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20、加護


 襲撃事件後、各国にランプライトの領主が襲撃されたと発表された。ただし襲撃者が誰かは公表されなかったが。もちろん私の存在も。なのに一週間経った頃にはほとんどの人々がシルフィード公爵家を襲撃者だと知っていたのだ。

 まあ、理由はルナスさんが教えてくれたが。


「父上が直接公表したら色々と角が立つでしょう。だからツテを使ってあの日にあった事を裏で流したのよ。もちろんランプライトに住むオルデール王国貴族にこれ以上、余計なことをするなって意味を込めてね。まあ、それでもダクソンがうるさかったからロックの件も流して黙らせてやったけど」

「ああ、だから最近見かけなくなったのですね」


 私が窓の外を見て納得していると護衛として一緒に住む事になったマリアさんが部屋に入ってくる。そして私達に尋ねてきたのだ。


「今、噂で聞いたんだけど。オルデール王国の英雄ジャックが亡くなったみたい。もしかしてロックと同じことした?」


 私はすぐにルナスさんの方を向く。ルナスさんは苦笑しながら首を横に振った。


「いや、ジャックはオルデール王国の依頼遂行中に亡くなったみたい。無謀にも一人でゴブリンの巣穴に入っていってね」

「えっ、一人って英雄なら問題ないはずじゃ……」

「そっか、マリアは知らないんだっけ。あいつら聖リナレウスの恩恵って超強いバフ効果みたいなものが付いてたのよ。まあ、もうなくなったけど」

「じゃあ、英雄って本来は対した力がないってことなの?」

「おそらくはね」


 ルナスさんが頷くとソファでくつろいでいたエリスさんが顔を上げる。そして尋ねてきたのだ。


「でも、それにしたってルナスはよくロックに勝てたわよね。それに嵌めてきた三人にも」

「そりゃあ、今、聖リナレウスの恩恵があたしに付いてるからね」

「ああ、なるほどね」


 エリスさんは納得した表情を浮かべる。対してマリアさんは驚いた顔を向けたが。


「はっ、なんでルナスに付いてるの?」

「そりゃ氷の聖女セシル様のおかげっしょ」

「わ、私にそのような力は……」

「いや、あるわよ」


 エリスさんがそう仰ると、すぐさま立ち上がり冒険者カードを見せてきた。


「じゃーん! 私にも付いたのよ。聖リナレウスの恩恵(力、素早さ、魔力量上昇)。しかも今朝ね」


 するとルナスさんが無言でエリスさんの冒険者カードを覗きこむ。それから私の方を向き仰ってきたのだ。


「これで決まりじゃないかな。聖リナレウスの恩恵はセシルの側にいると付くって」

「私の側……勇者様の力ではなくてですか?」

「勇者の力?」


 ルナスさんは首を傾げる。けれどもすぐに眉間に皺を寄せた。


「もしかして誰かにそう言われたの?」

「オルデール王国の王太子殿下に勇者様は聖リナレウス様の子と……。でも、オルデール王国中、勇者様は讃えられてましたから……」

「まあ、知識がない時に周りがそんな感じなら信じちゃうか。全く徹底してるわね」

「最初から私を消すつもりでしたから……」

「だからってそんなことしたらいつかばれるのに。勇者は偽物って」

「偽物? 勇者様は聖リナレウス様とは関係ないという事でしょうか?」

「もちろん関係ないわよ。そもそも勇者ってのは肩書きであって実際は国王が認めた強い剣士の事を言うのよ。まあ、そういう者に限って稀に現れる加護を持ってる場合が多いんだけど」

「加護……ですか?」


 初めて聞く言葉に首を傾げるとルナスさんが冒険者カードを見せてくる。


「この聖リナレウスの恩恵みたいに強力なバフ効果が付くのが加護よ。ちなみに千年以上前は誰にでも付いていたらしいよ」

「では、元々強かった勇者様は加護持ちの可能性が……」

「そして聖リナレウスの恩恵はセシルの周りにいると勝手に付いてしまう……とは断言できないけどね。何せ聖リナレウスの恩恵が詳しくわかる本はないし。あっ、でも、試す方法なら今良い案を思いついたわよ」


