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部屋に戻ってからね


 祐奈がふと気付いた時には、もう彼に抱っこされた状態で足が床からかなり離れており、視点も三十センチほど高くなっていた。えらく見晴らしが良い。太腿の裏と腰のあたりに、鍛え上げられた彼の腕が回されている。


 ――ラング准将が歩き始めたので、祐奈は落とされないように彼の肩にしがみつき、小声で尋ねていた。


「……あの、ラング准将は私のどんなところが好き? どんな時にドキッとしますか?」


「聞きたいですか?」


「はい」


 彼が祐奈の体を抱え直し、滑り下ろすように位置を調整した。そうして耳元で囁きを落とす。


「……――――……」


 彼の言葉を聞くことができたのは、すぐそばにいた祐奈だけだった。内容もさることながら、彼の艶めいた、素敵な声……。


 その効果は絶大で、祐奈はかぁっと一気に体温が上がるのを感じた。


「え……本当に?」


「本当です」


「私、私……今すぐあなたとキスしたい」


 かつてないほどに衝動的な気持ちになっていた。ブレーキが馬鹿になっている。


 きっと今の自分は情けない顔になっているだろう。頬は燃えるように熱いし、眉尻は下がり、瞳も潤んできている……彼はきっと取り乱した祐奈を前にして、とても困惑しているに違いなかった。


 ところが……


「――部屋に戻ってからね」


 彼に柔らかな微笑みを返され、祐奈は至近距離からぼんやりとそれを眺めていた。彼の声音は悪戯なようでいて、不思議と優しかった。


 ラング准将に運ばれながら、視界の端にラビニアの姿が映った。彼女は幼馴染であるウィットに詰め寄り、情熱的に何かを訴えていた。かなり離れているので内容は聞こえてこないのだが、何を言っているのかはおおよそ見当がつく。


 ――落ち込んでいるウィットを褒め称え、どれだけ彼が素晴らしい存在であるのかを、心を尽くして伝えているのだろう。


 彼は感激するはずだ。大きなミスを犯して、そのことで親しくしていた相手から容赦なく罵られたばかりだ。オリヴィア嬢との仲もこれでは修復不能だろう。


 落ち込みきっているところにラビニアから優しい言葉をかけられたら、グラッとこないわけがない。


 ――ウィットがラビニアの手を取るのが見えた。


 祐奈は小さく息を吐き、抱き上げてくれているラング准将のほうにくたりと体重をかけて寄りかかってしまった。……なんだか疲れた……。


 部屋に戻ってから、祐奈は彼に沢山のお願いごとをし、彼はそれを全部叶えてくれた。甘い台詞も沢山囁かれた気がする。


 ――あとでリスキンドから教えてもらって真実を知ったのだが、ラング准将は特殊な訓練を受けているので、自白剤は効いていなかったらしい。


 つまりあの時に聞くことができた甘い言葉の数々は、本心を吐露していたわけではなく、こちらの熱意に合わせてくれていただけなのだろう。


 祐奈が『エド、好き』『大好き』と繰り返し伝えたので、何も返さないのでは流石に可哀想と感じたのではないだろうか。この時の祐奈はうっとり陶酔しており、しつこいくらいに彼に甘えてしまい、『私からもう一度キスしてもいい?』とか『あなたのキスが好き』とかの慎みを欠いた台詞を、うわごとのように口にしてしまった記憶がある。


 結局、祐奈のから回りだった。


 翌朝、薬の効果が切れた祐奈は、穴があったら入りたい心地だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] この話の辺りが、『ラング准将、良かったね』と生温い目で見守るシーンですかね?(*´ω`*)
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