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16、動き出す者達


ダリアside.


 消えた、消えてしまった。私の聖リナレウスの恩恵が……なんでよ! 魔王を倒してやったのにこの仕打ちは!


 近くにあった化粧箱を鏡に叩きつけると慌てて侍女が駆け込んできた。


「お嬢様、どうなさいましたか?」


 私は答えなかった。いや、答えられるわけなかった。私に付いていた聖リナレウスの恩恵……魔力量、上位治癒魔法、魅力が全て消えたのだから。

 だから黙って落ちている化粧箱を睨んでいたのだ。すぐに顔を上げてしまったが。侍女が私の方を向き小さく悲鳴を上げたから。

 もちろん理由はわかっている。吹き出物ができ、かさかさな肌になってしまった私の顔を見たからだろう。


 だからって主の顔に悲鳴を上げるなんてね。


 しかし、侍女を痛めつける暇なんてない。まずはこの肌の手入れと艶と張りがなくなり酷く匂う髪をどうにかしないといけないから。

 なのですぐに屋敷中にいる侍女を集めて湯浴み場で徹底的に私の体を綺麗にさせたのだ。もちろん最高級の美容品を体に塗った後は執務室に向かう。ベルマンお父様に相談するためだ。聖リナレウスの恩恵がなくなってしまったと。

 けれどもお父様は相談するなり笑顔で首を横に振ってきたのだ。


「そんなはずないだろう。あれは消えた事はないと文献に書かれているんだよ」

「でも、本当に消えてしまったんです……」

「ふむ。では調べてみるか」


 そう言ってステータスが見れる魔導具を私に持たせる。次第に笑顔が消えていった。


「確かになくなっているな。いつ頃なくなったんだ?」

「三日ぐらい前です。突然、頭がクラッとして。まあ、その時はパーティーを主催していたので疲れが出たと思ったのです。でも、今日まで疲れが続いたためおかしいと思いステータスを調べたら……」

「そうか。では、お前はしばらくは部屋で休んでいなさい。私は少し調べものをしてくるから」


 そう言うとお父様は執務室を飛び出していってしまったのだ。ただ、数日後には嬉しそうな表情を浮かべながら戻って来る。そして力一杯、私を抱きしめてきたが。

 だから微笑んでしまったのだ。きっと良いことがあっただろうと。そして、それは当たっていた。


「喜べダリア! おそらく全員、聖リナレウスの恩恵がなくなってる。これなら次の計画にいける」


 お父様はかなり興奮していたが私自身も興奮し顔が綻んていた。何せ、その計画はお父様の夢であると同時に私達シルフィード家にとっても悲願なのだから。そして何よりも私が欲してやまないものでもあるからだ。

 だから目を輝かせながら尋ねたのである。


「遂に私が女王になれるのですね?」

「ああ、オルデール王国の女王になれるぞ、ダリア!」

「本当ですか! 嬉しい!」


 思わずはしゃいでいるとナタリーお母様とカイウスお兄様が部屋に入ってくる。そして話を聞いていたらしく私の頭を優しく撫でながら仰ってきたのだ。


「ふふ、ダリアが女王になれば私も鼻が高いわ」

「はっはっは、私も同じ気持ちですよ。それで、どうするのですか父上?」

「まずは私とダリアで王宮に行き、あの小僧にダリアを王妃にしないと民衆に真実を話すと脅す。もう聖リナレウスの恩恵が無いのだから拒否はできんだろう」

「でも、そうなるとこちらのした事もバラされてしまうかと……」

「ふふ、そこは心配ない。そのためにあれとダリアの姿をそっくりにしたのだからな。誰もまともな証言などできぬだろう。それに魔王の呪いで氷の聖女の力がなくなったと既に噂を流しておいた。これで、ますます氷の聖女は同情されて王妃へと後押しをされるだろう」


 それを聞いたお兄様は安心した表情になり、私を愛おしげに見つめてくる。


「一年も待たされて国民も不審がってますからね。全く、ダリアをすぐに王妃にすれば良いものを……。もし良ければ私も行って強く言ってあげましょうか?」

「いや、お前にはアルセウス領に行ってもらいたい。あっちでどうやら動きがあった」

「……わかりました」

「では、ダリア。私達は王宮に行こう」

「はい!」


 私は力強く頷きお父様の後へと続く。そして王宮に到着するなり足早にジークハルトがいる執務室に向かったのだ。


「失礼」


 お父様は護衛も立っていない扉を開けると大股で中に入っていった。もちろん私も後に続く。すると水色の髪に青い目をした男……ジークハルトが書き物をしていた手を止め、うんざりした表情を向けてきたのだ。