 そう仰りルナスさんはマリアさんを見る。意図を理解したマリアさんは頷いた。


「良いわよ。私にはその聖リナレウスの恩恵はついてないから」

「よろしいのですか?」

「もちろんよ。付けばセシルさんを護衛するのも更に楽になるでしょうしね」

「ああ、確かにそうですね。では……」


 しかし、どんなに祈ってもマリアさんに聖リナレウスの恩恵が付くことはなかったのだ。


「これって信仰心の問題かしら……」


 マリアさんが首を傾げるとルナスさんが自分自身を指差す。


「あたしが聖リナレウスを信仰してるように見える?」

「じゃあ、何でつかなかったのよ?」

「うーん」


 ルナスさんは腕を組み、しばらくして顔を向けてきた。

 

「聖リナレウス様が選んで付けてるんじゃないかな。その後はセシルでも付けたり外したりできるとか。ただ、これに関しては専門の聖リナレウス教国の使者に聞いてみるのが一番かも。もしくはネイルズ共和国の賢者様ね」


 ルナスさんの言葉にエリスさんとマリアさんは納得した表情を浮かべる。ただし私は引っかかる部分があったが。何せラジルさんの神なんて存在しないという言葉を思い出したから。私もその言葉には共感していたからだ。

 だからルナスさんの言葉を聞き悩んでしまったのだ。いったい、どちらなのだろうと。

 でも、どうせいても聖リナレウス様はいつも通り教えてくれないだろう。なので私はそれ以上考えるのをやめ、それ以降は三人の雑談に混じるのだった。





「おい! あいつ何かやるぞ⁉︎」

 

 ロック様の声が聞こえた直後、角が生えた大きな黒い影から触手のようなものが沢山飛び出してくる。そして蛇の様な姿になり私達を威嚇しはじめたのだ。


「何よあれ? あなたと同じくらい気持ち悪いわね……。絶対にこっちに通さないでよ!」


 お義姉様が振り向き睨んでくるため、私は怯えながら結界を張った。すると今度はジークハルト様が強い口調で仰ってきたのだ。


「セシリア、お前は私がいないと役に立たないんだ。そのまま結界を張り続けていろ」

「は、はい……」


 私が頷くとジークハルト様は満足そうな表情を浮かべる。そして剣を抜くとロック様、ジャック様、勇者様、従者クレイン様を引き連れて角が生えた大きな黒い影のようなもの……魔王へと向かっていったのだ。余裕ある表情を浮かべながら。

 何せ今まで誰も怪我をせずにここまでこれたから。魔王だろうが簡単に倒せると思ったのだろう。

 ただ、いざ戦いが始まると想像以上に苦戦してしまったが。


「くそっ、勇者以外の攻撃じゃ斬っても斬っても再生しやがるじゃないか!」


 ロック様が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ジャック様も舌打ちした後、魔王を睨んだ。


「おそらく聖なる魔力でないとダメージは与えられないのでしょう」

「なら勇者しかダメージを与えられねえじゃねえか!」

「いいえ、聖属性の結界が張れる氷の聖女ならいけます。だから結界を張って突っ込ませましょう」

「おっ、名案だな」


 ロック様が下品な表情を向けてくると、すぐにその視界を遮る様に勇者様が立った。


「もう少し弱らせてから氷の聖女の祈りで浄化をするという作戦だろう」


 二人はすぐに顔を顰め勇者様を睨む。


「うるせえな。その弱らせるのが難しいから言ってんじゃねえか。なあ、ジャック」

「ええ、このままだとジリ貧で私達の体力が底を尽きてしまいます。なら、氷の聖女に結界を纏わせながら突っ込ませれば良い」


 すると今度はジークハルト様がジャック様とロック様の側にいき二人を睨んだのだ。


「貴様ら、何を勝手に命令しているんだ?」


 二人は不満そうな表情を浮かべる。一瞬だったが。


「何、本気になってるんですか? 場を和ませたんですよ」

「そうそう、ほんの冗談に決まってるでしょうが」


 そして、逃げる様に魔王に向かっていってしまったのだ。ジークハルト様が舌打ちして顔を向けてくる。


「セシリア、役に立たないお前でも剣に聖なる力を付与するぐらいは使えるはずだ。剣を結界で覆う感じでやってみろ」

「は、はい」


 私は言われたとおりにやってみる。するとジークハルト様の剣が淡く光りだしたのだ。どうやら、成功したらしい。ジークハルト様は満足そうな表情を浮かべる。


「ふん、わかったか。私の言う事を聞けばお前でもできるんだ。残りの奴にも同じ事をしてやれ」

「……はい」


 私は頷くと同じ様に前で戦っている方達の剣に聖なる力を付与する。すぐにロック様とジャック様が睨んできた。きっと、なんで早くこれを使わなかったんだと言いたいのだろう。

