第11話 タヌキ顔女子は性欲が強いとかいう偏見②
「……魚見、部外者は黙ってて。大体からして、男ウケいい顔って何なの」
「それはもちろん、おっとりぽわぽわしたタヌキ顔よ。鳴海は庇護欲かき立てるカワイイタヌキ顔してるから、密かに校内の男子から支持を得ているんだよ」
え、なにその初耳情報。私って、何気に男子の目を引いていたのか。
途端に湧き出す自己肯定感。女の子としての自信がちょっと出てきたぞ。
合コンへの恐怖心が若干解け、参加してやってもいいかなとか考え始めた頃、あと一押しだと切羽詰まった波瀬が早口で捲し立ててきて――。
「そうそう! 鳴海のこと、男子たちが結構ひそひそ話してるんだよ! 『鳴海って割と胸大きいから一発ヤッてみたい』とか『タヌキ顔の女の子って性欲強いらしいから絶対あいつ脱いだらエロいって』とか!」
……おい。
ギロリとクラスの男子たちを睨むと、聞き耳を立てていた連中がそそくさと目を逸らす。……今目を逸らした奴らのこと、覚えたからな。
すっかりしぼんだ合コンへの前向きな気持ちは、もう二度と元には戻らない。
そこからは波瀬が何と言って誘おうと、私はきっぱりと断った。
「お願いお願いお願い! もう鳴海以外に日曜空いてる子いないんだって!」
「ねぇ、参加してくれたらお礼に何でも一つ言うこときいてあげるから!」
「大丈夫! 鳴海レベルの容姿でガッカリする男子なんていないよ! ついこの間なんか『あの太股に挟まれて死にたい』って言ってる男子もいたし! そうそう、鳴海って実は女子界隈にも人気があって『何であんな抱き心地良い柔らかいカラダしてるんだろう』とかこっそり鳴海のこと狙ってる女子がいるとかいないとかって話も持ち上がってるぐらいだし!」
あんたは私を褒めたいのか落ち込ませたいのかどっちなんだ。
そして何気に追加される新情報。私、女子界隈の連中にも目を付けられているらしい。なんでだ。
涙目で訴える波瀬の声に耳を塞ぎ、私はだんまりを決め込む。
もう波瀬が何と言おうと私の意思は変わらない。波瀬が私に対して、何か大きな借りでもつくらないかぎり、こいつのお願いなんて絶対にきいてあげない。
私がぷりぷりと頬を膨らましていると、魚見はなぜか愉快そうに見つめてくる。
……いや、私が怒ってる原因に、あんただって二割ぐらい関与してるからね? 波瀬に水を向けたの、あんたなわけだし。
……あと、何なんだ、「タヌキ顔の女の子は性欲が強い」とかいう偏見。
全国のタヌキ顔女子に謝れ。




