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12、ロックとジャックの最期


ロックside.


「どういう事だ!」


 俺は怒りのあまり持っていた物を壁に叩きつける。だが当然怒りは治らない。当たり前だろう。痛む身体にムチを打ちながらダリアお嬢さん……いや、あの女がいるタウンハウスに行ったのに治療を拒否されたからだ。


「おかげで無駄な体力を使った挙句に馬鹿高い金額の回復薬まで買う羽目になっただろうが。 くそ! あの金額で何人の娼婦を抱けると思ってんだよ。しかも!」


 自分の体を見る。確かに回復できた。だが前と違ってとても動きにくいのだ。まるで重りを体に巻き付けているように。


「……副作用なのか? いや、そんなことはどうでもいい。これもみんなあの女の所為だ。薬代は絶対請求してやる。じゃなかったらあいつの体で……」


 想像し笑みを浮かべていると部屋がノックされ声が聞こえてきた。


「騎士団長がお呼びだ。すぐに来いとのことだ」

「……わかった」


 命令口調は気に食わなかったがすぐに立ち上がる。何せ呼び出しといえば依頼だから。そして依頼が終われば大概お楽しみが待っているからだ。

 だから今回は楽しさの方が優ってしまったのだ。


 それに丁度良かったぜ。苛々していたから憂さ晴らしもできる。更に感謝され女と楽しめるってわけだ。全く最高だぜ。


 そう思い意気揚々とバーンの部屋に向かったのだが。


「ただの見回りかよ」


 ランプライトを見回し舌打ちする。病み上がりは貴族地区の見回りで十分だといわれたのだ。おかげでつまらな過ぎて既に貴族地区を出てしまっている。

 ただし出てからは口元は緩みっぱなしだったが。何せ憂さ晴らしはできないがバーンには娼婦と遊ぶ金を渡されていたから。


 まあ、娼婦以外とは遊ぶなと釘を刺されたがな。


 思わず地面の石を蹴る。しかし、ここの娼館を思い出すと再び口元が緩んでしまった。ランプライトは三ヶ月ぶりだし新しい娼婦も増えているだろう。なので新鮮な気持ちで楽しめるだろうと。

