。……なんて気弱な私。
「……え、えっとですね、今日アクセ探しに来たのは私ではなくて友達でですね……首回りのアクセが見たくてですね……、私はその付き添いでですね……」
私のしどろもどろな受け答えに、けれどお姉さんは笑顔を崩さない。
「ふうん。それじゃあ、どの子がアクセサリー探しの本命なのかな?」
お姉さんがいっそう深く微笑む。……あ、この人の笑顔、めっちゃかわいい。
私はそこらへんでやっと緊張感が抜けて、お姉さんの目を見ることができた。
お姉さんに見とれているうちに、隣で「わたしです」と手をあげる涼木さんだ。「合コンのために気合い入れたくて」と言うと、お姉さんは頷いた。
「合コン。それじゃあ、良く見られるために頑張らなきゃね」
「はい。それで、合コンにはこんな感じの服で行こうと思ってるんですけど、このコーデに合いそうな首回りのアクセってありますか?」
涼木さんは当日着ていくコーデを事前に写真に撮っていたようで、それをお姉さんに見せた。合わせて予算も伝えると、すぐにお姉さんに連れられていった。
小綺麗な店内で孤立することを怯えた私は、すぐ傍の波瀬に縋りつく。
「は、波瀬……わ、私ゃ、こんな女の子女の子したお店に耐性なんて無いよぅ」
「なに言ってんの。あんたも立派なカワイイ女の子でしょうが」
どうしよう、今だけは店内で堂々としてられる波瀬がかっこよく見えてしまう。
明日の合コン、数合わせだから男の子に落ちることはないけど、もしかしたら波瀬がふと見せてくるイケメンな仕草に呆気なく惚れてしまうかもしれない。
気をつけなければ、と私はひとり波瀬の背中を見つめがら思った。




