第20話 合コンの誘い(second season)①
ブオオオン。
ブオオオン。
ドライヤーを、かける音。
割とすぐに容態がよくなった私は、保健室に完備されているシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かしていた。
養護教諭の先生は、私が平常だと判断すると「ちょっと職員室に用があって。けどすぐ戻るから」と一言残して出ていった。
「それにしても大事じゃなくて良かったよ。プールに落ちてしばらく経っても水面から顔出さないから、溺れたのかと思っちゃった」
隣で私と同じように髪を乾かす涼木さんが安心したように微笑む。
「いやぁ……本当、ご迷惑をおかけしました……」
「ううん、いいんだよ。鳴海ちゃんがこうして元気なら、わたしはそれでいいの」
そんな私たちを見ていた波瀬が肩を落として息をついた。
「もう本当びっくりしたんだから……。涼木もよく咄嗟に飛び込んだもんだよ」
「鳴海ちゃんが沈んだまま動かなかったから、助けなきゃって必死で……」
えへへ、と困ったように笑う涼木さん。着替えた学校指定ジャージを萌え袖にしてゴシゴシと頬を擦っている。
私のクラスは今日体育がなかったので、ジャージを持ってきていない。代わりに、部活を休んだ波瀬が運動着を貸してくれたわけだけど……正直胸周りがかなりキツい。貸してもらって文句なんて言えないけど。
下着については、持ち歩いているポーチに、一応の一応として、緊急事態用に替えのショーツを入れていたのでそれを。ブラに関しては、どうにもならなかったのでこっそりドライヤーで乾かして、それで勘弁。
「ん~」と腕を伸ばして軽くのけぞると、ぱっつんぱっつんになる私の胸元。
そんな私の胸を訝しげに見つめた波瀬が呟いた。
「この、Dカップめが……」
こいつ、なんで私のカップサイズ知ってんだ。
ギロリと睨み返すと、さも当然といったかのように奴は言いのける。
「着替えのときとか、しれっと人のサイズ確認するでしょ普通」
「そんな普通あってたまるか」と私はツッコむ。
「そんな普通あるわけないでしょ」と涼木さんが少し顔を赤くしてツッコむ。
よかった。涼木さん、やっぱり常識人だ。
常識人対変態、二対一の構図に流石に気圧されたのか、波瀬は若干狼狽える。
が。
「でもでも、人の発育度合いとかどうしても気になっちゃわない? 更衣室とかで自分の隣で着替えてる子が、上着脱いでばるるんってなってたら、どうしても目がいっちゃわない? なんでお前ばっかり成長してこっちはまな板のままなんだって、どうしても恨めしい視線向けちゃわない?」
まだ言うか。
しかも、ばるるんって何だ、ばるるんって。もっと健全な言い方はないのか。
実に不毛な会話である。さっきから自分の胸をぺたぺた触りながら「無き者の恨みは怖いぞ……」と威嚇してくる波瀬(A)をスルーして話題を変える。
ちなみにこちとらDやぞ。平伏せ。
「ところで、涼木さん。さっき鹿島くんからの誘い断ってたけど……」
私が言うと、涼木さんはまたほっぺをゴシゴシ擦った。しばし間が空いてから涼木さんは答えてくれる。
……妙に艶やかな笑みをつくって、しっとりとした声で。
「わたし、嘘ついちゃったの」
「え? 嘘?」
「土曜、本当は委員会の仕事なんてないの。商工会の手伝いも来週だし」
「え、なんでそんな嘘を?」
もしかして、実は嘘をついて断るほどに鹿島くんのことが苦手だったり?
私が表情を曇らせると、それを察した涼木さんが困ったように笑う。
「違う違う。わたしは別に、アキくんのことが嫌いとかそういうわけじゃないよ。ただ土日にはずらせない予定があって、だからてきとうな断り文句が必要で……」
アキくん? 誰だそれ。
突如として登場した新キャラクターに私は困惑する。
そんな私に、若干呆れた様子で波瀬が補足してくれた。
「……鹿島陽くん。涼木とは小学時代からの幼馴染みの男子。青高内で鹿島くんの名前知らないの、あんたぐらいだよ。鳴海って本当、異性の話題に無頓着よね」
だって、あんまり興味ないし。
恋人つくる前に、友達つくりたいし。
私がむくれていると、涼木さんが「あはは」と場を和ませるように笑って話を再開する。