 だから鼻歌混じりに歩いていていたのだ。俺好みの女を途中で見つけてしまうまでは。


「ひゅーー、こりゃ娼館は中止だな」


 俺は口笛を吹きながら早速女に近づいていく。もちろんバーンの言葉なんで聞くつもりはない。自分の立場なら何をやっても揉み消せるからだ。

 特にこのランプライトでは。近くにいる目を合わせてこない衛兵を一瞥した後、意気揚々と女に声をかける。


「おい、ねえちゃん。俺は勇者パーティーにいたロックって言うんだ。どうだ、一緒に遊ばねえか?」


 すると女は困った顔になる。まあ理由はわかっていたが俺は気にせず指輪をした左手を掴む。すぐに女が俺の手を叩いてきた。


「やめて下さい! 私には主人と子供がいるんです!」

「ああ? んなの関係ねえだろう? 俺は英雄様だぞ!」


 睨みを効かせると女は怯えた表情になる。俺はついニヤついてしまった。嫌がる女の顔を見るのは好きだからだ。


 しかも旦那の目の前で嫌がる顔はな。


 駆け寄ってくる男を見て俺は口角を上げる。


「お前、この女の旦那か?」


 男は頷き睨んでくる。


「妻を離せ」

「離してやるけどその前に楽しませてくれよ。ああ、お前は側で見てていいぜ」


 笑みを浮かべると男が激昂する。


「ふざけるな! さっさと離せ悪党!」


 そして大振りで殴りかかってきたのだ。俺はすぐに体を動かす。そしていつも通り軽く避けると男の顔面を殴りたっぷり目の前で絶望を味わせてやる……予定だった。

 だが現実はいつもの様に動けず男の攻撃を喰らいそうになってしまったのだ。


「くっ……」


 俺は必死に顔を反らす。そしてなんとか避けると剣を抜き男に向けた。


「殺すぞ」


 男は後退る。しかしすぐに睨んできた。


「……街中でそんなものを抜いたら捕まるぞ」

「はっ、お前知らないのか? 英雄様は何をやっても許されるんだよ! なあ、そうだろう!」


 周りを見るとみんな俯く。ただ離れた場所で前回、遊んだ女の恋人が睨んできたが。だが、俺は気にせず男に顔を向ける。

 そして友人に接する様に話してやったのだ。


「なあ一回だけだぜ。側で俺達が楽しんでるのを見ててくれればいいんだよ。そうすりゃ、二人共殺さないでやるからさあ」


 すると女の方が震える声で言ってきたのだ。


「……それで私達は助けてくれるのですね?」

「おう、英雄ロック様に二言はねえ」

「わかりました」


 女が頷くと男は絶望的な表情になる。俺は顔が崩れそうなほどニヤけてしまった。これからのことを想像してしまったから。

 だから、興奮しながら女の服に手を伸ばしたのだ。まあ、すぐにその手は止まってしまったが。今まであった中で一番良い女が目の前に立っていたから。


「おいおい……」


 思わず生唾を飲みこんでしまっていると良い女……ビキニアーマーを着た赤毛の女が俺を指差してくる。


「ねえ、あんたって勇者パーティーにいたオルデール王国騎士団のロック?」


 俺はすぐに我に返り頷く。


「あ、ああ。なんだ俺と遊びたいのか? 良いぜ、たっぷり楽しもうじゃねえか」


 もう興味がなくなった女を離し赤毛の女に近づく。しかし赤毛の女は顔を顰めながら一歩下がった。


「……何言ってんの。あんたにはこのランプライトで悪さした事の落とし前をつけてもらいたいのよ。けど、本当に本人なの? 滅茶苦茶弱そうじゃん……」


 更にはそう言って馬鹿にしたように肩をすくめたのだ。俺は若干イラついてしまう。しかしすぐにニヤけてしまった。こういう女を徹底的に痛めつけて屈服させるのは楽しいからだ。

 だから俺は剣をしまうと拳をかためたのだ。


「やれるなら好きにしろよ。でも、俺を倒せなかったらたっぷりその体で楽しませてもらうからな」


 すると赤毛の女は無言で来いと指で挑発してきたのだ。思わず口角が上がる。英雄の力は誰よりも強い。だから勝つのは間違いなく俺だからだ。


「つまりはたっぷり楽しめるってことだぜ!」


 俺は拳を振り上げる。もちろん顔は崩れるぐらいニヤけていた。この後のことを想像したからだ。

 なのに気づくと腹の痛みと共に薄暗い部屋にいたのだ。しかも天井から吊るされて。


「……まさか負けたってことか?」


 そう呟いた後に気づく。部屋の隅に沢山の人がいるのを。しかも見覚えのある連中……俺が犯した女達やその恋人達だった。まあ、だからって俺は笑みを浮かべたが。


「……復讐か? やめとけよ。英雄ロック様に手を出したら、お前らだけじゃなくこの町も終わるぞ?」

「問題ないって言われたから大丈夫よ」

「はっ?」


 喋った女を見るとニヤニヤ笑っていた。


 どういう事だ?


