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008_古木江城

 


「勘次郎の案を採用する!」

 何度かのプレゼンを経て、殿は俺の縄張り案の採用を決定した。

「殿!?」

「七郎左衛門、お前も勘次郎の縄張りが優れていることが分かっているだろ!?」

「ぐ、それは……」

 七郎左衛門というのは、俺の同僚である佐久間信辰のことだ。


 俺の縄張りを採用されたのはいいが、築城は簡単じゃない。

 なんといっても、築城予定地はまっ平な地形、平地なのだ。

 城というのは、丘や山の上に築く方が攻められにくい。一概に言えないが、その傾向が強いのだ。

 この平地に城を築くとなれば、盛土をして城の建てる部分を高くする必要がある。


 殿は信長様に縄張り案を見せ、人足を手配した。

 俺も設計に関わった者として、現場に出て毎日働いている。

 だけど、信辰は築城現場に出てこない。不貞腐れているのだろう。


 仕事が終わり、疲れて家に帰る。一応、一戸建ての庭つきだ。

「旦那様、おきゃーりなさい」

 俺のことを旦那様と呼んだのはお菊さんだ。

 俺も一応、百貫の碌をもらう武士なので、使用人を雇ったのだ。

 お菊さんは戦争でご主人を亡くした未亡人で、俺の家で住み込みで下働きをしてくれている。

 未亡人、なんて甘美な響きなんだろう。そう思った君、残念ながらお菊さんは六十歳オーバーのお婆ちゃんだ。


「お菊さん、ただいま」

「婆ちゃん、きゃーったがや」

 俺の後についてきているのは藤次だ。お菊さんの孫で俺の下男をしている。

 お菊さんは夕食の支度をしているようで、竈からは湯気が上がっている。

「藤次、旦那様の邪魔はせんかっただろうね?」

「一生懸命、お仕えしているがや」

 タライに水を入れて、お菊さんが持ってきてくれた。

 藤次はそのタライの水で俺の足を洗いながらお菊さんと騒がしくしている。

 お菊さんは可愛い孫の働きが気になるようだ。


 部屋に入ると、まずは疲れた体を大の字にして寝転がる。

「ふ~、疲れた」

 夕暮れの日が西から差し込む部屋で、俺は寝転がりながら考える。

 夏の日差しはキツイけど、この時代の夏は俺の生きていた時代の夏よりも随分と過ごしやすい。

 真夏日はあまりなく、夏日ていどの気温が多い。

 このまま俺はこの時代から帰ることができないのだろうか?

 もしかしたら、この時代に飛ばされたように、いきなり帰ることができるかもしれないけど、何かを成し遂げたりしないと無理なんだろうな。

 ただ、そう感じ、そう思うのだ。


「旦那様、夕餉の仕度ができたがや」

「今いく」

 この時代、食事といえば米があまり入っていないお粥が多い。とはいえ、これは百姓や貧乏武士の場合だ。

 武士でもそれなりの身分になると、米を焚いて食べるが、その多くは玄米を焚いたものだ。

 俺の場合は玄米はあまり好まないので、米を臼に入れて杵でついて精米する。

 この精米が結構な労力で、十分もすると汗だくになる。

 今は夏だから、余計に汗だくだ。

 三分から五分つきにした米を炊いたものと漬物、塩味の汁物、そして川魚の塩焼きが今日のメニューだ。今日だけではなく、いつもだけどね。

 これだけでも、かなり上等な食事だ。他の家だと塩はそれほど使えないから。

 それでも、食事のメニューはいつか改善しようと思う。


「美味しいご飯が食べられるのは旦那様のおかげだがや」

「藤次、喋ってにゃーで、はよぉ食ってまえ!」

 相変わらず二人は騒々しい。

「お菊さん、ご飯のお代わりをお願いします」

 俺がお代わりを頼むと、お菊さんはお茶碗に山盛りのご飯をつけてくれる。

 陶器のお茶碗ではなく、木のお茶碗だ。陶器だとちょっとしたことで、割れてしまうので、使われていない。陶器の徳利なんかはあるんだけどね。


 食事も終わり、自室でいつものようにスマホを確認する。

 メールには五つのミッションの履歴がある。

 ミッションの『城を築こう!』というのはまだクリアしていないが、その後に二つのミッションが発生しているのだ。


【ミッション】

『人を雇おう! : 家を手に入れたので、人を雇ってみよう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで二個』


【ミッション】

『畑を耕そう! : 家の裏にある畑で野菜を育てて収穫しよう!』

『報酬 : プレゼントをランダムで二個』


 四つ目の『人を雇おう!』の方はお菊さんと藤次を雇ったのでクリアしたし、『畑を耕そう!』の方はまだ収穫できていないのでクリアはまだだ。

 しかし、畑の方はお菊さんや藤次がいるので、収穫までちゃんと面倒をみてもらえるから、少しだけ手伝って終わっている。


 ミッションをクリアした『人を雇おう!』の方の報酬は塩と胡椒だった。

 胡椒はこの時代の日本では滅多にお目にかかれない代物なので、助かっている。

 現在、プレゼントの中にあるアイテムから、塩(10Kg)を一袋、清酒を一樽、胡椒(1Kg)を一袋、あとミカン飴を三袋取り出している。

 塩と胡椒は自分たちで消費しているが、取り出した袋から小袋に分けて使わない分は壺の中に入れてある。

 清酒は一斗樽だったので、毎日ちびちび飲んでそろそろなくなりそうなので、二樽目を取り出すのも近い。



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