009_古木江城
夏が終わり、秋も深まってきた頃。
城の方も結構工事が進んで、本丸は形になった。
次は二の丸、三の丸を築いていき、最後は近くを流れる鵜戸川の水を引いて堀にする予定だ。
今日は工事現場ではなく、殿との打ち合わせの日だ。
「勘次郎、築城の方はどうだ!?」
「はい、人足たちががんばってくれていますので、順調に進んでいます」
一応、工期として永禄四年の秋までを見ている。今が永禄三年の秋なので、あと一年だ。
ちなみに、永禄三年は西暦1560年になる。
この会議には俺の同僚の信辰も出席している。
まぁ、殿の重臣は俺とこの信辰しかいないのだから、出席するのは当然だ。
信辰は織田家の重臣の弟ということもあって、織田家中で顔が利く。
だから、城普請は俺が担当しているが、織田家中の交渉は信辰がメインでやっている。
まぁ、適材適所というわけだ。俺が城普請をするのが適材適所なのかは、この際横に置いておこう。
「来年になったら、三河に出兵があるかもしれない。準備は怠るなよ」
また戦争かよ。国内の安定に力を入れてほしいものだ。
信辰は戦争と聞いて嬉しそうだな。
殿もそうだが、この時代の武士は戦争好きが多い。
特に、織田家は長年の争いの中で生き残ってきた家なので、古参の家臣も新参の家臣も戦争好きが多いように見える。
殿の屋敷はまだ清須にあるので、俺は今から築城現場に近い自分の家に帰る。
清須の町中はなかなか賑わっている。
そんな町中を通り帰ろうとしたが、なにやら騒々しい。
見てみると、昼間っから酒を飲んで酔っ払った男性が管を巻いていた。
この時代にきて見た男性の中では一番の高身長で、百八十四センチの俺とほとんど変わらない。
「てやんでぇー、何見てやがる!?」
通りがかる人にイチャモンをつけている。あれだけの大男なので、普通の人はさぞや恐ろしく思っていることだろう。
「俺は桶狭間で首級を三つもあげてるだぞ! なんで帰参が許されない!?」
どうやらあの男性は桶狭間の戦いに参加していたようだ。
「くそ!?」
随分と荒れているようだが、首級を三つもあげているなら、そこそこの戦功だと思うけど……帰参ってどういうことだ?
「おい、お前! 何を見てる!」
うげ、俺が絡まれた。
「いや、ちょっと……」
「ちょうどいい、こっちへこい! 飲むぞ!」
「え、いや、俺は今から帰らないと……」
無理やり酒につき合わされてしまった。勘弁してほしい。
「あんた、名はなんてーんだ?」
「え、俺は佐倉勘次郎です」
「あ? 佐倉? どっかで聞いたな? ……まぁいい、飲め!」
とくとくと器に酒が注がれる。
この時代の酒は濁り酒で、俺がちびちび飲んでいる澄んだ水のような見た目の清酒とは違う。
なんというか、野性味のある酒だな。知らんけど。
「貴方の名前を教えてください」
俺は注がれた酒をぐびっと飲み干すと、男性の名前を聞いた。
「あん!? 俺か? 俺は、犬千代だ! バカな犬千代様だよ!」
自分のことをバカということと帰参という言葉から推測するに、この犬千代さんは何かやらかして織田家を追放になったのではないだろうか?
そうすると、面倒な相手に捕まってしまったものだ。はぁ。
「おい、いい飲みっぷりだな!」
「酒は嫌いじゃないですからね」
この時代に飛ばされる前は、いつか肝臓を悪くして死ぬぞと言われるほどに飲んでいた。
飲んでも次の日の朝はけろっとしていたので、毎日水のように酒を飲んだ記憶がある。
「犬千代さんは何をそんなに怒っているのですか?」
「俺はな、自分に怒っているんだ! バカをやってしまった自分が許せないんだ!」
俺も学生時代はバカをやったものだ。
だけど、この犬千代という男性はもっと大きなバカをやってしまったんだろう。織田家を追い出されるほどのバカを。
夕方になるころには犬千代さんは酔いつぶれてしまった。
「……このまま放置もできないか」
仕方がないので、家に連れ帰ることにした。
結構遠いんだけどな~。
「藤次、彼を馬の上に」
これでも俺は馬を持っているんだ。
名前は風丸だ。あまり高い馬は買えなかったので、そこまで足は速くないけどね。
「よいのきゃ?」
「このまま放置もできないだろ?」
「旦那様ももの好きだぎゃぁ」
「俺は代金を払ってくるから、頼むよ」
藤次は大柄な犬千代さんを抱きかかえ、馬に乗せにいった。
俺が店主に代金を払って外に出ると、犬千代さんは風丸の上に乗せられて縄で縛られていた。まぁ、落ちないようにするために仕方ないよな。
清須から家までは結構あるので、家についた頃には真っ暗になっていた。
「あらまぁ~、こりゃ~おかしな土産だぎゃぁ」
お菊さんが犬千代さんを見て驚いている。
「いきがかり上、連れて帰ってきました。すみません」
「旦那様のお客人だから、精いっぱい世話するだがね」