表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/45

第28話 おいそこ代われ

 魚見(うおみ)から逃げた際に入った喫茶店でアイスココア(めちゃくちゃおいしかった)を堪能し、その後も一人で駅界隈の遊びスポットの調査をして時間を潰す。


 そして、約束の午後一時。

 駅西口。そこには、巨大な林檎のモニュメントが設置されている。


 歩いていくと、モニュメントの前にもうすでに涼木(すずき)さんと波瀬(はせ)が到着していた。

 時間通りではあるのだけど、私はちょっと早足で二人のもとへ駆け寄った。


「ごめん、もしかして待たせちゃった?」


 二人にそう声をかけると、二人はそれぞれ個性溢れる返答をしてくれる。


「全然。昨日の今日で、急遽誘っちゃってごめんね」と言ったのが涼木(すずき)さん。

「遅い。時間通りとはいえ、この波瀬(はせ)様を待たせるとは。この対価、貴様はいかにして払うつもりか」と偉そうにふんぞり返っているのが波瀬(はせ)


 この波瀬(はせ)様って、私はあんたより低い身分になった覚えなんてないのだが。


 そんなボケをかましながらも容姿にもコーデにも隙がない波瀬(はせ)である。涼木(すずき)さんと二人並んでいる様子はまさに絶景といえた。美少女×2の、絶景。


 涼木(すずき)さんは濃い青色のスカートに白のTシャツを合わせて、薄い栗色のカーディガンを羽織っている。

 波瀬(はせ)は黒のフレアスカートに、ベージュのノースリーブ。後は淡いクリーム色のキャップで調整。「脇の処理だるかったぁ」とか大っぴらに言うの、やめてね。


 私が波瀬(はせ)にしらーっとしていると、ふと涼木(すずき)さんが近寄ってきて微笑む。


鳴海(なるみ)ちゃんのスカートかわいい。ブルーのプリーツ、大人っぽくていいね」

「え、本当? 涼木(すずき)さんに褒められるなんて、色々悩んだの報われるなぁ」

「うん、短くなった髪と相まってすごく可愛い。髪はどこで切ったの?」

「えっとね、『ばーど・けーじ』って美容室なんだけど――」


 行きつけの美容室を紹介する。お客さんの髪を異様に染めたがる危険美容スタッフについて注意喚起すると、今度は私のファッションについて話が移る。

 私の今日のファッションは、青のロングスカートに英字のロゴT。「prawn」という文字が胸の左側に躍る。その上にTシャツよりもベーシックな白のブルゾン。


「どこで買ったの?」

「新町のほうにある古着屋さんだよ。おしゃれはしたいけど、ブランドものにはなかなか手が出せないし」

「偉いね。それじゃあ、実際にお店に行って服買うタイプなの?」

「そうだよ。やっぱり実物に触れてみてから、買う買わないは考えたいかな」


 ふーん、と涼木(すずき)さんが頷くと、動作に合わせてふわりと良い匂いがする。

 上品でフローラルな、そんな香水の匂い。


 私が匂いにほわんほわんしていると、それに気づいた涼木(すずき)さんが眉を下げた。


「もしかしてわたしの匂い、キツい? そんなにつけた覚えないんだけど……」


 ううん、違うの涼木(すずき)さん。

 私はただ、涼木(すずき)さんの良い匂いにあてられて少し酔っぱらってるだけだから。


 猫がマタタビに酔うように半ば恍惚としていると、波瀬(はせ)が割り込んでくる。


「うわ本当だ、めっちゃいい匂い。これは……薔薇(ローズ)の香水?」

「トップが百合(リリー)でミドルが薔薇(ローズ)。それで、ベースにもう一度百合(リリー)が調合されてる少し変わった香水で……って、ちょっと波瀬(はせ)嗅ぎすぎ。もう少し遠慮してよ……」

「へぇ、ベースに百合(リリー)って変わってる。ふむ、これはなかなか珍しい匂い……」


 すんすんすんすん、と何だか危ない目をして涼木(すずき)さんの首に鼻を近づける波瀬(はせ)


 おいそこ代われ、私にも涼木(すずき)さんの首筋嗅がせてくれ。後生だ。

 ……とは思っていても、なかなか本心を口にできないのが陰キャ出身の私だ。


 自分の思いのままに行動できる波瀬(はせ)に、少しの嫉妬。いじけ半分、()け半分。

 私は女々しいと自覚しながらも、うじうじ二人の仲睦まじい様子を見つめる。


 と、そこで突如間の抜けたことにぐう、と聞こえてくる誰かのお腹の音。

 さっきまで鼻を鳴らしていた波瀬(はせ)が、今度は空腹に音を上げたようだった。


「……お腹空いた。ウチまだお昼食べてないんだけど。二人はもう食べた感じ?」

「わたしは食べてきたけど。鳴海(なるみ)ちゃんは?」

「……私も食べたけど、波瀬(はせ)のおひる優先しようか。駅ビルのフードコートがリニューアルしたみたいだし、そこだとご飯も軽いものも同じエリアで食べれるし」


 私が提案すると、二人は「いいね」と賛成してくれた。

 ちなみにリニューアルしたのを知っているのは、ついさっきまで駅界隈を散歩していたおかげだ。ハンバーガーショップが新しく入っていたのを覚えている。


「しゅっぱーつ!」と歩き出すと、私はぴたりと涼木(すずき)さんのすぐ隣を陣取る。

 ……よし、これで心置きなく涼木(すずき)さんの首筋の匂いが嗅げるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