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2、英雄(偽)


ロックside.


 ロック・フィールドはオルデール王国の採石場の一つを管理するフィールド伯爵家の二男として生まれた。そのため家督は継げず魔法適正もなかったロックは健康なら誰でも入れる騎士団の門を叩く事になる。

 その選択は正解だった。元々体格もよく運動神経が良かったので騎士団ですぐに頭角を表すようになったから。

 ただその内、博打、女、酒癖と問題が起こし騎士団では爪弾き者に、更に将来は絶望的になってしまう。まあ、出世欲より遊びを優先する本人は気にしている様子もなかったが。

 だが、そんな自堕落な毎日を過ごしていたロックにある日、魔王討伐の任が下されたのだ。もちろん優秀者として選ばれたわけでなく、勇者の盾扱いだ。要は一番騎士団の中で死んで良い者が選ばれたのだ。ロックも自分が選ばれた時はなるほどと納得してしまったぐらいである。

 ただ、ロックは死ななかった。魔王討伐の旅をしていくうちに力、速さ、防御力が何故か飛躍的に上がったから。それどころか魔王討伐まで成し遂げてしまったのだ。

 英雄になったロックは有頂天になった。更に美味しい話まで舞い込んだのだ。同じパーティーにいた治癒術師のダリアに聖女を殺すのを手伝ってくれたら魔王討伐でダリアとセシリアがもらえる分の報酬金をあげると言われたのだ。

 もちろん断る理由がなくダリアの手伝いをし、ロックは大金を手に入れたのだった。


一年後


「へへ、今日はどんな女を抱くかな」


 俺……ロック・フィールドはオルデール王国の王都にある高級娼婦街を酔っ払いながら歩き回っていた。


「魔王を倒した英雄様、今日は私と遊ばない?」


 欲情的な格好をした娼婦が声を掛けてくる。俺はつい顔がニヤけてしまった。昔はこんなことなかったからだ。

 だが、今や金は捨てるほどあるし女は勝手に寄ってくる。

 

 堪んねえ。英雄様々だぜ。


 俺はすぐに娼婦の肩を抱き寄せる。

 

「良いぜ、たっぷり楽しませてやるよ」


 そして、そのまま宿へと入っていくのだった。



ジャックside.


 ジャック・トラジースはオルデール王国の農園の一部を預かるトラジース伯爵家の三男に生まれた。そのため、家督は継げず頭も悪いため魔法適正さえあれば入れる魔法兵団の門を叩く事になる。

 ただ、ジャックは入団してすぐに後悔することになる。魔法適正があったが魔力量が少なかったから。だから使えない雑用係として悶々とした日々を送っていたのだ。

 だが、そんなある日にジャックは魔王討伐メンバーに任命される。決めた魔法兵団の団長は勇者の盾になれば良いぐらいにしか思っていなかったが、ジャックは自分が選ばれた存在だと勘違いする。しかも、魔王討伐の旅をしていくうちに魔力量、知識、力が何故か飛躍的に上がったため更に勘違いし自分が聖リナレウスに選ばれた聖騎士だと思い込んでしまう。とどめは魔王討伐である。

 確信を感じたジャックは笑みを浮かべる。そんなジャックに素晴らしい話が舞い込む。同じパーティーにいた治癒術師であり公爵令嬢でもあるダリアに聖女を殺すのを手伝ってくれたら、公爵家の力を使いジャックをオルデール王国が認める正式な聖騎士にしてあげると。断る理由がなかった。

 心から欲しかった聖騎士の称号が手に入るのだがら。だから、躊躇なく聖女に魔法を放ったのだ。皆から聖騎士と呼ばれる自分を想像しながら。


 一年後


 私……ジャックはオルデール王国の王都にある王宮の執務室で仕事をしていた。


「聖騎士様!」


部下の一人が慌てた様子で入ってくる。片眉を上げ睨む。内心は聖騎士様と呼ばれる事に一年経った今でも喜びを感じているが部下の手前、顔に出さないようにしているのだ。


「……なんだ?」

「王都の近くにグリフォンが現れました!」

「ふむ、では魔法兵団と騎士団の第一部隊を集めておけ。ああ、両団長には私が来るまでには隊列を組んでおけと伝えておけよ」

「はっ!」


 部下は敬礼をすると急いで執務室を出ていった。


「全く、グリフォン如きで慌てるとは。まあ、仕方ないか。私達、英雄以外でグリフォンを倒すのは困難だからな」


 私は机の上に置かれているメダルを手に取り優しく撫でる。


「いつ見ても聖騎士の証は素晴らしいな」


 そして見えやすいよう自分の胸に付けると鏡の前に立つ。思わず口元を緩ませてしまう。完璧だったから。


「だから早く自分のこの姿を皆に見せてやらないとな」


 私は最後にもう一度メダルを人撫ですると執務室の扉を開けるのだった。



ダリアside.


