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13、復活する第三騎士団


「ここが第三騎士団の兵舎よ。まあ、兵舎というよりボロ屋だけど」


 ルナスさんが目の前の建物を指差す。確かに建物は所々にヒビが入ったり蔦が巻きついていた。ただオルデール王国の兵舎より私は好みだったが。


 それに……


 思わず頬を緩ませる。中から暖かみを感じたから。ルナスさんやエリスさんから感じるような暖かみを。しかも沢山。

 だから首を横に振りながら言ったのだ。


「素敵な建物だと思います。それに中にいる人達も」


 するとルナスさんが全く理解できないという表情で首を傾げる。そして建物の側で剣を振っていたショートカットの女性に声をかけたのだ。


「ねえ、マリア。中にいる連中って素敵だと思う?」


 すぐにショートカットの女性……マリアさんはありえないという表情をする。


「ないない。だって、そんな言葉とは無縁の連中よ」

「だよね。良かった。あたしだけかと思って焦っちゃったよ」

「安心しなさい。皆思ってることだから。で、ルナス。今日は変わった格好のお友達と一緒に何しに来たの?」

「それは大事な話をしにきたのよ」

「大事な話?」


 ルナスさんは頷き真面目な表情に変わる。


「だから第三騎士団全員を至急食堂に集めて欲しいの。マリア、お願いできる?」

「……わかったわ」


 マリアさんは雰囲気を察し何も聞かずに戻っていく。ルナスさんはすぐ私に向き直り言ってきた。


「中を見ればおそらくあたしが何をして欲しいかわかるはず。だから、見て嫌だと思ったらすぐに建物から出て欲しい。セシルには無理はさせたくないから」


 そう言って申し訳なさそうな表情を浮かべたのだ。もちろん私は気にしないで欲しいと首を横に振った。


「セシル……」

「大丈夫です。だから行きましょう」


 私は頷く。きっとグリフォンとの戦いならどういう状態か想像つきやすいから。そして食堂に向かうと想像通りの光景が広がっていた。いや、想像以上だったかもしれない。手足を失っている方の数が多すぎたから。

 きっと生き残れた人が多かったのだろう。ルナスさんを見ると頷いてきた。


「半壊したけど死者はいないわ。でも、本来なら怪我もせずに倒せたのよ。ああいう危険な依頼は全ての騎士団に冒険者総出で向かうから」

「でも勇者パーティーが参加するから……」

「そう、第三騎士団のみで参加することになったの。後は前に話した通りよ」

「勇者様は来ず第三騎士団は半壊……」

「いや、全滅したようなものだ」


 そう言って話に入ってきたのは片手と片足がない端正な顔立ちをした男性だった。ルナスさんが男性の方を向く。


「やっと来たね。アイン、あんたの力を借りたい。いや、第三騎士団の力をね」


 するとアインさんの周りにいた人達が苦笑しながら言ってきたのだ。


「ルナスちゃん、俺達を見て言ってるのかい?」

「せいぜい、見回りしかできねえよ」

「しかも何が起きても見てるだけ……」

「じゃあ、完璧に治って前みたいに戦えるようになるって言ったらどうする?」


 しかし皆さんは諦めた表情を向けてくるだけだった。ルナスさんは溜め息を吐くとアインさんの側にいき手を握る。


「私の言葉、あんたなら信じてくれるよね?」


 アインさんはしばらく黙っていたがゆっくりと口を開いた。


「氷の聖女は呼んでも来なかった……。賢者様や枢機卿も会ってくれるとしても数十年先だ。じゃあ、いったい誰が俺達を完璧に治すんだ? まさか、その隣にいる顔を隠した子か? 馬鹿馬鹿しい」

「アイン……」

「ルナス、もう第三騎士団は終わったんだ。ほっといてくれ」


 そしてルナスさんの手を振り払ってしまったのだ。ルナスさんは再び溜め息を吐いた。


「あたしの言葉が届かないとは。もう色々な意味で終わりかもね」

「色々な意味だと……ち、ちょっと待て!」


 途端に先ほどとは打って変わってアインさんが慌てだす。するとマリアさんがアインさんの頭を叩いたのだ。


「最初から決めつけてんじゃないわよ!」

「し、しかし……」

「うっさい!」


 再びアインさんの頭を叩くとマリアさんは頭を下げてくる。


「ごめんなさいね、ルナス」

「いや、良いわよ。それで力を借りたいんだけどどうなのよ?」

「もちろん、このやさぐれた連中を使ってくれるなら喜んでお願いするわ」

「さすが副団長ね」

「実質、団長よ」


 二人は顔を見合わせて笑いだす。二人に挟まれたアインさんはどんどん小さくなっていった。そして今にも消えそうになった時、エリスさんが食堂に駆け込むようにして入ってきたのだ。

