037_今孔明
一向衆を切って切って切りまくる。
「おらぁっ! 皆殺しじゃ!」
切っても切っても湧いて出てくる。
本当にゾンビのような奴らだ。
「殿! やりますな!」
「おう、利益か!? 俺はやる時はやる男だぞ!」
俺が振り返ると、利益が槍でゾンビを一匹薙ぎ払った。
「がーっははは! 南無阿弥陀仏!」
雲慶が笑いながら金棒でゾンビの頭を潰した。
「雲慶殿、こいつらと区別つかないから南無阿弥陀仏は止めてくだされ!」
「南無阿弥陀仏。伊右衛門、堅いことを言うでない!」
伊右衛門も随分と逞しくなった。
毎日兵らと一緒に雲慶と利益にしごかれているからな。
「殿、この体は本当に某の体でしょうか?」
「藪から棒になんだ、半兵衛」
「これだけ一向衆を切っているのに、まったく疲れを感じませぬ」
その理由は簡単だ。虚弱体質が治り、筋肉増強剤によって屈強な体になったからだ。
だけど、そんなことを言うわけにはいかない。
「いいことだ。お前が元気だと俺も嬉しいぞっと!」
話のついでにゾンビを切る。
何十体のゾンビを切ったことか。
それなのに、俺の刀は血のりはないし、刃こぼれもない。
もう、本当にチート武器だよな。
「殿、周辺に一向衆の姿はありません」
「生きている奴にはとどめを刺せ」
「分かっています」
よくもここまで非道になり切れるものだと、自分自身でも不思議に思う。
多分、一向衆のやってきたことを許せないんだと思う。
あいつら、近隣の女性を連れ去っては玩具にしていた。
今まで自分や家族、それに知り合いのために戦い人を殺してきたが、自分とは関係のない人を殺してやろうと思ったのは初めてだ。
奴らは人間の皮を被った悪魔なのだ。
「殿、夜が明けます。兵に少し休憩を与えましょう」
「半兵衛に任す」
半兵衛が清次と雲慶たちに指示を出した。
この後、古木江城に向かっている一向衆との決戦が待っている。
兵の損耗はないが、一戦した後だから多少の疲れはある。
なんといっても、一向衆は逃げないから二千の一向衆を切り殺さなければならなかった。
普通の武士や兵ならあるていど分が悪いと見たら、逃げるものだが、一向衆は違うのだ。
小一時間の休憩の後、俺たちは本命に向けて軍を進めた。
今回の戦いで一番大事な戦いは終わっている。
鯏浦に向かっていた二千の一向衆を皆殺しにした時点で、俺たちの勝ちだ。
半兵衛はそう言っている。半兵衛がそう言うのであれば、俺はそれを信じて残りの悪魔どもを殺すだけだ。
「殿、この先十町ほどに一向衆が展開しています」
貞次の報告で、およそ一キロ先に一向衆がいると分かった。
それは、古木江城からおよそ二キロメートルほどの場所だ。
「ご苦労。奴らは俺たちに気づいているか?」
「真っすぐ古木江城に向かっていますので、こちらのことには気づいていません」
「半兵衛、作戦は?」
「一向衆が古木江城に攻めかけたところで、突撃します」
「よし、つかず離れず、今の距離を維持するぞ」
一キロメートルならニ十分もあれば詰めることができる。
ニ十分なら古木江城が落ちることもない。あの城は一向衆の襲撃を想定して堅牢な城に造ってあるからな。
造った俺が言うのだから、間違いない。
一時間ほどで一向衆は古木江城に攻撃を始めた。
俺たちも進軍速度を上げて一向衆の背後に攻撃を仕かける。
「いけぇぇぇっ! 悪魔どもを皆殺しにしろ!」
俺は大声で家臣たちに指示を出した。
「うおぉぉぉっ!」
家臣たちが一向衆に突撃する。
俺たちが背後から現れたことで、一向衆は浮足立った。
一向衆は逃げずに無謀にも俺たちに襲いかかってくる。
だが、基本は農民ばかりなので、兵士としての練度は低い。
一対一なら精鋭の俺の兵が負けることはない。
ただし、数は一向衆が四千、俺たちが二千で不利だが、そこに殿の兵が加われば数の不利はかなり縮まる。
「押し込め!」
せっかく浮足立ってくれたので、畳掛けようと思う。
「半兵衛、一人も逃がすな!」
「もちろんです!」
逃がしたら、一向衆の数は減らない。
数を減らそうと思うなら殺すしかないのだ。
「かかれぇぇぇっ!」
城の門が開いた。殿もここが攻めどころと兵を出してきたのだ。
「殿に後れをとるなよ!」
「おう!」
俺がそう言うと。
「勘次郎にばかり活躍させるな!」
「おおぉぉぉっ!」
俺に張り合うなよ。まったく殿は子供なんだから! と思いながらも、殿には負けんぞと思う俺がいる。
「利益殿! 左を突いてもらえるか!?」
「おう!」
左が手薄とみた半兵衛が、利益に指示をする。
この乱戦の中でも半兵衛はしっかりと周りを見ている。すごいことだ。
太陽が高い位置にきている。もう昼だろう。
「半兵衛、残敵は?」
俺は地面を埋め尽くす一向衆の屍を見て、半兵衛に問うた。
「おりませぬ。皆、討ち取ってございます」
「そうか」
見れば分かる。一向衆は皆死んでいる。
「勘次郎!」
殿が走って近寄ってくる。
「殿、ご無事でしたか?」
「勘次郎の言う通りにしたからな。無事に決まっているだろ!」
信用してくれるのは嬉しいが、そこまで盲目的に信じていいのかと俺が思ってしまう。
「今回は半兵衛の策が上手くいきました。某もびっくりしているところです」
「勘次郎もびっくりするのか? ははは。半兵衛よ、よくやったぞ!」
殿はとても嬉しそうだ。
だけど、まだ終わったわけじゃないからな。
「ありがとうございます。されど、まだ一向衆は残っています」
「うむ、蟹江だな。すぐに援軍に向かうぞ!」
「はっ!」
俺は刀を鞘にしまい、殿の命に従った。
俺たちは夕方には蟹江城に攻撃をしかけていた一向衆の後方に出て、攻撃を開始した。
今回は殿のそばで戦い全体を見る。
「勘次郎、俺もいきたいぞ」
「ダメです。家臣たちを信じて殿はここで指揮を執ってください」
俺と半兵衛、それに信辰も殿のそばで待機している。
これは俺たちが出るまでもないということもあるが、殿を前線に出さないために見張っているのだ。
この人、隙あらば前線で戦おうとするからさ。