 正直、その態度に内心苛ついてしまったが顔には出さないよう淑女の礼をする。


「ご機嫌ようジークハルト様。婚約者として会いに来たのですからそんなに邪険になされなくても良いではないですか」

「……まだ、ほざいてるのか? 偽物め……」

「なんのことでしょう?」


 私は首を傾げる。だって今の私はお父様の工作のおかげで氷の聖女セシリアなのだ。要は目の前の男と一部の者以外、誰も私がダリア・シルフィードだとは思っていないのである。

 だから余裕ある表情を向けたのだ。するとジークフリートは溜め息を吐く。


「ベルマン、さっさと要件を話せ。簡潔にな」

「わかりました。では、単刀直入に言いましょう。我が娘セシリアを早く王妃にして頂けませんかね。何、白い結婚で問題ありませんよ」

「……ふざけているのか?」

「ふざけてません。それに、国王様も国民も二人の結婚式を待ちくたびれています。それになにより、このままだと我が娘、氷の聖女セシリアがあまりも不憫です」


 お父様はそう仰り愛おしそうに私を見つめる。なのにそんなお父様をジークハルトは睨んだのだ。


「ふん、不憫ね……。さっさと結婚したら私を殺して偽物を女王にでもするつもりだろう」

「さあ、何の事でしょう? それよりもいいのですか? あなたを含め聖リナレウスの恩恵は消えた。力で色々と抑えこむ事はもうできませんよ」

「……だから言うことを聞けと?」

「まともな進言をしているのですよ。まあ、聞く気がないのなら良いのですよ。ただし、あの日の真実が民衆に知られてしまう可能性がありますが」


 するとジークハルトはゆっくりと目を瞑る。そして、溜め息を吐くと頷いたのだ。


「……わかった、三カ月後に式を挙げようじゃないか。盛大にな」


 そう言うと、もう何も話す事はないとばかりに再び書き物を始めてしまったのである。だから、その態度に苛っとしながら私達は執務室を出て行ったのだ。

 まあ、馬車に乗る頃にはすっかり気分が良くなっていたが。それはそうだろう。ついに悲願の女王の座が目の前に迫っているから。

 だから、つい手を叩き大声を出してしまったのだ。


「やりましたね!」


 するとお父様も笑顔で頷いてきた。


「ああ、これで私達は栄光の座を掴む。いや、まずは第一歩だな」

「はい」


 私は何度も頷いた。ただ、内心ではもう栄光の座は掴んでいたが。何せもう障害はなくなったのだから。


 セシリアにジークフリート、そして……


 思わず口角を上げてしまう。残り二人はどうでもいい存在だと思いだしたから。

 だから今度は玉座に座りオルデール王国の頂点に立つ光景を思い浮かべることにしたのだ。そっちの方が有憂着な時間だから。

 私にとってもオルデール王国にとっても。


「だって私はオルデール王国の次期女王なのだから」


 そう呟くと全てのオルデール王国民から賞賛される姿を想像する。思わず笑みを浮かべてしまうのであった。



ジークハルトside.


 二人が去った後、カーテンの裏側から顔の上半分を仮面で覆った騎士が現れる。そしてしゃがれ声で尋ねてきたのだ。


「……殺しますか?」


 私は首を横に振った。


「いや、今やれば真っ先に私が疑われる。だから、二人には盛大な結婚式でご退場してもらう。突然現れた暗殺者によってな」

「……大丈夫なのですか? 向こうだって警戒はしているはずですよ」

「問題ない。力のアミュレットがあるからな」

「魔力を通すと一時的に力が上がる魔導具ですか。しかし、それだけでは……」

「それだけじゃないぞ。狂化薬も使う。まあ、関係ない者まで巻き込んでしまうからこれは保険だがな」

「では……」

「狂化薬を使わない様これから少しずつ敵を粛正していく。ああ、もう既に二人は粛正済みか」


 クズ騎士と馬鹿な魔法兵を思いだす。魔法兵の方は関与したが最終的には二人ともゴブリンの餌になったらしい。

 だから次の計画をと考えていたのだが。


 ランプライトか……


 報告書に目を落とす。ランプライトを守る第三騎士団の枕元に聖リナレウスが現れ、欠損した体を治したらしいと。非常に興味深い内容だった。場所がランプライトということが特に。