 若干不安になっていると屈強な男が入ってくる。そして俺を見るなり気色悪い声を上げたのだ。


「ついに英雄様と遊べるのねえ!」


 すると別の女がニヤつきながら言ってくる


「朝まで楽しんで良いわよ。ただ、絶対殺さないでね」

「もちろんよ。一週間は楽しませてくれるんでしょ?」

「ええ、たっぷりやられる側の気持ちを味合わせなきゃね」

「終わったら去勢して女の子の格好させて、ゴブリンの巣穴に投げ込めば良いのよね?」


 屈強な男はとんでもない事を言って俺の口に布を突っ込んできた。おかげで声を出すが言葉にはならなかった。


「んーんーん!」

「あらあら、嬉しい? これからたっぷり楽しませてあげるわね!」


 屈強な男は俺の尻を叩いてニヤッと笑う。もちろん何をされるかわかり悲鳴をあげる。


「んんーーーー!」


 そんな俺を連中が指差しながら笑い出す。しかも狂ったように。おかげで恐怖を感じ漏らしてしまったのだ。

 すると屈強な男が側に来て囁いてくる。


「あら、嬉しそうね。うちのワンチャンと同じじゃない」

「んーんー!」

「何? 早く沢山可愛がって下さいってもちろんじゃない。ただ、合間に女の子の恋人も参加するみたいよ。ありがとうってお礼言ってあげなさいよ」


 もちろん俺は見ることはできなかった。最悪なことを想像してしまいそうだったから。

 だから必死に目を閉じる。そして聖リナレウス様に懇願したのだ。助けてくれと。

 すると突然脳裏にあの日の光景が映し出されたのだ。断罪の裂け目での俺の所業が。思わず涙が溢れ出てくる。


 ああ、何で俺は聖リナレウス様の使徒と言われていた氷の聖女様にあんな事を……


 俺は必死に謝罪する。何度も何度もだ。

 すると突然良い香りが漂ってくる。こんな暗くてじめついた場所に。だからつい目を開いてしまったのだ。

 聖リナレウス様が助けに来たと。だがすぐに絶望に叩き落とされた。


「さあ、私達と一緒に楽しみましょうね」


 視界に映るのは化粧をばっちりきめた屈強な男達だったから。



ジャックside.


「ジークハルトめ。わざわざ巣穴に入ってゴブリンを倒せだと⁉︎」


 私は持っていたゴブリン討伐の依頼書を床に叩きつける。それから先程まで勇者がいた場所を睨んだ。


「仮面野郎……。こんな下っ端がやるような依頼、ロックに持っていけば良いものを……」


 しかしすぐに思い出した。ロックが一週間以上姿を見せていないことに。まあ、すぐに女のところだろうと理解した。騎士団だって探していないのだから。


「だからってなぜ私なんだ? いや、そうだった……」


 ジークハルト直々の指名だったことを思い出す。ついでに依頼書に書かれていた言葉も。次に失敗したら降格と。

 もちろん納得できなかった。魔王討伐に貢献した功労者である私が一回の失敗で降格なんてあり得ないから。


「やはり僻みか……」


 私は叩きつけた依頼書を睨む。しかしすぐに扉に視線を向けた。部下がノックもせず入ってきたからだ。


「そろそろ準備を……」


 しかもそう言うなりさっさと去っていってしまったのだ。まるで昔に戻ったようだった。馬鹿にされていたあの頃に。思わず歪んだ聖騎士のメダルを血が滲むほど握りしめてしまう。

 しかし、すぐに口角を上げた。依頼を終わらせた後、騎士団も魔法兵団も厳しく律してやろうと考えたからだ。

 だから私は足早に部屋を飛び出したのだ。連中の怯える顔が見たくて。


 なのに……


 口元が歪む。ゴブリンの巣穴に到着すると魔法兵団で一番弱い第三部隊しかいなかったから。


「他はどうした⁉︎」


 つい苛々しながら尋ねると第三部隊長が答えてくる。


「……ジークハルト様の命令で今回は我々のみです。伝言も頂いております。ゴブリンの巣穴ぐらいなら一人でもできるだろう。だが、念のため優秀な魔法兵団第三部隊も付けておくと。どうされますか? 我々もお手伝いしますか?」


