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020_嫁取り大作戦

 


 シイタケ栽培のための菌糸集めをして夏が終わった。

 原木の方は椎に拘らなくても、クヌギやコナラでいいらしいので、それほど苦労はない。

 特にコナラはそこら辺の雑木林にあるような木なのだ。


 ただ、シイタケの方は簡単ではない。

 まず、シイタケが生えているのを探さなければいけなくて、それが大変だったのだ。

 シイタケを見つけないと菌糸の採取もできないのだ。


 ちょっとだけ触れておくと、信長様は小口城攻めに失敗している。

 小口城はなかなか堅牢な城のようだ。


 さて、俺の方にも動きがある。

 俺はシイタケ探しであちこちに赴いた。その時に俺のタイプの女性に出会ったのだ!

 ただ、その女性の父親がちょっと難しい人なんだよ。

 性格が悪いというわけではなく、立場がちょっと微妙なのだ。(性格知らんけど)

 彼女の父親は加藤順盛(かとうよりもり)様といって、熱田の商家の当主なんだけど、熱田神宮の神官もしている。

 しかも、桶狭間の戦いの時に熱田神宮へ戦勝祈願に赴いた信長様を出迎えて相手をした人でもある。

 息子の弥三郎様は桶狭間の戦いにも参戦していて、信長様の小姓だった。

 かなり信長様と近しい方なのだ。

 その加藤様の妾の子なのが俺のタイプの女性なんだよ。

 妾の子なので、加藤家には入っていないが、それでも父親が加藤様なのは変わりはない。

 正直いって、どうやってアプローチしようかと迷っているところだ。

 女性と話すことはできるけど、好みの女性と話すのは苦手だ。なんだか緊張して、思ったことを喋ることができないんだよ。


 彼女の名前も知らないのに、父親の名前はすぐに分かった。

 あの家が加藤様の家なのは有名なのだ。近所の人が教えてくれた。

 彼女の母親は加藤様の妾なので、熱田ではなく清須に屋敷があって、そこで囲われている。

 母親よりも父親に似ている彼女は、背が百七十センチ近くあって胸が大きい。

 今年で二十一歳になるが、大女と鳩胸ということもあって縁談はないそうだ。

 だけど、現代日本で生まれ育った俺にとっては、どストライクなのだ。


 父親が加藤様ということなので、彼女は特に働いてはいない。だから、なかなか家から出てこない。

 これでは話をしたくてもできない。それ以前に俺が彼女に話しかけられるか疑問である。

「はぁ……」

 彼女の家の前で出待ちである。はたから見たら絶対に怪しいよな?


 夕方近くになって日も傾いてきたので、今日は諦めて帰ろうと思った時だった。

 彼女が使用人と思われるお婆ちゃんを伴って家から出てきた。

 彼女に話しかけるのは今だ! と思うけど、足が動かない。

「あ……」

 路地を曲がった彼女の姿が見えなくなった。

「……俺のヘタレめ……」


 とぼとぼと家路を歩く。一応、清須に宿をとっているので、宿までの道だけど。

 彼女にどうやったら話かけることができるのだろうか?

 俺に勇気がないのがいけないんだけどさぁ……。


「きゃぁぁぁ」

 なんだ!? 

 俺は悲鳴が聞こえた方に向かって走り出した。

 そこでは、あの彼女が酔っぱらいの親父三人に絡まれていて、お婆さんは地面に尻もちをついていた。

「待てやぁぁぁっ!?」

 俺は無意識に酔っぱらいのおっさんを蹴り飛ばしていた。

「何すんだぎゃぁっ!」

「うるさい! 公然の場で婦女子に乱暴狼藉! 許さん!」

 俺に向かってきた酔っぱらいの手を取ると、その勢いのまま背負い投げをしてやると、おっさんは「ぐぎゃっ!?」と悲鳴をあげて苦しがった。

「ききき、貴様!?」

「まだやるか!?」

 俺が凄むと、無事な一人は後ずさって逃げ出そうとした。

「おい、この二人を連れて帰れ!」

 襟首を掴んで逃げるのを阻止した俺は、地面に倒れている二人を指さして、連れて帰るように諭してあげた。優しい俺なのだ。


 もう二度と悪さをするんじゃないぞ!

「まったく、酔っぱらいときたら……」

 パンパンと手をはらい、俺は酔っぱらいたちの後ろ姿を見送った。

「あ、あの……危ないところをありがとうございました」

 振り向いたらそこには彼女がいた。

 おおおぉぉ~い、どうしよう!

「お嬢様を助けて下さり、ありがとうございます」

 お婆さんもお礼を言ってきた。そうだ! お婆さんとなら話せる!?

「大したことはない! 大事ないか?」

「はい、この通り。っ!? いたたた……」

「どうした!?」

 お婆さんが腰を押えて蹲った。

 どうやら、先ほど倒された時に腰を痛めたようだ。


「ばあや!? 大丈夫!?」

 おっと彼女がお婆さんを助け起こそうとした俺と急接近だ!?

 い、いい匂いがする……。

「あ、あの……」

「おっ!? 俺の背中を貸そう!」

 彼女の胸元あたりに向いていた俺の視線を誤魔化すように、俺はお婆さんに背中を出した。

「いえ、そんな……」

「さぁ、乗りなさい!」


 そんなわけで、俺は彼女の家までお婆さんを背負ってきた。

 ふふふ、なんという幸運であろうか!?

 こんなにすんなりと、彼女の家に上がりこめるなんて思ってもいなかった!

 そう、俺はお茶でもという彼女の誘いによって、彼女の家に上がりこんだのである!


「娘を助けていただき、ありがとうございました」

 彼女の母親にお礼を言われて、お茶が出てきた。

「いえいえ、大したことではありませんから」

 彼女が横にいるけど、彼女と話すのでないので、母親とは普通に話せる。

 これは彼女の母親に好印象を与えるチャンスだ!

「お婆さんは大丈夫でしたか?」

「はい、軽い打ち身のようです。今日一日休めば治ると本人も言っております」

「それはよかった」

 俺は彼女の母親と会話をしていくうちに、自己紹介をしていないのに気がついた。

 これだけは絶対にしなければいけない!

 俺の名前を彼女と母親に覚えてもらわなければ!


「これは失礼した、私は織田彦七郎信与様に仕えています、佐倉勘次郎ともうします」

「これはご丁寧に、私はお丸、この子はお(よし)と申します」

 母親がにこやかに自己紹介をしてくれた。

 彼女はお由さんというのか、脳内メモリーにインプットして保護もかけたぞ!

「え、佐倉様……今川義元様をお討ちになられた?」

「あ、はい……」

 俺の名前をお由さんが呼んでくれた! なんて、嬉しいことなんだ!

「まぁ、あの佐倉様でしたか。知らぬこととは言え、失礼しました!」

「いえいえ、俺など大したことありませんから」

「そんなことはありません!」

 お由さんが大声で否定してくれた!

「これ、お由。大声を出してはしたないですよ」

「あ、申し訳ありません」

 薄っすら頬を赤くする彼女は可愛いな。


 

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