第14話 プール掃除(second season)②
「湖崎先生って、生徒を結構奔放に振り回しちゃうから、鳴海さんも気をつけたほうがいいよ? ちょっとズボラなところもあるし、うちの委員会も先生の無計画ぶりに日頃から苦労してるし」
言いながら頬をぽりぽり搔く涼木さん。
わかる。湖崎先生の大人げない巻き込みゆえに、私は現在、プール掃除の手伝いをさせられているわけだから。
「そうだよねー。先生がつくる課題プリントとか、配布のされ方雑いもんねー」
波瀬が涼木さんに同調するように言った。
その発言に、私も自然と頷いてしまう。
「あー、バラプリのこと……」
「わたしのクラスも湖崎先生が数学担当だから、同意しちゃうな。バラプリは、迷惑してる生徒がかなりいるみたいだし……」
言いつつも、そこまで先生を責めたくはないようで、苦笑いの涼木さんだ。「せめて課題プリントはきちんと該当範囲通りに配ってほしいね」と付け加える。
湖崎先生の授業では、授業が二、三コマ進むたびに、日頃から知識の取りこぼしがないよう確認プリントなるものが配布される。
……のだが、湖崎先生には、そのプリントの管理がかなり雑いところがある。
一年の私たちに対して二年の範囲のプリントを配りだしたり、先週課題にしたはずの内容と同じプリントを二度三度と誤って配布したり。
生徒用にウン百枚コピーしたはずの紙束を紛失したり、裏面に回答を印刷するのをサボった挙げ句「全問正答すれば別に回答と照らし合わせる必要なんてないじゃん」とか舐めた言い訳をして生徒たちから大ブーイングを食らったり。
……該当範囲からかけ離れた課題内容、固定されない課題提出曜日、突如として十数枚のプリントが翌日提出の課題として配布されるイレギュラーの発生。
そういった、湖崎先生がつくる課題の不安定要素を、「事象のバラつき」として、生徒の間で名付けられたのが「バラプリ」である。勘弁してよ、もう……。
「ウチのクラスじゃ、『昨日配ったやつ、アレ内容簡単過ぎたから新しいプリント作り直したぞー』とか言って、すでに課題に手つけてた生徒の努力粉々にしたし」
……あったね、そういえばそんなこと。私も手つけてたし。
波瀬の発言に顔を歪めていると、涼木さんからも先生に対する苦言が。
「わたしのクラス、配られていないはずのプリントを『配ったはずだ!』とか言い張り始めて、最終的に『配ったもん!』って一歩も譲らずゴネだして……それで授業一コマ分潰れちゃったんだよね……」
なんだその子供みたいな教師。
生徒に教育を施す以前に、ほとんど面倒しか施していないぞ。
私はうっすら遠い目をする涼木さんに同情した。なむなむ。
そうやって湖崎先生の愚痴トークに花を咲かせていると、ゆらりと何者かが私の肩に手を置いてくる。
なに、と反射的に身をすくめると、そこにはちょうど話題の人物が。
「なんだ湖崎先生か。びっくりした……」
「……お前ら随分楽しそうに先生の悪口トークしてんな」
「いやいや言われて当然ですよね。バラプリに批判が殺到してるのも、水泳部がするべき掃除のしわ寄せが発生してるのも、全部先生が悪いんですからね?」
言われて拗ねたのか、湖崎先生がほっぺをむにむにつねってくる。
「……あの、先生まぁまぁ痛いです」
「つねってる先生の心だって痛いんだぞ」
先生、あなたの心の痛みって、先生ご自身の怠慢に原因があると思うんです。
私が一方的にもにゅもにゅされていると、涼木さんが間に入ってくれる。




