第21話 合コンの誘い(second season)②
「実は昨日、波瀬に日曜開かれる合コンに参加してくれないかって頼まれてね。土曜はそのための準備日にして、ちょっとした買い物とかに出かけたいなぁって」
「だから、アキくんのお誘いは断ったの」と少し申し訳なさそうに言う涼木さん。
え、てか、涼木さん、日曜の合コン出るのか。マジで?
ちらりと波瀬のほうを見ると、視線に気づいた波瀬が何故か誇らしげに胸を張った。地味にドヤ顔してくるの、やめてね。
……というか。
「波瀬。昨日私が『涼木さんと鹿島くん付き合ってるのか』って聞いたとき、あんた『知らない』って言ってなかったっけ?」
私が詰め寄ると、何を聞かれるのか察したのだろう波瀬がギクリとする。
「い、いやぁ……ちゃんと涼木に確認取ったよ? 『涼木と鹿島くんって付き合ってるの?』って。聞いたうえで確かに『付き合ってない』って答えたから、じゃあちょうどいいじゃんってなって、それで急遽誘ったんだよ」
ちょうどいいって。すでに恋人いそうな人をそういう場所に誘うかね、普通。
相変わらずのフッ軽に白い目に向けていると、言い訳がましく慌て出す波瀬だ。
「いいじゃん、結果論涼木に彼氏いなかったんだから! それに、涼木も涼木で誘ったとき結構ノリ気だったし!」
出たよ、結果論厨。
尚もしらーっと波瀬を見つめていると、その私の隣で「ノリ気」と言われて「え!?」とびっくりしたように声をあげる涼木さん。顔が林檎みたいに真っ赤だ。
「……わたし、そんなにノリ気だったかな?」
「うん! もうめちゃくちゃノリノリだったよ! もう、参加する男の子全員食ってやるぞー! ってぐらいノリ気とヤる気でいっぱい――いだいっ!?」
波瀬が暴走しだしたので、後頭部をぶっ叩く私。
涼木さんの前でそんな下ネタ言うな。
殴られた波瀬は「きゅううう……」と頭を押さえながらその場にしゃがみ込む。
「ごめんね、涼木さん。もしかして合コンの件も、今みたいに無理やり参加させられたんじゃないかな。もしそうだったら今ここで断ってもいいんだよ」
「涼木が断ったらまた合コンメンツ探さなくちゃいけなくなるぅ……」と私の膝元で呻く波瀬の横暴を阻止しつつ、私は涼木さんに優しく声をかける。
……が、涼木さんの返答は、私にとって意外なものだった。
「いや、参加したいと思ったのは本当だよ。大学生でもないわたしたちからしたら、ちょっと背伸びかもだけど、なんかそういうの、前から気になってたし……」
だから、私は思わず再度同じようなことを尋ねてしまう。
「え、涼木さん、本当に合コンにノリ気なの?」
「え、ま、まぁ、そうだけど……。えっと、ノリ気だと、何か変かな?」
あの、清楚で、大人しい涼木さんが、合コンに、以前から、興味が……。
……そっか。じゃあ、私が涼木さんも波瀬も止める理由なんてない。
無理やりじゃないと知れば、私がそれ以上関与する権利なんてないし。
「いや、変じゃないよ別に。なんというか、意外で……」
「そ、そう……? なら別にいいんだけど……」
私はなんとなく居心地の悪さを感じつつ、とりあえずの返答でごまかす。
そこで突然――胸のあたりがきゅう、と勝手に縮こまる気配がして。
なにか急に切なく心臓が軋むような違和感に襲われて。
私は思わず、胸元に手をやって慎重に擦った。
……なんで、なんで私は、涼木さんが合コンに参加すると知って、こんなにも切ない気持ちになっているんだろう? 何をそんなにも残念がっているのだろう?
涼木さんが、合コンに参加する。
それを知ったときの、妙なざわつきの正体が掴めない。
じゃあ、波瀬は?
私は、波瀬が合コンに出ると知ったとき、今のような感情を抱いただろうか?
……いや、抱いていない。それだけは確かだと、私の本心が答えている。
そこからわかるのは、私には、涼木さんには抱いていて、波瀬に抱いていない何か特別な感情があるということだ。でも、それじゃあ、この感情って、一体――?
「――だからさ、わたしは、この三人で参加するのはどうかなって思うんだけど」
と、そこでふいに涼木さんに肩を掴まれ、私の意識は現実に戻される。私が考え事をしているうちに、何やら二人は勝手に話を進めていたようだった。
反射的に涼木さんのほうを見ると、彼女は可憐に微笑みながら言う。
「ねぇ、合コンのメンバーあと一人足りないって話だし、鳴海ちゃんもわたしと一緒に参加してみない?」
え、私も、合コンに……?
「そう。わたしも今回が初めてだし……。波瀬は慣れてるけど、勝手を知らない者同士で一緒に参加するほうが、ほら、なんというか――安心感があるでしょ?」
波瀬の頼みはあんなに簡単に袖にしたのに、なぜか涼木さんの頼みは断りたくないと思ってしまう自分がいた。自分でも驚くほど自然に「うん、いいよ」と頷く。
そうして私は、芽吹き出した不思議な感情に操られるようにして、涼木さんの笑顔をぽーっと見つめていた。




