018_嫁取り大作戦
今日もいっぱい働いたな。
今は夕食も終わって、自室でゆっくりしているところだ。
時代劇はあまり見たことないけど、映画だとここで行灯の光を頼りに本なんかを読むんだろうな。
だけど俺はそんなことをしない。俺がするのはスマホを弄ることだ。
そういえば、カメラもあるけど使ったことないな。
ふと思い、カメラを起動させてみる。
写真と動画が撮れる普通のカメラだ。いや、ちょっと待った。
このアイコンはなんだ?
画面右上にあるアイコンをタップしてみると、画面が緑とか黄、それに赤になった。
……これ、赤外線カメラか?
スマホにそんな機能があったのかと、思わず自分を映してみると、色のコントラストで人影が映った。
珍しい機能だけど、それだけと言えば、それだけだ……。
そんな感じで色々な角度で部屋の中を見てみて、ふと床を映したら……。
「ワッツ?」
板張りの床の一部が赤くなっている。
しかも何だか人が蹲っているような感じに見えるのは、俺の目の錯覚だろうか?
これはもしかして、もしかしなくても、人影?
お菊さん? 藤次か? ……んなわけないか。
でもなんで俺の家の床下に人がいるのかな? まさか、忍者か!?
その時、俺の指が画面に触れてしまった。
「え?」
なんということでしょう!?
スマホの画面には、文字が表示されています! いや、文字があっても不思議はないけどさ……。
『サダジ : 服部友貞に雇われた忍者。古木江城と佐倉勘次郎を探っている。』
なんといったらいいのか分からない。
つまり、このスマホは映した人の情報を表示してくれるのか……。チートだな、おい!
今はスマホの機能は置いておいて、このサダジという忍者が俺の足の下にいるということを考えよう。
スマホからの情報では、俺のことを探っているということだが、暗殺対象ではないとはいい切れない。
仮に暗殺は指示されていなくても、俺の足の下に誰かがいるのはさすがにいい気分ではない。どうしたものか?
……よし、成功するかわからないが、やってみるか。
「スーーー。フーーー」
大きく息を吸って、吐き出した。よし!
「サダジ、いるのは分かっている。出てまいれ」
「っ!?」
床下でサダジが動揺したのが俺にも伝わってきた。
スマホの赤外線機能がなかったら分からなかったし、スマホの情報機能がなかったら名前も分からなかったけど、サダジを動揺させるには十分だったようだ。
「何もせぬ、はやく床下から出てこい。少し話をしようではないか」
偉そうなこと言っている自覚はある。
あまり詳しくない俺でも知っているのは、服部半蔵とか風魔小太郎のような忍者だけど、忍者は俺たちが思っているようなカッコイイものではない。
徳川家康に仕えた服部半蔵は江戸城に半蔵門とか残っていて、すごく優遇されていると思う人が多いかもしれないけど、忍者の地位はかなり低いのだ。
侍とか武士っていわれる人は手柄をあげれば、地位も上がることが多いけど忍者はそうじゃない。
忍者を常時雇っている人はあまり多くない。
有名なのは武田信玄の透波、上杉謙信の軒猿、北条家の風魔党だけど、特定の主に仕えずに依頼を受けて働く忍者の方が多いといえる。
今回のサダジは服部友貞に雇われた忍者だから、後者の方だろう。
ちなみに、服部友貞は服部半蔵と関係はない。
伊賀の出身らしいから先祖は同じかもしれないけど、服部友貞はこの古木江城から海側へいったところにある、荷ノ上(現在の愛知県弥富市にある)という城を支配する服部党の当主なのだ。
もしかしたら逃げるかと思ったが、サダジは床下から出てきて俺の前に姿を現した。
暗闇に溶け込むように黒い衣装に身を包んで、顔も覆面をしているから目しか見えない。
ただ、その目がまるで狼のようにギラついていて、今にでも襲いかかってきそうだ。
「服部友貞殿がお前を雇ったのは知っている」
サダジが身構えたので、俺はそれを手で制した。
「何もせぬ。俺の話を聞くだけでいい」
「………」
サダジは腰の後ろに刺している忍者刀から手を離した。
ただ、ここで警戒を解くわけにはいかない。
忍者の武器といえば、手裏剣もあるだろう。いきなり手裏剣が飛んできたらシャレにならん。
「サダジがいつまで服部殿に雇われているかは知らないが、その依頼が終わったら俺の家臣にならないか?」
「っ!?」
サダジの目が大きく見開かれた。
「いや、俺さ、一年前まで浪人だったから、家臣がいないんだ。何度か戦功を立てたことでそれなりの家禄を得たけど、家臣がいなくて困っているわけだ」
「俺を雇うと言うのか?」
お、喋ったな。少しは興味を引いたってことかな?
「俺は足軽大将だから、まずは足軽ってことで、どうかな?」
「っ!?」
「サダジが望む額がどれほどになるか分からない。他の家臣の手前、あまり多く与えることができないけど、俺の家臣として働く気はないかな?」
せっかくなので、勧誘してみた。
だって、ミッションで家臣を最低三人ゲットしろと言われたけど、家臣の目途なんて立っていないんだよ。
それに忍者の家臣がいるなんて、カッコイイじゃないか。
「信用できないな」
「まぁ、今日初めて会ったわけだから、そう思うのは仕方ないな。でも、サダジも忍なら俺のことはサダジ自身で調べ上げて、判断するといいと思うぞ」
「ふ、俺があんたを調べているのを知っていて、放置するのか? その情報が誰かの手に渡るのだぞ?」
服部に雇われているというのは、言わないのね。
まぁ、そこで服部の名を出したら、俺でもドン引きだけどさ。
「俺の情報が服部殿に渡っても困らないぞ。あ、できれば、嫁を探しているから紹介してほしいって伝えてくれないかな? 俺の好みはボンキュッボンだ!」
手で、ボンキュッボンをジェスチャーする。
顔の好みもあるけど、顔の方はあまり拘っていない。ボンキュッボンが優先されるのだ!




