021_嫁取り大作戦
「ははは、お由さんは裁縫が得意なのですね!」
「得意というほどでは……」
もじもじする彼女も可愛いぞ。
ん、なんでお由さんと親しそうに話しているのかって?
あれから、俺は何度もお由さんの家を訪れているのだ。
その甲斐あって、お由さんと普通に話せるまでになっている(どや顔)!
お由さんに結婚を申し込むにしても、彼女が俺を嫌っていてはダメだ。他に好いた男がいてもダメだ。
結婚は加藤様に申し入れることになるが、俺が申し込んだら加藤様もそれなりの理由がなければ断らないと思うんだ。
だから、彼女の気持ちを無視して話が進むことも考えられる。
だから、彼女が俺を好いているのか、それを確かめてから結婚を申し込むのだ。
決して、俺自身がフラれるのが怖いわけじゃない!
「お由さん……」
「はい……」
俺はお由さんの手をそっと握った。
彼女はそれを嫌がらずに受け入れてくれた。
これは脈ありと思っていいと思う!
「その……俺はお由さんが好きだ!」
「……私のような醜女を……」
「お由さんは醜女なんかじゃない! 俺にとっては女神様だ!」
「嬉しい……」
顔を伏せて恥じらう彼女のその仕草がいい!
「あらまぁ、いい雰囲気だこと」
「「っ!?」」
お丸さんが現れた!
お由さんの手を握っているところを見られてしまった!
「ご、御母堂! お由殿を我妻にください!」
勢いだ! もう勢いしかない!
「はい、どうぞ。お由をよろしくお願いしますね」
「よ、よろしいのですか!?」
「断る理由はございませんよ。ただ、この子の父親にお話をしていただけますか」
「はい!」
数日後、俺は加藤様の屋敷ではなく、お由さんの家に向かう。
加藤様がお由さんの家にくる予定の日なのだ。
俺は新調した服にそでを通して、ビシッと決めてお由さんの家へ向かう。
今回は清次と藤次が俺のお供で、結納品として清酒を二樽と馬用ニンジンを食べさせた馬を用意した。
「殿、そろそろお由様のお宅ですぞ」
「ああ、緊張するな。清次」
「旦那様なら、大丈夫だがや」
「そうだといいんだがな。藤次」
実をいうと、お丸さん経由ですでに加藤様に俺とお由さんのことは伝わっていて、許可も出ているそうだ。
だから、今回は結納品として酒と馬を用意したわけだ。
「佐倉勘次郎です。よろしくお願い申し上げます」
俺はしっかりと頭を下げて加藤様に挨拶をした。
「加藤順盛です。よしなに」
商家の当主だけあって、なかなか穏やかな表情だ。
だけど、それに騙されてはいけない。商人というのは強かなのだ。
「さっそくですが、佐倉様。本当にお由を嫁にと望まれるのか?」
柔和な笑顔の奥底にある鋭いものを感じる。
「私のような者にはお由さんは勿体ないお方です。それでも、是非にもらい受けたく存じ上げます」
再び頭を下げる。今度は軽くだけど。
「お由は親の某から見ても大女ですぞ? 胸も鳩胸ですし……」
それがいいのだ! それでなければいけない!
「私から見ればお由さんは小柄でございます。なにとぞ、私の妻に!」
今度は深々と頭を下げた。
「ふむ……分かりもうした。このままではお由も行き遅れとなってしまう。佐倉殿にお任せいたします」
加藤様が頭を下げた。
「むぅ……これほどの馬を……」
加藤様の了承を得たので結納品をお渡しすると、筋骨隆々の馬を見て加藤様が唸った。
風丸を見る限り馬用ニンジンを食べた馬は三国志に出てくる赤兎馬にも勝るとも劣らない馬になる。
赤兎馬なんて見たこともないけど、それくらいすごい馬になるということだ。
「この酒は……」
この時代の酒は濁った酒しかない。
俺が持ち込んだ清酒は透明だから珍しいのだ。
「水ではないのか?」
ずっこけた!
「いやいや、加藤様……」
「ははは、冗談だよ。これほど芳醇な香りがする水などあろうか」
「変な冗談は止めてくだされ……」
こうして俺は加藤様のご息女であるお由さんを嫁に向かえることになった。
嫁入りは今年の十月。ぐふふふ、待ち遠しいなぁ~。
「殿、だらしない顔は止めてください」
「清次さん、旦那様は嬉しいんだがや。男やもめは辛いって聞くからにゃぁ~」
「二人ともうるさいぞ!」
「「ははは」」