 何せ、あの町の近くで……


 思わず拳に力が入ってしまう。そして今すぐシルフィード公爵家全員を斬りに行きたいという衝動も。

 しかし、机の上に飾られた小さな絵を見たら自然と力が緩んでいったのだ。何せ大切な婚約者でもある彼女に見られているような気がしたから。


 セシリア……


 私は花園に立つ少女の後ろ姿が描かれた絵に優しく触れる。そして彼女と出会ったあの日を久しぶりに思い出したのだ。



 ジークハルト・オルデールはレガント大陸の北東に位置するオルデール王国で生まれた。魔法適正のない第一王子として。

 だから魔法以外の技術を日々磨き続けたのだ。

皆から認められるように。

 しかし、国王はそんなジークフリートの努力を知る由もなく十才の時にシルフィード公爵家の娘でもある氷の聖女を勝手に婚約者にしてしまったのだ。魔法が使えないジークフリートの補佐をさせようと。

 もちろんそれを知ったジークハルトは氷の聖女に直接会い断りに行こうとした。ただし断る理由は補佐が嫌だったからではない。性格破綻したシルフィード公爵家の娘なんかと結婚したくなかっただけである。

 なのに待ち合わせ場所の花園に待っていたのは痩せ細った少女だったのだ。しかも公爵家と程遠い古ぼけたドレスを着させられて。

 だからジークハルトは言おうとした言葉を忘れて立ち尽くしてしまったのである。

 まあ、しばらくしてシルフィード公爵家の嫌がらせだろうと理解し一歩前に出たが。もちろん婚約破棄を言うためである。

 けれども少女まで後数歩というところで立ち止まってしまったのだ。花園に突風が吹いたから。ただ、その後は別の理由で動けなくなってしまう。

 先ほどまで金色だった髪が美しく輝いた銀色になったから。そして宙を舞う花びらを追う優しげ赤い瞳、腐った連中には決してできない朗らかな笑顔を見てしまったから。要はジークハルトは一瞬で恋に落ちてしまったのである。

 だが、すぐに我にかえる。側でジークハルトの従者であるクレインが少女を見つめていたのに気づいたから。

 だから、自分だけの宝物を隠す為に少女に怒鳴ってしまったのだ。不細工だから顔を隠せ、顔を見せるな、下を向け、他の男はお前の事を気持ち悪いと思っているなど。

 その後も誰かに顔を見られないように、自分以外の男に顔を見られない様、ジークハルトは会う度に少女に言い続けた。それが少女の心を傷つけているとも知らずに。

 そんな日々が続いたある日、魔王が現れたと聖リナレウス教会にお告げがあったのだ。もちろん魔王を倒せる力がある氷の聖女は討伐メンバーに入ってしまった。しかもいつの間にか王家が見つけていた勇者と呼ばれる存在と一緒に。ジークハルトはこの時ほど焦ったことはない。何せ氷の聖女と勇者だ。間違いなく仲が深まるだろうと思ったから。

 だからジークハルトは無理矢理、魔王討伐に参加し勇者にはセシリアに顔を覚えさせないよう仮面をつけさせたのだ。勇者が決して王家を裏切らないとわかっていても。

 だが、それでも二人は惹かれ合ってるように見えてしまった。

 だから魔王討伐が成功した後、ジークハルトはある事を決行したのだ。



「なのに帰ったら君は……」


 私は一年前のことを思い出し唇を噛み締める。しかし、すぐに笑みを浮かべると仮面の騎士に視線を向けた。


「計画変更だ。これからシルフィード公爵に肩入れしている貴族を適当な理由で粛正していく。手伝ってくれるか?」

「……もちろんです。奴らは必ず粛正しなければいけません。特にシルフィード公爵家は絶対に……」

「ああ、そうだな。だから、頼むぞ……勇者」


 私は勇者の肩を叩く。



 そんな、ジークハルトに勇者は頷きながらも視線はある方向に釘付けになっていた。そして、その心の中は愛する者を奪われたという深い憎悪で塗り固められていたのだった。


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