031_服部党
鯏党を組織したことで、『忍者部隊を登用しよう!』がミッションコンプリートになった。
【ランクB】
・筋肉増強剤(10人分)×10
【ランクC】
・鉄砲×10
【ランクD】
・鉛玉(100発)×10
筋肉増強剤がよくでる。
これはマッスル部隊を組織しろという天啓なのか?
それとも、俺に使えということなのか?
いずれにしても、一粒使ってみようと思う。
効果について検証もしなければならないし、効果時間も気になる。
いつもの稽古の前に一粒飲んでみると、体中の筋肉が俺に主張するんだ。「俺を見ろ!」と。
ムキムキ……筋肉がまるで意思を持っているかのように活性化していく。
五分ほどして落ち着いたが、筋肉量が明らかに増えた自覚がある。
筋肉三割増しっていう感じだ。
刀を鞘から抜いて振ってみると、空気を切り裂いて木の上の方に生えていた枝を切り落とした。
明らかに刀の届かない場所にあったのに……。
やべー、ただでさえ俺の体は武術の達人なのに、達人を越えたかもしれない……。
筋肉増強剤の効果はあまりにも大きいと実感できた。
実際に家臣たちと木刀で稽古するが……今までも俺が勝っていたけど、清次と伊右衛門の二人がかりでも俺が勝った。
「殿……」
「嘘だろ……」
二人は明らかに強くなった俺に驚愕している。
ついでにいうと、雲慶と利益の二人の化け物相手でも押し気味で戦えた。
「南無阿弥陀仏。物の怪でも憑かれたか?」
「雲慶は俺をなんだと思っているんだ!?」
「化け物でござる」
化け物なのは否定しないが、面と向かって言われると腹が立つ。
「よし、表に出ろ! ぶっ飛ばす!」
「む、殿でござるな……」
こんにゃろ……。
筋肉増強剤がすごいことは分かった。
あとはいつ効果が切れるのかと、切れたあとのデメリットを確認しないといけない。
なんて思っていたことがあった。
あれから三カ月が経った秋の空の下に俺はいるが、一向に筋肉が元に戻ることはなく、デメリットもない。
「ははは……永久的な効果かよ……」
こうなると、服部党との戦いの前に家臣たちにも筋肉増強剤を与えていいかも……。
さすがに兵士全員に与えるには恐ろしい効果なので、信頼できる者にだけ与えるとしよう。
秋といえば収穫の秋である。今年のシイタケも順調に育っていて、収穫は昨年の倍以上になっている。
それだけの原木を用意して植えつけしたからだけど、実際にその量を見ると顔がにやける。
今年も生シイタケを焼いて家臣たちにふるまったら、当然のように大宴会になって、知らないうちに殿までいた。
本当にうちの殿は家臣の迷惑も考えないな。
この頃になると、鯏党から多くの情報が入ってくるようになった。
服部党はこの鯏浦城を攻めたいが、長島(三重県長島町)にある願証寺との折り合いが得られていないようだ。
願証寺というのは東海地方の本願寺(一向衆)門徒をまとめる寺で、影響力が非常に大きい。
服部党にしてみれば願証寺の後押しがないと、尾張国のほぼ全てを支配している織田に手を出せない。
だから願証寺の助力がない限り、防衛に専念するしかないのだ。
「願証寺にも探りを入れることはできるか?」
「やってみます」
「危なかったら、無理に潜入しなくてもいい。危険のないていどのできる範囲でいいんだ」
「分かりました」
貞次に指示を出した後、俺は庭に出て秋の爽やかな空気の中、散歩をした。
俺がこれから戦うだろう相手はあまりにも大きい。
長島を舞台にした一向衆と織田信長の戦いは、歴史上稀に見る虐殺が行われている。
織田信長は一向衆に参加した者の家族も皆殺しにする徹底ぶりで、十万人規模の死人が出たとも言われているのだ。
そんな歴史があと数年で起こると思うと、俺はとても平静ではいられない。
秋晴れの空を見上げる。澄んだ綺麗な空だ。
いつの間にか家臣が住むエリアにまできてしまったようだ。
ん、あれは鯏党の長老か。縁側で子供の訓練を見ているのか。
そう言えば、あの長老の名前を聞いていなかったな。スマホで確認してみるか。
俺はスマホのカメラ機能を起動させて、画面上に映った長老をタップした。
『百地三太夫 : 伊賀の国の忍者の元締め。気が向いたので伊賀から出てきて、悠々自適な生活を送っている』
「………」
おいっ!?
なんでこんなビッグネームがいるんだよ!?
貞次の野郎、えらい大物を連れてきやがったな!
「おや、お殿様ではないですか」
も、百地三太夫に見つかった!?
いや、別に隠れているわけではないけどさ。
「ご、ご老体。いい天気だな」
「ええ、いい天気ですな」
なんて言ったらいいのか、さっぱり分からん!
「子供たちの面倒を見ておられるのか?」
「忍の技は幼き時より仕込まねば身につきませぬからのぅ。っほっほっほ」
「子供たちはしっかり食べていますか?」
「お殿様のご配慮によってしっかり食べさせていただいております」
百地三太夫は俺に軽く頭を下げてきた。
米だけは無限に湧いて出てくるから、いくらでも食ってくれ。
「その子の動きはなかなかなものですね」
一番小さな男の子の動きは、大きな子供たちよりもいい感じに見える。
「ほう、お殿様にはそう見えますかな?」
「忍の動きはわかりませんが、切れは一番かと」
「ほほほ。才蔵よ、お殿様に褒められたぞ。よかったな」
「はい!」
男の子が元気に返事をしたが、才蔵だと?
百地三太夫と才蔵……霧隠才蔵!? まさか、真田十勇士の霧隠才蔵じゃないよな?
真田十勇士はもう少し後の時代の人物だと思うから、人違いだと思うけど……。
「どうかしましたかな?」
「いや、なんでもない」
「そうですか。ほほほ」
なんだか色々と見透かされている感じの人だな。
しかし、なんでこんなところで百地三太夫は油を売っているのかな? 物見遊山ではないよな?