 第三部隊長は尋ねてくる。だが、ここで手伝えと言ったら後でジークハルトに笑われてしまうだろう。それだけは私のプライドが許さなかった。

 だから無言で一人でゴブリンの巣穴に入っていったのだ。ゴブリンが集めた物を蹴り倒しながら。ジークハルトへの怒りがおさまらなかったからだ。

 けれど、しばらく歩いているうちに怒りはおさまってくる。ある考えが浮かんだから。ここから魔法を唱えて巣穴全体を焼いてしまおうと。私の魔力量ならできるから。


「くっくっく」


 思わず笑みを浮かべる。これが終われば前の状態に戻る。皆が敬う聖騎士に戻れると確信したから。

 だから魔力を練り上げたのだが。


「なぜだ……」


 思わず短杖を握る手を呆然と見つめてしまった。魔力が全く集まらなかったから。練り上げれば感じるはずの膨大な魔力量を感じとれなくなっていたからだ。


「……ど、どういうことだ?」


 私は何度も魔力を練り上げる。しかし結果は同じだった。魔力量がほとんどなくなっていたのだ。魔王討伐に行く前の状態に。


「そんな……」


 呆然とする。しかし我に返ると慌てて短杖を構えた。奥の方から棍棒を持ったゴブリンが向かってくるのが見えたから。


「くそ、こんな時に! 炎よゴブリンを燃やせ!」


 そう叫んだ直後、短杖の先から炎の球が飛び出す。ただし大きさは赤子の握り拳台ぐらい。だからゴブリンは手で払うとあっという間に側に来て棍棒を振り上げたのだ。


「ぐぎゃああっ!」


 私の肩にゴブリンの振るった棍棒が当たる。あまりの痛みに地面をのたうち回っていると更に腹部に強烈な痛みがくる。朝食べたものを全て吐き出してしまった。


「おえええっ!」

「グギャグギャッ!」


 ゴブリンの笑い声が聞こえた。そして棍棒を振り回す音も。だから慌てて口を開く。


「た、助けてくれ!」


 しかし返事のかわりに来たのは痛みだった。しかも何度もである。だから気を失うまで私は悲鳴をあげ続けるしかなかったのだ。


「う、う……ここは?」


 目を覚ますと逆さまにされ宙に吊るされていた。もちろんこの状況がどういうものかはすぐ理解した。女は苗床で男は食事にされる。つまり自分は食料扱いであることに。


 冗談じゃない……。早く逃げなければ。


 慎重に周りを見る。そしてほっと胸を撫で下ろした。ゴブリンが一匹もいないことがわかり今なら逃げれると判断したから。

 だから早速縄を切るため魔法を使ったのだ。


「風よ切れ!」


 すると小指台の風の刃が飛んでいき少しだけ縄を傷付けた。私は歯軋りしながらも何度も魔法を使う。

 そしてやっと縄を切ることができ地面に着地する。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 正直、限界に近かったが逃げないと食料にされてしまうため必死に歩き出す。だが、思わず立ち止まってしまった。

 近くに木で出来た檻があるのを見つけたから。しかも、その中の一つには苗床として捕まえて連れて来たのか女が一人入っていたからだ。

 もちろん私は無視して再び歩き出す。今は助ける暇がないからだ。

 しかし、女は空気を読まずに檻を叩き出したのだ。おかげ私は眉間に皺を寄せ睨んでしまった。ただしすぐに驚いてしまったが。

 何せ女だと思っていた人物が私の知り合いに似ていたからだ。


「お前……ロックか?」

「あーあーあーっ」


 かつらの様なものを付け、女物の服を着た人物は涎を垂らしながら頷く。間違いなくロックだった。

 だが、私は檻からゆっくりと離れた。よく見ると全ての指が折れて舌がなく歯も全て抜かれているようだったから。戦えないのなら助ける義理はないからだ。するとロックは激しく檻を叩いてきたのだ。


「あーあーあーっ」


 私は溜め息を吐いた後、視線だけ向ける。


「女と間違えられているなら、すぐに殺される心配はないだろう。後で助けに来てやる」

「あーあーあーあーっ」

「仕方ないだろう。もう少しゴブリンの相手をしておけ。しかし、ゴブリンは見た目は気にしないのか……勉強になった」


 肩をすくめながらその場を離れる。後ろでロックが騒ぐが、もう無視しながら歩き出した。早くこの場から逃げなければならないから。

 

「でないと……」


 私は歯軋りする。棍棒を持ったゴブリンが戻ってきてしまったからだ。


 くそっ、ロックに時間をかけすぎた!


 私はすぐにゴブリンに向かって手をかざす。


「炎よゴブリンを燃やせ!」


 ありったけの魔力を練り上げる。すると小指ほどの大きさしかない炎の球が飛び出した。すぐ消えてしまったが。


「グギャ……」


 ゴブリンは憐れみの目を向けてくる。しかしすぐに頭を振ると棍棒を振り上げたのだ。直後、頭に激痛が走り視界が血に染まった。


「ひっ……」


 死がよぎり心の底から恐怖する。そんな私にゴブリンが醜悪な笑みを浮かべて近づいてきた。


「グギャグギャッ」

「た、助けて聖リナレウス様……」


 思わず言葉が漏れる。すると脳裏にあの日の光景が映し出されたのだ。断罪の裂け目で氷の聖女に非常な言葉を投げる自分の姿が。思わず涙が出てきてしまった。あの時、氷の聖女はこんな気持ちだったのかと。


 私はなんてことを……


 直後、強烈な一撃が腹にくる。そして、それが始まりの合図だったかのように私はゴブリンにひたすら叩かれ続けるのだった。


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