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意外な客


 それでは『聖女殺し』レナード・クインの具体的な話に移ろうか――……そんな流れになったところで、ミリアムが懐から一通の手紙を取り出した。


「ラング准将、これはあんた宛だよ」


「誰からです?」


「ダリル・オズボーン」


 ミリアムの返答を聞き、全員が『うわ……』という顔つきになった。

 枢機卿の側近であるオズボーンは悪魔の落とし子のような人物で、こちらサイドからすると良い印象がない。

 ラング准将が手を伸ばすと、ミリアムが手紙をサッと遠ざける。


「待った――これを読む前に、オズボーンから伝言がある」


「伝言?」


「手紙を読む際の心構えだそうだ。何点かあるから、あたしが口頭で伝えるよ――まずはそれを聞いとくれ」


「……手紙の前に伝言を聞くって、意味あります? それも含めて手紙に書けよ」


 ラング准将はげんなりした様子を隠そうともしない。


「そんなこと言われてもね、あたしはオズボーンから言われたことをそのまま伝えるだけだから」


「そもそもあなたはオズボーンと知り合いなんですか?」


「最近知り合った。わりと気が合うね」


 という具合にミリアムがラング准将にジャレつき出したのを眺め、祐奈は『長くなりそうだな』と考えていた。

 ふと視線を巡らせると、奥の廊下からカルメリータがひょっこり顔を出した。祐奈たちがいるのはウッドデッキ上で、屋根はあるものの壁はなく半分屋外空間だ。このウッドデッキはリビングに繋がっており、さらにその奥の扉口にカルメリータが姿を現したのだ。

 カルメリータは果物の入った木箱を抱えていた。両手でそれを抱えながら、指先だけを動かして祐奈を手招きする。

 ……なんだろう?

 先ほど話をしている最中に、カルメリータが来客の応対に出た気配があった。木箱を見るに、青果の配達が来て対応したのかもしれない。

 客人のミリアムにどの果物を出すか、相談したいのかな?

 祐奈は席からそっと腰を上げた。


「ちょっとだけ失礼します――そのまま話を続けて」


 そう断ってから、祐奈はカルメリータのほうに向かった。

 扉口で合流すると、玄関のほうに誘導される。少し進んだところでカルメリータが声を潜めて報告してきた。


「祐奈様、実はオズボーンさんが玄関口にいらっしゃってます」


「え!?」


 仰天……! じゃあミリアムに持たせたという先ほどの手紙は何? こうして訪ねて来たのなら手紙は不要じゃない?

 カルメリータが困ったように続ける。


「呼び鈴が鳴り玄関口に出て行ったら、オズボーンさんからフルーツが入ったこの木箱を渡されました。『これはラング准将をだますためだよ』とかよく分からないことを言っていましたが、どういう意味でしょう? 普通に『手土産だよ』と言えばいいのに……やっぱり変な方ですね」


「うわー……」


 祐奈は思わず天を仰いだ。

 なんなのだろう……オズボーンって本当、悪魔的!

 確かに祐奈はカルメリータがフルーツの入った木箱を持っているのを見て、『納品されたものかな』と考えた。おそらくラング准将も同様だろう――それで警戒を解いたはず。

 ということは先ほど手紙で注意を引いたミリアムもグルか……『中』と『外』で連携してこちらを騙しにかかっているのだから、性質たちが悪い。

 祐奈は頭痛をこらえながら尋ねた。


「……それでオズボーンさんは私に何か用があるのでしょうか?」


「ええ」カルメリータが眉尻を下げる。「ラング准将抜きで、まず祐奈様と喋りたいと」


「用件は言っていました?」


「近い将来ラング准将がピンチになるかもしれないから、祐奈様があらかじめ知っておいたほうがいいことがあるそうです。彼にひとりで抱え込ませないよう、妻である祐奈様が気をつけるべき点があると……」


「カルメリータさん、ありがとうございます」


 祐奈はお礼を言ってから考えを巡らせた。

 うーんどうだろう……話は気になるけれど、オズボーンとの単独の面会はリスクが大きいな……。

 やっぱりラング准将を呼ぼうかな……そう決めかけたところで、カルメリータが新情報を出してきた。


「それから修道士のロッドさんという方もご一緒です。ベイヴィア大聖堂の方だそうで」


「ロッドさん!」


 懐かしい名前を聞き、祐奈は目を丸くした。

 ベイヴィア大聖堂では異世界版ミスコンに巻き込まれたのよね……『朗読係』になりたいふたりの女性が争っていて、怒声が飛び交い散々だった。

 修道士のロッドは見た目こそワイルドであるものの常識的な青年で、とても親切だったのを覚えている。

 そういえばベイヴィア大聖堂に滞在した時は、ラング准将とふたりきりだったので、カルメリータはロッドと面識がない。『どういう関係?』と疑問だろう。

 祐奈は簡単にざっくり説明した。


「カナン遺跡からローダーに飛ばされたあと、ベイヴィア大聖堂というところにラング准将と立ち寄ったんです。そこで結構な面倒に巻き込まれたのですが、ロッドさんはとても真面目な方で、色々助けてくださいました」


「そうでしたか」カルメリータの顔つきがパアッと明るくなる。「塩顔というか、シュッとして格好良い方ですね。一見武骨そうだけど、挨拶したらすごく腰の低い方で、優しい雰囲気でした」


「……常識人のロッドさんが一緒にいるなら大丈夫かも」


 祐奈とカルメリータは安心して、ふたりで玄関口に向かった。




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