 けれど私だって今初めて教わったのだからと反論したかった。まあ、勇者様がこちらを向き、首を軽く振ったから気にするのをやめたが。いや、その後すぐにジークハルト様の視線に気づき慌てて俯いたが。


「セシリア! 後は私に呼ばれるまで結界を張ってここにいろ。それと余計な事はするなよ」

「は、はい……」

「ふん」


 頷く私をジークハルト様は睨みつける。そして小さく溜め息を吐くクレイン様を連れ魔王の元へと走っていったのだ。

 正直いつもの光景だった。魔王との戦いでも。だから私は唇を噛んでしまう。何せこの戦いが終われば役立たずに気の利かない女、そして私がいなければ何もできないという言葉が飛んでくるからだ。

 けれども、しばらくして頬が緩んでしまったのだ。その時はいつものように勇者様が庇ってくれる。そして仮面越しでもわかる優しい視線を向けてくるからだ。

 だから大丈夫なのだ。どんなに傷つくことを言われても。


 絶対に。


 あの時はそう思っていたのだ。後にあんなことになるとも知る由もなく。





 久しぶりに昔の夢を見たらしい。ベッドの上で上半身を起こすと頬を涙が伝っていく。

 けれども私は気にせず浄化の力を使うと調理場に向かう。今はうじうじする時ではないと思っているから。


 特に勇者様のことでは……


 だから頭を振り、その考えを追い払うと朝食を作っているマリアさんの元に行ったのだ。

 

「マリアさん、おはようございます。私もすぐに手伝います」

「あっ、おはようセシルさん。良いのよ。四人分なんてすぐだから」


 そう仰りながら言葉通りに料理を次々と作っていく。なので思わず感嘆の声をあげてしまったのだ。マリアさんは苦笑してきたが。


「セシルさんの料理には負けるわよ。しかし、旅を続けながらよくあんな美味しい料理を作れたわね」

「それは、長く辛い旅でしたから。それにあの方達に喜んでもらおうと必死で覚えたんです。まあ無駄でしたけれど……」


 力無く笑うとマリアさんは顔を顰める。


「ああ、勇者パーティーね……。てか、オルデール王国ってあまり良い噂を聞かないのよね」

「それってどんな噂なのですか?」

「まず、知ってると思うけど平民はお貴族様のために動く物でしかないって貴族主義が横行してるでしょう。後、どんな奴隷の扱いも重犯罪した者と同じ扱いするのよ」

「それは酷いですね……」

「酷いなんてもんじゃないわよ。何せオルデール王国の所業にはあのダルマスカ帝国さえ非難したから」

「ダルマスカ帝国?」


 聞いた事ない国名を言われ首を傾げる。するとマリアさんが説明してくれたのだ。


「ダルマスカ帝国はオルデール王国の南側にある国で、世界各地からアーティファクトっていう古代の魔導具をかき集めて魔物で実験しまくってるイカれた国よ。そんなところから非難がいくって相当でしょ。まあ、それで各国がオルデール王国に対して抗議だけじゃなく行動を起こそうとしたんだけど、魔王を退治した事で有耶無耶になってしまったの。いいえ、勇者パーティーに脅威を感じて手を出せなくなったのが本音ね」

「じゃあ、今もオルデール王国では酷いことは続いているのですか?」

「みたいね。ただ、一部の貴族や王太子が反対派のはずだからもしかしたら……って、王太子ってセシルさんを殺そうとしたパーティーにいたのよね……」

「はい……」

「じゃあ、ただの反対派を抑えるためのアピールだったのかもね」


 私はマリアさんに言われ、ジークハルト様の事を考える。私の扱いは酷かったけど平民を見下したり馬鹿にする事はなかった気がする。

 だから言ったのだ。


「……もしかしたら反対派というのは本当かもしれません」

「そうなの?」

「はい。だから、いつかはオルデール王国の環境も良くなるかもしれませんね……」


 そう答えた後、私は断罪の裂け目での出来事を思い出す。私の事は殺したいほど嫌いだったことを。だから思わず出した言葉とは裏腹に私は唇を噛み締めてしまうのだった。


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