 しかも、ルナスさんを見つけるやいなや怒った顔で詰めよる。


「ちょっとルナス! 私を置いてくなんて何考えてるのよ!」

「いや、だって冒険者ギルドの仕事があるでしょう?」

「セシルさんの事が関わってたら、そっちが優先でしょう。しかも第三騎士団に行くって……ああ、マリア久しぶり」


 エリスさんは横で驚いているマリアさんに軽く会釈する。マリアさんはすぐにエリスさんの肩を掴み揺すった。


「ひ、久しぶりじゃないわよエリス! あなたどうして普通に歩いてるのよ⁉︎」

「それはもちろん治してもらったのよ」

「……誰に?」

「それはルナスが話すわ」

「ルナス」

「はいはい。じゃあ、もう一度言うよ。エリスのように前みたいに戦えるようになりたい?」


 するとアインさんがバツが悪そうな表情を向けてくる。


「もちろん前みたいに戦えるなら願ってもない。だが、どうやって俺達を治すんだ?」

「条件がある」

「条件?」

「これからすることを他言しない。そして治ったらある人を命懸けで守って欲しい」

「本当にそれだけで良いのか? 本来なら俺達の治療には莫大な金額が必要なんだぞ?」

「だから命懸けで守って欲しいのよ。言葉通りね」


 ルナスさんはじっとアインさんを見つめる。それで何かを悟ったアインさんは頷いた。


「第三騎士団の騎士団長として約束する。もし、約束を破ったらこの命をくれてやる」


 すると周りにいた騎士団の方々も同じように宣言しだしたのだ。ルナスさんは満足そうに頷くと顔を向けてくる。私は頷きすぐに祈りを捧げた。この人達の怪我が治りますようにと。

 しばらくして食堂内にどよめきが広がる。それから歓喜の声が舞ったのだ。


「なくなった俺の足がある!」

「私の腕もよ!」

「ありがとうございます聖リナレウス様!」


 喜ぶ第三騎士団に頬を緩ませているとルナスさんが頭を下げてきた。


「ありがとう、セシル」

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます」


 私も頭を下げるとルナスさんは驚いた顔を向けてくる。


「えっ、なんでセシルが礼を言うのよ?」

「私が役立てる場所を与えてくれたからですよ」

「……全くこの子は。だから心配になるのよね」

「だがもう安心だろう。これからは俺達が命をかけて守ってみせるからな」

「ふふ、誰を守るかは理解したみたいね」

「ああ」


 アインさんは頷くと私の方に向き直った。


「セシル様とお呼びしてよろしいでしょうか?」

「えっ、あ、いや、様はいらないです!」

「しかし……」

「本人が良いって言ってるんだからやめな。それとここから話す事が本番だから」


 ルナスさんはすぐに断罪の裂け目での出来事を話してくれた。そして私が危険な時は誰よりも優先的に助けて欲しいと。皆さんは力強く頷く。


「必ず優先する。どんなことがあってもな」

「そうそう俺達に任せてくれよ」

「皆さん……」


 私は嬉しくなって涙が出そうになった。ただし、すぐに俯いてしまったが。皆さんを危険なことに巻き込んでしまったのを実感してしまったから。

 何せ相手はオルデール王国。きっとバレたら酷いことをしてくるに違いないから。


 だから……


 ルナスさんを見つめる。何も言わず危険な目に遭わせるぐらいなら本当の事を話してしまった方が良いのではと考えてしまったのだ。


 それで手に負えないと判断したら私が遠くに行けば……


 そう考えた直後、口は自然と開いていった。


「ルナスさん、私はこのまま何も話さずに黙っていて良いのでしょうか?」

「えっ、そんなの全然気にしないで良いわよ」

「でも、もしそれが原因で皆さんを危険な目に遭わせてしまったらと考えると……私はとても怖いです」

「セシル……ごめん。そんな風に考えないようしっかりと話をすべきだったわ」

「ルナスさんは悪くありません。むしろ早く気づけなかった私が悪いんです……」


 するとルナスさんは勢いよく私を抱きしめてくる。そして大きく息を吐いたのだ。


「はあっ、なんて良い子なの。でも、心配しないで。もう戦う相手は誰だろうと問題ないから。たとえオルデール王国でもね」

「えっ、オルデール王国でも?」


 つい、そう聞き返してしまうとルナスさんは力強く頷く。


「ええ。この町……ランプライトは四つの国に囲まれてるからどんな国とも戦える構想は常に考えてるのよ。まあ、今までは勇者パーティーの所為でその構想も難しくなってたけど、もう大丈夫だからね」

