第15話 プール掃除(second season)③
「先生、鳴海さんが可哀想だから離してあげてください。……あと、今回の件に関しては全面的に先生が悪いので、鳴海さんに当たらないでください」
言われて、なぜか「ぐ」と気圧されたかのように涼木さんを見つめる先生。
あれ、この二人のパワーバランスって、もしかして涼木さんのほうが上なの?
湖崎先生、教師のあんたが、いち生徒に立場上色々と負けてていいのか。
私がしらーっと湖崎先生を見つめていると、波瀬がそっと耳打ちしてくる。
「今回の掃除メンバー集まったの、涼木の声がけのおかげだから、先生、涼木だけには逆らえないんだよ」
そういえば、昨日の時点で先生が集めることができた人員は二名だったはず。
私はプールサイドに視線を向け、再度掃除に着手している生徒数を数えてみる。
一、二、三、……八、九、十。
…………。
「……そうだよ。掃除要員の大半を集めたの、涼木なんだよ。涼木が色んな人に頼んで、それで『涼木のためなら』って集まってくれたのが今のメンツなんだよ」
やめて。悲しすぎるから。
湖崎先生、あんた本当マジでどんだけ人徳ないんだ。
「それに、先生が最初に頼み込んで了承した二人って、ウチと涼木のことだし」
気づきたくなかった真実。
涼木さんが集めた人員――八名。
湖崎先生が集めた人員――二名(身内)。
惨敗すぎる。
なんかもう色々可哀想になってきて、こんな不憫な先生を愛してあげられるのは私くらいしかいないのではないかとか考えてしまう。
私は少し涙目になりながら、ふとプールサイドに視線を投げかける。
……そこには、涼木さんの胸に抱かれておいおい泣いてる湖崎先生がいた。
「涼木ぃ……先生って、なんでこんな駄目人間なんだろうな……。もう自分が情けなさすぎて死にたくなってきた……」
「駄目ですよ先生そんなこと言っちゃ。辛いときこそ、笑うんです」
「涼木ぃ、もうお前しか先生にそんなこと言ってくれる人がいないよぉ……。もういっそのこと、お前が先生のママになってくれよぉ……」
「いやそれは流石に嫌ですけど。でも、それ以外の大抵のことはしてあげられますよ」
先生、さらっと涼木さんに拒否られてるし。
けれど湖崎先生は涼木さんに縋り付くようにして言う。
「……なぁ、涼木。先生のこと、かわいいって言ってくれるか?」
「はい、湖崎先生はかわいいです」
「……先生のこと、ぎゅっとしてくれるか?」
「はい、わたしのハグでよければいくらでも」
「……先生のママになってくれるか?」
「いやそれは流石に嫌です」
「なんでだよおぉぉぉ!!!!!」




