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第26話 釣られた魚①

 翌日の土曜日。

 歩きながら低い桜の木から葉桜を指で摘み取り、太陽にかざして緑を覗く。


 約束の午後一時より二時間ほど早く待合場所近くにやって来た私は、そのままぶらぶらと新青山駅界隈を散歩していた。


 駅近くのビル街を少し離れた通りには、アーケード商店街がある。

 露店や雑貨屋、小さな喫茶店が並び、お昼どきゆえに人通りもまあまあ多い。


 商店街の一角にある、鯛焼き屋さんの注文口すぐ側の茶席。

 私は注文したカスタード鯛焼きを待ちながら、小さくひとりごちる。


「……友達と遊ぶときは、待ち合わせの数時間前に遊びスポット周辺を散歩してみたり地図を確認したりして、事前準備をしておくべし」


 これは、私の妹(超絶陽キャ)からのアドバイスだ。

 妹(いわ)く、友達と外出した際の「それじゃあ、次はどこ行こっか?」対策らしい。


 例えばそれは友達と映画館へ行ったとき。

 一本の作品を見終わるのに大体二時間ほどかかるが、その後喫茶店とかに入って感想会を開いても、それで一時間も二時間も喋ってられるなんてことはまぁない。

 感想会が終わった後もだらだらダベって時間を潰せばいいとか思われがちだけど、そのダベりにもじきに飽きがきてしまう。


 そこで出てくるのが――「それじゃあ、次はどこ行こっか?」問題である。

 飽きがきた友達は当然次なる遊び場を求めて、くだんの質問を投げかけてくる。


 妹(超絶陽キャ)の回答は、以下。


『そういうとき自分から提案できる人ってモテるし、友達からもウケがいいの。事前に遊びスポット周辺の地理を頭に入れておいて、時間が余ったら自分から色んな所に連れて行ってあげるの。友達と過ごす時間は、退屈色に染めたくはないし』


 一つ年下の妹からそんなアドバイスをもらうお姉ちゃんって、一体……。


 もうちょっとお姉ちゃんらしく振る舞わなくては、妹のお姉ちゃん離れは加速していく一方である。それだけはなんとしても避けなければならない。絶対に。

 地元で陽キャライフを謳歌している妹に思いを馳せていると、「お待たせしました」と店員さんから私の顔ぐらいあるサイズのめちゃデカ鯛焼きが渡される。


 お礼を言って受け取り、パクリとまずは一口。尻尾から頬張る。

 もぐもぐ咀嚼するたびに甘さとクリームの香りが増してくるようだ。おいしい。


「やばっ、おいし……無限に食べれる……」


 そうやって一口、もう一口、と尻尾に(かじ)りついていると、ふと私の目の前に人の気配が。


 目を向けると、リネンパンツにシンプルな黒Tシャツを合わせたクールな女性が立っていた。身長が高く手足が長い。スタイルが良いボーイッシュな女性だ。

 サングラスをかけたその人は、柔らかな笑みをつくって私に声をかけてくる。


「君、かわいいね。もし今ヒマしてるなら、あたしとお茶してかない?」


 え、ナンパ? 私、今、この女の人にナンパされてる?

 人生初ナンパに声も出せずにいると、その人は急に「ん?」と私の顔を覗き込んで首を傾げた。サングラス越しだから、私からは彼女の表情が窺えない。


 私は思わずうわずった声で女の人に答える。


「あ、あの、わた、わた私っ、友達と遊ぶ約束してるからっ、そんなお誘いは」

「あれ、カワイイ子いるなーって思わず声かけたら、なんだ鳴海(なるみ)じゃん。髪切ったせいで全然分からなかった。あんたこんなところで、何してんの?」


 すっ、と目元からサングラスを外す女の人。

 その切れ長の目はやっぱり睫毛が長くて綺麗なカラコンをしていて――


「――って、魚見(うおみ)じゃん! あんたこそ何でこんなところにっ!?」


 女性の正体はなんと魚見(うおみ)だった。私服だからか、全然気づかなかった。

 私の反応に「いや質問を質問で返すなよ」と冷静にツッコんでくる魚見(うおみ)

 いやいやツッコミどころ、そこじゃないだろ。

 あんた、休日は釣りに出かけてるんじゃないのか。


 私が訴えると、魚見(うおみ)はサングラスをかけ直して言う。無駄にイケメンだ。

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