第10話 タヌキ顔女子は性欲が強いとかいう偏見①
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翌朝の教室。
ホームルームまでの時間を魚見とだらだらダベりながら過ごしていると、なんだか浮かない顔で登校してきた波瀬が朝一番にこんなことを言い出した。
「ねぇ、鳴海……昨日断ったところ本当に申し訳ないんだけど、やっぱり日曜の合コン参加してくれない?」
なんでだ。昨日ちゃんと理由付きで断ったはずなのに。
「え、だから遠慮したいって。東高の男の子たちが参加するから」
私が「東高」と言ったあたりで、「そう、そのことなんだけど!」と急に声を張り上げる波瀬だ。朝っぱらからやたら声がデカい。
「一応合コンに参加する東高の子たちに確認取っておいたんだけど」
「確認って?」
「青高から参加する女子に『鳴海愛結』って子がいるんだけど、この子のこと何か知ってる人いる? って昨日男子たちにメッセージ送ってみたら」
私、いつの間に合コンに参加すること確定してたんだ。
ツッコみたくなるところを、ぐっと押さえ込む。
「誰一人として『知ってる』って返してきた子いなかったんだよね。だから、鳴海は中学のことなんて気にせず安心して合コンに参加できるよ! やったね!」
そう言ってサムズアップしてくる波瀬。ちゃっかりしてやがる。
その周到な根回しが私にとってはちょっと憎い。
私は確かに同窓生に会うのを避けたいと言っていたが、本音をいえばただ単に合コンという陽キャ属性ゴリゴリなイベントをどうにか回避したかっただけなのだ。
つまり、それらしい理由をつけて合コンの誘いを断りたい。この一点に尽きる。
私はまだ陽キャデビューをして一ヶ月半しか経っていないヒヨコだし、初対面の光属性の男の子と遊ぶとかハードルが高すぎる。だってヒヨコは空を飛べない。
私は曖昧に笑顔をつくると、小さく首を振った。
「いや、やっぱり遠慮しとくよ。合コンとか、まだよくわからないし」
そんなふわふわした断り文句が通るほど陽キャ界は甘くない。
波瀬は、ここぞとばかりに私を参加させようと詰め寄ってきた。
「うんうん、合コンとかよくわからないよね。でも大丈夫! 当日はウチがついてるし、この期に一度参加してみて、合コンというものに慣れておこうか!」
「いやいや、慣れるとかそういうの求めてないし! 初対面の男子と遊ぶとか緊張するし! 私なんかが参加しても男子たちガッカリさせちゃうだろうし!」
「特に容姿とか容姿とか容姿でガッカリさせちゃうから!」と私は必死で断る。
が、そこで急に「それはないでしょ」と割り込んでくるニヤニヤ顔の魚見だ。
「鳴海、男ウケいい顔してるじゃん。参加するだけ男子は喜ぶと思うなー」
こいつ、面白がって私を合コンに参加させようとしてきてやがる。
思わずジト目を向けるが、魚見は平気そうにニヤつくだけだ。