 シルフィード公爵家はオルデール王国の重要な鉱山と農園を管理し、当主のベルマン・シルフィードはオルデール王国の宰相をしていた。そんなベルマンと妻ナタリーの間に生まれたのがダリアである。

 ダリアは夫妻にとって待望の娘でもあったため、歳の離れた兄カイウスを含め家族に異常な程、溺愛をされ育てられる。

 しかし、ある日にベルマンが孤児院から見窄らしい女児を連れてきて名門でもあるシルフィード公爵家の養子にしてしまったのだ。もちろん生粋の貴族主義者である三人は猛烈に反対した。特に年が変わらないダリアはなおさら。しかしベルマンは優しく「あれはダリアにとって将来の為の保険だ」と言っただけで以降は何を言っても取り合ってくれなかったのだ。

 ただ、その意味を見窄らしい子供、セシリアが魔王討伐メンバーに参加した頃にベルマンの計画を聞きダリアは理解する。

 だから計画通りに魔王討伐メンバーに簡単な回復魔法しか使えないのに治療術師として参加したのだ。もちろん戦闘には参加せず、適当にセシリアに命令していただけだ。

 ただ魔王討伐がされると今までと違って動き回った。そしてベルマンの計画通りに実行した結果、ダリアはセシリア・シルフィードとなりかわることができ凱旋パレードに氷の聖女として出席できたのだ。


 一年後


 私……ダリア・シルフィードはオルデール王国の王都にある、シルフィード家のタウンハウスの庭でお茶会を開いていた。


「聖女様、本当にお肌が綺麗ですね。いったい何を使われているのですか?」

「ふふふ、実を言うと何も使ってないのよ」

「ええっ⁉︎ そうなのですか⁉︎」

「それは聖女様だから当たり前じゃない」

「そうですよ。聖女様は全てが美しいのよ」

「そんなのは皆知ってますわ。ねえ聖女様」


 周りを囲う令嬢の言葉に笑顔で返すが、内心は苛々していた。だって私が美しいのは当たり前だから。だから、もっと別の褒め言葉を言えと思ってしまったのだ。

 けれど、それ以上の言葉がお花畑思考のこいつらからは出せないのかもと理解すると思わず口角が上げてしまった。

 しかし、すぐにあることを思い出し後ろに立つ侍女に指で来いと合図する。


「なんでしょう聖女様」

「ジークハルト様からはまだ返事が来ない?」

「はい、いまだに」

「そう……」


 扇で顔を隠すと歯軋りしてしまった。そしていつまでも引きずってるのだろうと。


 本当に腹が立つ。早く私を選んで王妃にすれば良いのに。私こそオルデール王国の王妃に相応しい氷の聖女なのよ。まあ、いいわ。お父様がまた色々考えてくれるだろうからそれまでゆっくり待つわ。


 そう考えながら私は作り笑顔を浮かべると、扇を下ろし令嬢達の話の輪に入っていく。自分がこの国の王妃になった姿を想像しながら。



 セシリアは氷の結晶の形をした結界の中で眠り続けていた。その期間は断罪の裂け目から落とされて既に一年近くも経っていた。これは、もう死にたい、楽になりたいというセシリアの傷ついた心が原因だった。それをセシリアの持つ無尽蔵にある聖なる力が自動で働いた結果、傷ついた心を癒す為、強制的に眠らせたのだ。

 だが、今はその表情も穏やかで揺り籠の中で眠る赤子のようだった。結界の中が聖なる力で満たされ、中は心地よい空気で満たされていたからだ。セシリアはこの結界の中で傷ついた心を少しずつ修復できていたのだ。

 そしてついに、傷ついた心が癒され結界が解ける。


「ん、ん、ふぁあぁ」


 私……セシリアは盛大に欠伸が出てしまった後に気づく。ここは何処だろうと。

 周りを見回すが暗闇で何故ここにいるのかも思い出せない。けれど徐々にあの崖の上であった事を思い出す。


「どうやら死にそびれたのね……」


 そう呟いた後、思ったより自分ががっかりしていない事に気づく。しかもなぜか清々しい気持ちだった。

 なぜだろうと首を傾げる。あんなに死にたいと思っていたのに。しかし、私はすぐ手を打った。生きていたのだから前向きに考えようと判断したのだ。


 だから、ここから抜け出すことを考えないと。ただダンジョン断罪の裂け目よね。……登れるのかしら?


 周囲を見渡す。しかし、暗闇が広がって何も見えなかった。そこで私は結界で作った収納空間を出す。道具が沢山入っているはずだからだ。

 だが収納空間の中身は空だった。溜め息を吐く。お義姉様に全て預けていたのを思い出したから。

 仕方なく片手を上げ手のひらサイズの淡く光る氷の結晶を出す。これは氷の聖女しか使えない魔法だ。


「うん、後はもう少し明るくすれば……」


 明るさを調整し周りを見渡すと目の前に私の上半身程の大きさの巨大な目があった。そしてその目と見つめ合った私は恐怖のあまり意識を手放すのだった。


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