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花冠と白い騎士  作者: 天晴 月湖
第1章 その青年、騎士になる
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夢から覚めて(2)


 見渡す限りの煌めき。宝石の国として知られるローレライは、この地上で一番大きなレーツェル大陸を半分に割った左側だ。


 主な産業は鉱業、宝石や鉱石はこの国の特産だ。特に魔力を持った宝石は他国で確認されたことが無く、高く取引されている。


 王都に建つこの国で一番大きな城を囲むように、巨大な透明の鉱石がいくつも積み重なっている。その鉱石は膨大な魔力を含み、一見無色透明なのだが、日の光を浴びると虹色に輝く。


 この虹色の宝石は【剛石(コウセキ)】と呼ばれ、非常に珍しい。


 自然に生える石英(セキエイ)の類ではなく、大昔はただの巨大な原石だったものを、パビリオンと呼ばれる先の尖った足元、クラウンと呼ばれる頭へと変わるよう、何万人もの人間が手作業で百を超える面体を持つ宝石として削り磨き上げたのだ。


 二十個あるその巨大な宝石は、最も美しく国民の目に映り、最も美しく光を反射するよう配置されている。そして、その剛石の周りを、水色と金色の背の低い石英が囲う。




 ローレライの王都【ディア】は決して揺らぐことのない強さ、そして間違いなくこの国一番の美しさを誇る。




 白と金色を基調とした城下町には透明感と清潔感が溢れ、歩く道でさえも上を平らに削り取りタイルへ見えるよう装飾を加えただけの水晶だ。


 所狭しに透明な石英が蔓延り、どこへ居ても水晶を見ることができる。王都に限らずローレライの人々は昔から石英を削り取っては、そこへ町を築き暮らしている。


 この国の石英や原石の類は、地中の成分と日の光、魔力が混ざり合い草木のように空に向かって伸びる。

 人の住む場所、歩道、噴水などは魔力を不活性化させる魔法をかけることで石英の成長を止めているため、それらが地中から伸びることは無い。




 着替えを終えたギルバートはラルドと城下町を歩く。


 ギルバートがラルドの屋敷に住み始め、六年が経った。当時十歳だった少年は、十六歳の青年へと成長した。


 当時ラルドの腰辺りに頭があったギルバートの身長はラルドの胸辺りまで伸びている。

 この国でも珍しいほどの高身長であるラルドと並ぶと、一見ギルバートが小さく見えるが、ギルバートの背は平均以上の高さである。

 すらりと伸びた手足に、長い首。当時肩程の長さだった灰色の髪の毛は背中の中ほどまでの長さで維持されていて、いつも一つに括っている。

 日に焼けていた肌は貴族と過ごした学生生活のおかげですっかりと真っ白になってしまった。

 細い顎に、薄い唇、高い鼻、綺麗な形をした瞳には、髪と同じ灰色の長いまつ毛。そして空色の瞳。


 ギルバートは大層な美青年へと変貌を遂げていた。


 町行く若い女性の視線は全てギルバートへ注がれる。

 こそこそとした声や、黄色い悲鳴、うっとりとした溜息が聞こえることもある。

 一人で町に行くと、若い女性から声をかけられることもあるがラルドが一緒に居る時は少なかった。

 ラルドの高すぎる身長、短い髪、下の中と言われたことがある長い顔、低すぎる声は、女性からあまり支持されたことが無い。


「ラルドさん! 不死龍の鱗入ってるけど、見てってよ!」

「あぁ! こっちもこっちも! 雷描の爪入ってるよ! 珍しいよ!」

「うちには真っ赤な魔石入ってるけど……どう?」


 ギルバートに対する黄色い声よりずっと大きな声で、ラルドに対する歓声が町の至る場所から聞こえてくる。


「今日は大切な用事がある、すまない、帰りに寄ろう」


 表情一つ変えず、いつもの低い声で断りを入れるこの男は、若い女性からは一切声をかけられないが、町の人間から大層好かれている。

 鵂の騎士団は、ラルドが入隊するまで貴族以外の人間を入隊させる事が無かった。【流れ者】と呼ばれる人間なんて以ての外だ。


 ラルドは子供の頃、国境付近の兵士として働いていた。

 その時、騎士団へ所属していた貴族の悪い目論見から王を守ったとして表彰された事が有り、それをきっかけに鵂の騎士団へと入隊した。


 ラルドの入隊は庶民の希望へと変わった。元々ローレライは貴族が庶民を差別するのが当たり前だったからだ。


 百年と少し前、隣国リューベツァールとの戦争が始まった。

 その時、階級の低い人間から戦地へ赴く仕組みが作られた為、庶民や階級の低い貴族は怒り狂い階級闘争が勃発した。戦争に加え、国内でも争いが起こり、一時は手の付けられない状況となった。


 多くの庶民が命を落とし、子供達は貧困で飢え、餓死する。貴族は略奪を繰り返す。最終的に、革命を企て貴族へ反発し逆らった庶民は全て罪人として扱われ、国境送りとなった。

 それにより貴族と庶民の確執は深く、表立って出しはしないが胸に怒りを抱き生活をしている庶民が未だ多く存在する。


【流れ者】と呼ばれ、罪人の烙印を押されていた人間が、たった一人で庶民の地位を引き上げだのだ。

 ラルドはギルバートの、庶民の憧れである。


「人気者ですね、ラルドさん」

「お前が言うか」

「僕、なにか人気ありました?」


 少年は美青年に変貌を遂げたものの、自分に注がれる注目や黄色い声の意味に一切気付いていない。自分が美しいという自覚もない。彼を構成する殆どが母親譲りであるからかもしれない。ただ、青い瞳を除いては。


 ギルバートは異性関係、恋愛に疎く、非常に鈍い男に育ってしまった。

 言葉や所作は美しくなったが、異性との接し方が分からないのは、それを不得意とするラルドの元で育ったからだろう。



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