003_運命の桶狭間
俺はそこそこ体を鍛えている。
山道は歩きなれないので苦労したけど、平地なら問題ない。
そんな俺は行き倒れの男性を担いでなんとか平地にでた。
完全に昔の日本の風景だ。テレビとかで見たような風景である。
「あそこに家があります。少し休憩をしてもいいですか?」
「担いでもらっている俺がダメとは言えぬ」
「それもそうですね……」
男性は相当急いでいるようだが、さすがに男性を担いで山を下りて歩き詰めだから俺も結構へばっている。
「そう言えば、お互いに名乗っていませんでしたね。俺は佐倉勘次郎です。よろしくお願いします」
「俺は……彦七郎だ」
「彦七郎様ですか」
武士なら苗字があるはずだけど、名乗らないということは言いたくないのだろう。
俺を警戒しているのかな? こんなに親切にしてあげてるのにね~。
家は農家のようで、みすぼらしい恰好の一家が住んでいた。
「ここはどこだ?」
彦七郎様が農夫に尋ねているが、俺にはさっぱり分からない地名だ。
「勘次郎、もうすぐだ。もうすぐ、味方の城だぞ」
「分かりました」
これは早く担いでいけと言う意味だろう。仕方がないな。
彦七郎様を担いでまたしばらく歩いたら、本当に城についた。
俺が知っている姫路城とか熊本城のような立派な城ではなく、砦って感じだけど。
俺たちが城の前にいくと、兵士に取り囲まれた。
「俺は織田彦七郎信与だ! 通せ!」
えっ!? 織田?
えーっと、織田と言うと、信長とかの織田?
名前も「のぶとも」だから、似ている。一族か何か?
「勘次郎、何をしている。早く入れ!」
「え、あ、はい」
彦七郎様を担いだまま、俺は城の中に入っていった。
「彦七郎様! ご無事でしたか!」
顔面凶器のような男性が出てきた。
「む、その者は?」
「この者は、俺の従者の佐倉勘次郎だ」
「ほう、従者ですか。しかし、デカいの」
あんたは態度がデカいけどな。
彦七郎様と別れた俺は別室で握り飯を食っていた。
多分、普通の時に食ったら塩味もついていないので、それほど美味いとは思わなかったけど、昨日から水しか飲んでなかったので、めちゃくちゃ美味い。
空腹はどんな調味料にも勝るね。
さて、腹も膨れたし、あれを確認するか。
俺は部屋の外に誰もいないのを確認して、懐からスマホを取り出した。
【ミッションコンプリート】
『ミッション、行き倒れを助けろ! をクリアしました。報酬としてプレゼントをランダムで三個獲得しました』
メールに受信されていた文を読み、なんだか少し嬉しくなった。
今の状況に納得しているわけではないが、それでも何だか達成感がある。
早速、プレゼントを確認しよう。
わけの分からなかったプレゼントのアイコンをタップすると、画面が変わってプレゼント一欄が出てきた。
【ランクE】
・塩(10Kg)×10
・清酒(小樽)×10
・ミカン飴(20個入り)×10
なんじゃこりゃ?
なんか期待外れ感が半端ない。
特にミカン飴ってなんだよ!? 子供じゃないんだから、飴ちゃんで嬉しがるわけないだろ!
「勘次郎! 勘次郎はどこだ!?」
「は、はい!」
スマホを見て憤っていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「勘次郎! いくぞ!」
「え? いくってどこにですか?」
「決まっておろう! 清須の兄者のところにいくのだ!」
清須? 何それ? 兄者の意味はわかるけど、清須って何!?
「お、俺もですか?」
「勘次郎は俺の従者であろう! 早くしろ!」
「は、はい!」
なんだか、勢いに負けて返事をしてしまった。
「待ってくださいよ~」
「速くこい!」
城を出た俺たちは走っていた。
てか、俺は自分の足で走っているけど、彦七郎様は馬に乗っているんだぜ。卑怯だと思わない?
足を挫いていても、馬なら速いのは当然だよ。
「ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ……死ぬ……」
「だらしがないぞ、勘次郎!」
馬に乗っているんだから、あんたはいいよね。
俺たちはそこそこ家が立ち並ぶ町にきていた。ここが清須なのか?
「あそこだ!」
彦七郎様は馬に鞭打ちスピードを上げる。
俺のことを完全にマラソンランナーか何かだと思ってないか?
この城は結構立派な造りだ。なにより城壁が木じゃないから、最初にいった城よりはるかに立派に見える。
俺は城に入って倒れるように地面に寝転がった。
「もう無理」
「だらしがないぞ、勘次郎」
「勘弁してくださいよ……」
彦七郎様は近くにいた人とひと言ふた言話をしてどこかへいってしまった。
俺はなんとか起きれるようになると、地面に座った。
「どうすればいい?」
ここがどこで、俺は何をすればいいのだろうか?