「でも、私一人のためにそこまでして頂くのは……」

「何言ってんのよ。セシルは欠損に半身麻痺まで治しちゃうんだよ。そんな凄い治療術師を殺そうとする奴は悪党しかいないね。それならあたし達にとっても敵だよ」

「じゃあ、私は……」

「セシルは何も言わないで良いんだよ」


 ルナスさんの言葉にエリスさんとアインさんが頷く。そして食堂にいる皆さんも。おかげで不安が取り除かれていく。

 だから、私は安心しながら頷いたのだ。


「わかりました。ただ、いつかは本当の事を話させて下さい」

「わかったわ。ちゃんと自分自身で話しても良いって思ったらね。てことだから皆、セシルの事を頼むわ。特に今日あった事は他言無用ね」

「そうなると、兄貴達の事はどうやって説明するの? 周りが絶対に聞いてくるわよ。特に第一騎士団の一部はね」


 マリアさんがそう尋ねるとルナスさんは顔を顰めた。


「ああ、貴族のペットに成り下がった奴らか。無視は駄目だよね……」

「もちろんよ。それこそ他の国にあることないこと情報流されちゃって大変なことになるわ」

「うーーん」


 ルナスさんは頭を抱える。しかしすぐに手を打ち言ってきた。


「第三騎士団の枕元に聖リナレウス様が現れて治してくれたとかってどう?」

「凄く良い案ですね」


 名案だと思い私は何度も頷く。しかしマリアさんが首を横に振った。


「駄目ね。何故現れた? 聖リナレウス様は何を言っていたんだって詰め寄って来るわよ。それに答えられなきゃ、宿舎のベッドを無理矢理取られちゃうわ」

「じゃあ、どうしたらいいのよ?」

「ある日、夢の中で来たるべき日の為に備えよと言われて気づくと怪我が治っていたってのはどう?」

「なるほど。それなら答えようがないわね!」


 ルナスさんの言葉にアインさんも頷く。


「ああ。後はセシルを正々堂々と警護すればいい。俺達、第三騎士団がな」

「でも、その第三騎士団の大半が現在装備無しなんだよね?」

「あっ、そうだった……」

「どうするのよ?」

「金を稼ぐか借りに行くか……。ぐっ……」


 アインさんが力無く座り込むとルナスさんがその肩に手を置いた。


「だから、自暴自棄になるなって言ったのよ」

「仕方ないだろう。ルナスだって二度と握れないのに目の前に剣があったらどうするよ……」

「うっ、それは捨てるか売るかも」

「だろう……」


 二人は溜め息を吐く。それに周りの人達も。きっとアインさんと同じように自分の装備品を手放してしまった人達だろう。

 だから私は亡くなられた方達の遺品……今は所有権が私のものになった剣や鎧をいくつか出しテーブルに置いていったのだ。アインさんが驚いた顔を向けてくる。


「えっ、どこからそれを? いや、それよりもこの装備品……」

「はい。よければもらって下さい」

「流石にもらうのは悪いだろう……」

「いいえ、気にしないで下さい」


 更に武器や防具を出していくとルナスさんが慌てて止めてきた。


「セシル、気持ちは嬉しいけど装備品ってかなり高いし、売ったら良い値段になるのよ……」

「でも、変な方に使われるよりは第三騎士団の皆さんに使って頂いた方が亡くなられた人達も喜びますよ」

「……セシル。本当に良いの?」

「はい。衣類ももし良ければどうぞ」


 私はその後、冒険者ギルドに出したご遺体分の装備品に衣類を全部出す。アインさんが頭を深々と下げてきた。


「第三騎士団はこの一年ぎりぎりでやってきたから本当に助かる。ありがとうセシル」

「私に礼はいりません。本来、これは亡くなられた方々のものなので……」

「そうか。なら彼らに感謝しながら大事に使わないとな」

「はい」


 私が頷くとアインさんは微笑む。けれどすぐに申し訳無さそうな表情を向けて来た。


「セシル、すまないがあいつも治してやれないだろうか?」


 そして食堂の入り口付近に立つ顔を布で隠しボロボロの外套を着た方に視線を向けたのだ。もちろん快く頷く。


「はい、任せてください」

「ありがとう。あいつ首から上が焼けちまってるのと片腕を失ってる」

「辛かったでしょうね……」


 私はアインさんと共にカシムさんの側に行く。しかし、カシムさんは私が近づくと何故か手を前に出し首をゆっくり横に振ったのだ。

 私はその行動の意味がわからなく首を傾けてしまう。


「あの、それはどういう意味ですか?」


 そう尋ねるとカシムさんはしゃがれた声で答えてきた。


「しなくて……いい……。治して……もらう、資格が……ない……」


 そして踵を返し食堂を出ていってしまったのだ。私はアインさんに顔を向けるとすぐに謝ってきた。


「すまない、あいつ普段はあんな感じじゃないんだ」

「そうなのですか?」

「ああ。第三騎士団じゃないのに見回りの手伝いとかしてくれてな。凄く良いやつなんだ。だから、あいつには治療して治って欲しいんだが」

「では、また声をかけてみましょう」

「すまないな」


 アインさんは安堵した表情で頭を下げてくる。おかげで頬を緩まてしまった。ここにいる人達が思っていた通りの素敵な人達だと改めてわかったから。


 それに……


 カシムさんが去った方を見る。同じ感じがしたのだ。ルナスさん達と。

 だからきっとカシムさんもいつかこの中で笑顔になるだろうと。そう願いながら私は心の中で祈りを捧げるのだった。


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