第30話 恋人いない歴=年齢②
「昨日帰ってから合コン用に色々服合わせてみたんだけど、どうしても今ある服に合う首元のアクセサリーがなくて。だから明日に備えて、色々見ておきたいの」
なるほど。買い物目的ね。
私は再度ケチャップで汚れた波瀬の口元を拭きながら頷く。
拭き終わると、波瀬は何だかやたら調子良さげに涼木さんを持てはやす。
「うんうん、やっぱり男の子には可愛いって言ってもらいたいよね。そのための努力は無限にできちゃうよね。涼木にもようやく男っ気が出てきて嬉しいよ」
後方腕組み母親面の波瀬。うんうんと感慨深げに頷いている。
「涼木はこんなカワイイ顔してるのに、実は恋人いない歴=年齢だもんねー」
「ちょっ、ちょっと! そんな恥ずかしいこと、鳴海ちゃんに教えないでよ!」
波瀬の唐突な暴露に顔を真っ赤にする涼木さんだ。
ごまかすように一口ソフトクリームを含んだけど、その火照りは緩和されない。
え、涼木さんって、こんな美人で学校でもあれだけ人気があるのに、恋人いない歴=年齢なの?
私は何気に親近感を抱きながら涼木さんを見つめる。
ちなみに私も恋人いない歴=年齢だ。誕生日もそろそろだし、実のところ一五歳の代も恋人ができないまま過ぎようとしている今日この頃である。泣いてないよ。
涼木さんは、恋愛経験のことを暴露されて相当恥ずかしかったようだ。ソフトクリームを食べ終えると「お手洗い行ってくる!」と慌てた様子で席を立った。
食後。
波瀬が「た、食べ過ぎた……」とテーブルにほっぺをぐりぐりさせている。
ちょっと顔色も良くないので冷たいお水を紙コップに汲んできて渡し、ふとフードコート全体を見渡す。
「……それにしても、涼木さん遅いね」
私が呟くと、波瀬はまだお腹が苦しいのだろう、青い顔をしたままで「確かに」と呟いた。
「鳴海、ウチ今ハンバーガー症候群でお腹パンパンだから、」
なんだハンバーガー症候群って。
食べ過ぎで動けないだけだろ。
「涼木の様子、ちょっと見てきてくれない?」
波瀬が呻きながらそう言うので、私は仕方なしに動くほかなかった。
「……わかった。とりあえず近くのトイレ行ってくるから、波瀬は休んでて」
席を立って、涼木さんのところへ。
だけどその前にこれだけは言っておかなきゃと思って、波瀬を振り返る。お腹を押さえてうぐうぐ呻く波瀬を見ていて、少しの心配も湧かないわけじゃなかった。
私は先程渡した水の入った紙コップを指差し、
「お水はゆっくり一口ずつ飲むんだよ。一気に飲むと余計具合悪くなるから」
「あ、うん。わかった。……いやてか、そこまで言われなくても流石に」
「あと、テーブルに突っ伏すような姿勢もダメだよ。お腹に負担がかかるし」
「わ、わかったから。それより涼木のほうに……」
「あとあと、お腹が痛くなったらちゃんとトイレに行くこと。一人じゃ辛かったから電話かけて。そのときは、ひとまず涼木さんのこと迷子センターに相談してからすぐに波瀬のほうに向かうから」
「迷子センターて。あんた、ウチと涼木のママ過ぎるだろ」
早く行け、とママは子供になじられながらトイレまでの道を駆け抜けます。




