007_古木江城
【ミッション】
『城を築こう! : 殿の居城になる城を築こう!』
『報酬 : プレゼントをランダムで五個』
まぁ、こうなるとは思っていたけどさ。
実際にメールがくると、ふざけるなと言いたい。
だいたい、ただのサラリーマンがどうやれば、城を築けるっていうんだ!?
義元を討ち取ってから一カ月ほどが経っている中、とうとう殿は城を築く現地に入った。
最近の俺は彦七郎様ではなく、殿と呼んでいる。
いつまでも名前で呼んでいるわけにはいかないと思ってのことだ。
ちなみに信長は信長様だ。
あれから俺も考えたんだ。俺は元の時代に帰れるのかってね。
結論が出るわけもないけど、帰れる可能性はあると思っている。
よく考えたらさ、俺がこの時代にきた時、俺はこの時代の服を着て刀を持っていた。
仮に時空の狭間に落ちてこの時代にきたのなら、元の時代の服を着ていたはずだ。
それがこの時代の服に替わっていたとなれば、俺をこの時代に送り込んだ存在がいると思うんだ。
その存在がこの時代に俺を送り込んで、何をさせようとしているのか分からない。
ただ遊んでいるだけかも知れないけど、その存在が満足すれば元の時代に返してくれるかもしれない。
ミッションをメールで送ってくるのだから俺に何かをさせて、気が済んだら元に返す可能性だってあるかもしれない。
とは言え、今はこの時代で生きていかなければいけない。
そうなれば、このまま殿に仕えるのも悪くない。
この一カ月殿とつき合ってきたが、素直な少年だ。ただ、素直すぎるのが欠点だと思うけど。
そんなわけで、俺は殿に仕えてこの時代を生きることにした。
さて、ミッションでは城を築けと言っているわけだが、ミッションがどのていどの要求をしているのかを考える。
普通に考えれば、城を築く時のアイディアを出せだと思う。
まさか、俺に大工仕事を要求しているとは思えない。もし要求されていても無理だし。
だから、設計段階で関わろうと思ったわけだ。
設計といっても、俺にそんな知識なんかない。
では、どうするのか? そう、検索で調べるのである!
大きくなくていいが、堅牢な城にしたい。
そう考えると、やっぱり防御時に少人数で守れるようにしたい。
防御力の高い城といえば、やっぱり上田城かな?
何度も徳川の大軍を防いだ、上田城をこの尾張の地で築いてやろうではないか!
などと息巻いていても、殿が「うん」と言わなければ、話しにならないんだよなぁ。
「殿、縄張りをご確認ください」
俺の他にも殿の家臣はいる。
桶狭間の戦い以後に信長様からつけられた家臣だ。
城を建てるのだから、家臣が俺一人では少ないよな。
殿に城の縄張りを提出したのは、俺の同僚でむさ苦しい顔の佐久間信辰だ。
年齢はまだ若く、俺とあまり変わらないと思う。
佐久間といえば織田家の重臣の家柄で、佐久間信辰は家臣の筆頭格である佐久間信盛の弟だ。
血統は申し分ないだけに、俺にはかなり高圧的だ。
どこの馬の骨かも分からない俺と、重臣の弟では最初から話にならない。
「勘次郎、お前の縄張りも見せてみろ」
「はぁ……これです」
信辰はギロリと俺を見る。生意気だぞと言わんばかりの目だ。
仕方がないだろ、殿の命令なんだから。
「ふむ、七郎左衛門と勘次郎の縄張りをしかと見分し、判断する!」
殿は縄張りを描いた紙を持って立ち上がって、部屋を出ていった。
俺と信辰が頭を下げて殿を見送る。
俺は殿を見送ったまま、頭を上げずにいる。
「ふん、新参者が出しゃばりおって」
「………」
信辰が捨て台詞を吐いて部屋を出ていくと、やっと頭を上げた。
信長様も面倒な奴を殿につけてくれたよ。
部屋に帰って考えに浸る。
俺がこの世界にきた時に、最初に持っていた物を覚えているだろうか。
スマホ・刀・短刀・水筒・手ぬぐい・財布・壺・米袋。
スマホは置いておいて、まずは刀だ。
俺が持っている刀は、とても切れ味がよくて、しかも傷がない。
ここで気づいた人もいると思うけど、傷がないのはおかしいのだ。
桶狭間の戦いで、俺は義元を始めとして十人くらいは切っている。
しかも、義元の愛刀である宗三左文字を受けている。
信長様の手に渡った宗三左文字には刃こぼれがあったとかで、今は短く研ぎ直されて信長様が使っているそうだ。
それほどの名刀を受けても刃こぼれがない俺の刀はあり得ないだろう。
しかも、桶狭間の戦い以後、一度も手入れをしていないのに、切れ味が変わらないのだ。
血のりがべっとりとついていたはずなのに、切れ味が落ちないのもおかしいし、刀身に曇りの一つもない。
こういったことから考えつくのは、メンテナンスフリーの刀だということだ。絶対に人に話せない。
水筒、手ぬぐい、財布は普通だ。この時代に財布は珍しいが、特に何もない。
問題は壺と米袋である。
まず米袋を簡単に説明すると、無限に米が湧き出る袋である。
袋から米を取り出すと、なんと袋の中に米が入っているのである! びっくりだわ。
おかげで米には困らないのはありがたい。
そして壺である。この壺、手に乗るくらいの小さな壺だけど、壺の口(直径十五センチほど)に通る物であれば、何でも中に入れることができる。
試しに俺の手を入れて見たら、なんと肘よりも上まで入ってしまった。
壺の高さは精々二十センチくらいなのに、俺の肘より上まで入るっておかしくね?
他にも色々試した。例えば、道に落ちていた一メートルくらいの木の棒がスーッと入ったし、口に入るくらいの大きさの石も入った。
どれだけ入れても次から次へと入るのだ。こうなると、思い出す言葉はアイテムボックスだ。
こういったことを考えると、俺って結構チートなのかもしれない。
持っている物がチートな刀だし、米はいくらでも出てくるし、アイテムボックスはあるし、スマホで現代知識を引っ張ってこれるし、ミッションをクリアするとアイテムが手に入るし、本当にチートだ。
俺をこの時代に送った存在はいったいぜんたい俺に何をさせたいのだろうか?